48/兵士ローバス⑩
私たちは今ナルシアへの交易路を馬車で進んでいる。
司祭ヒリエムからの提案で町の怪物が少しでも少なくなった今、ナルシアまで逃げるのはどうかと言って来た。
ナルシアに残る旧時代の砦に立て篭もり、救援を待とうということだ。
私は初め戸惑っていた。果たして、ナルシアに怪物がいないのかと。
しかし司祭からの強い勧めで町には置手紙を残し、ナルシアで救援を待つことにした。もう人々が限界だったのもある。あんな屋根の上で怯えながら夜明けを待つのは無理だった。
私もだ。
少しでも今より安全な場所を。安心できる空間を。
怪物が我々を追ってきたとしても何だ。食糧も底を尽き始めたあんな町よりも要塞といわれるナルシアの方が気持ちがまだ持つだろう。まだあんな光景に耐えられるだろう。
私たちは子供たちを優先的に馬車に乗せ、後は持っていける物を載せられるだけ載せた。
武器などは軽い物しか持っていけないが無いよりはましであろう。対して時間はかからない。たかが数十キロだ。
その考えは甘かった。
また待ち伏せされたのだ。
「おい。あれ。隊長。あれを」
人の形をした怪物たちが荷車を並べていた。私たちを足止めしようとしている。しかし、幸運なことに足の速い動物の怪物は見当たらない。
あの共食いで全部だったのだ。
「馬をもっと速く走らせろ!」
「それでは激突して――」
「当たるのは先頭のこの馬車だけだ。乗っているのは私と君だけだろう。後は余計な武器だ。こんな物はここで奴らに体当たりをする重しにでもしてしまえ」
「それで私たちは」
「後ろの馬車に乗り移るぞ。早く準備をしたまえ!」
私たちに前進以外の選択などない。