49/魔法騎士ユサン④
このクッタリアへの死霊術師討伐の旅路は私にとって役得の連続だった。あの気に入らない男もいない。
「そうだ。ユサン。よくできたな」
私が本日二度目の電撃に撃たれた。
私を褒めるその笑顔が眩しい。直視できない。
今日でもう何日目だろうか。私はルアーノに魔法について詳しく、実に詳しく教わった。
この旅が永遠に終わらなければいいのにとも思ってしまう。
この部隊で最も魔法に精通しているルアーノと私は二人っきりで馬車に乗っている。私がへまをして誰かが傷を負ってはいけないという計らいであったが、私にとってはそれ以上だ。
毎日拝める太陽の下と月の下での彼の横顔。彼は初めとっても冷静な人で近づきがたいのだと思っていたが、日を重ねるごとに急速に彼との距離が縮まっていくのが分かる。
これは勘違いではない。
彼は人見知りなのだろう。彼の過去について詳しく聞きたかったが話したがらない。
しかし、今は私への信頼のこもった笑顔、それだけで十分だ。それほど魅惑的だ。私は意識を集中する。
私の右手に持った大きな水晶の塊が光り出す。
「よし。いいぞユサン。もっとだ」
彼に渡されたこの水晶は南の地では町村に一つあるかどうかのそれなりに普及している物で、大気中のマナという物を集めて稲妻に変えるらしい。
それが水晶の中で輝く。魔法の素質のある者もための練習に使うらしい。これが一つの私のこの旅での試練であった。
「よし。次はこっちだ。ユサン」
彼に名前で呼ばれるのはとても心地がいい。あの女の気持が今ではとてもよく分かる。
私は次に左手に持ったただの石に集中する。この石を次第に大きくする。それがもう一つの私に与えられた試練。大気中のマナをこの石に纏わり付かせて石にする。が、これがなかなか上手く行かない。
「もう一度だ」
名前を呼ばれなかった事が少し寂しい。
この旅で彼には色々な考えを教わった。彼はとても博識である。
この第二の試練はノートルニア信仰における大地と人の創造ととても似ているらしい。マナ信仰でいえば精霊の力を再現するということだとも教えてくれた。そのマナもノートルニア信仰では魔源という妖しげな術に分類されるらしい。
私は彼のことがもっと知りたくなり、私には似合わない人付き合いをたくさんした。あの女とも仕方がないから話した。全ては彼のためである。
その中で、彼の友人と自称する者から彼のルーツを知った。
彼は見た目では普通の人間、十分普通ではないのだが。彼の母親が南の種族で父親が人間であるらしい。
過去の戦乱で彼を身籠った母親が故郷である南の地で彼を育てる事にしたそうだ。しかし、耳の尖っていない彼は人間として扱われ、母親共々、散々苦労したそうだ。その扱いに耐えかねた母親が彼を伴ってこの人間の国へと逃げのびたのだという。それから彼は自分を人間として誇りに思い、人間のために尽くそうと決めたそうだ。
私はあまりに可哀想になりそれから彼を見る目が変わった。
彼には心が許せそうだ。そう、彼には心をもっと開くべきだと。
それから私は積極的に彼に話しかけ、魔法の鍛錬の隙をついて彼に名前で呼ばれるまでになったのである。
そして、夢のような時間は過ぎ去り例の町に着いた。町は酷い有様だった。
誰一人見つからない。家の屋根には石弓があり、町の所々に投擲機が設置してある。酷い臭いもした。その正体が山の様に積まれた骨と肉の焼けた物であった。
ここで一体何があったのか。そんなこと知る由もない私たちは町中を隈なく探して、やっと一枚の手紙が見つかった。
――ナルシアにて救援を待つ。
ただそれだけ書きなぐってあった。ルアーノはすぐさまナルシア行きを決断し、私たちを導いた。流石である。