46/兵士ローバス⑨
私たちは異様な場面を見ていた。今夜も町にはあの怪物たちが徘徊しにきていたが、今までとは違った。共食いをしているのである。
初めの頃に徘徊していた怪物たちは後から来た怪物たちを見とめるや否や襲いかかった。
後から来た怪物たちも負けじと戦う。後から来た怪物たちは何だか腐敗が進んだ物が多かった。それに武器まで上手く使っている。こんなことがあるのだろうか。これはもしや死霊使いなどではなく何かの争い。そう縄張り争いなのか。
意味が分からない。
殴り斬りつけられ、体液を撒き散らしながら怪物が倒れて行く。方や今までの怪物たちと違い、首を叩き潰されただけ身動き一つ取らなくなる新手の怪物たち。
まるで異種族同士の戦いを見ているようだ。
「ローバス隊長。何ですこれは……」
私にだって分からない。教えてほしいのはこちらの方だ。
「あの新しい奴ら。私たちまで襲ってきませんかね。今の内になんとかしないと」
混戦のなかどうやって見分けるのか。それに徘徊していた化け物だっていつ何時襲いかかってくるとも分からない。
「駄目だ。何も行動をするな。奴ら目の前に同類を始末するのに夢中だ。このままやり過ごせるかもしれん」
私にはこれが精一杯だ。何が起こっているのか分からない以上、迂闊な行動をする訳にもいくまい。
共食いといったのは間違いであった。
共食いとは同種同士で行うものだ。
私の知る限り、死霊術ではこういた事が起こるなど記されてはいない。これがもし死霊同士の共食いであるなら術者が二人いると言うことになる。
そんな事あってなるものか。
もっと知識を思い出そうとする。死霊術の他にも死体を操る事が出来る可能性がある物といえば、東の地の泥人形や石像が意思を持つといった物か。
一つの考えが浮かんだ。人がこれと同じではないかとも書いてあったな。それでは何か。この怪物は生物なのか。
そんなことは馬鹿げているが。これは魔物であると言われてしまったら、信じるほかない。私たちにとって未知の現象による生物的存在は全てが魔物だ。これはもしやその魔物なのか。私たちの未だに知りえない何かなのか。怪物同士の戦いを一晩中眺めたが答えなどでない。でるはずがなかった。
一晩中怪物たちは戦い続け、結果、翌朝には数えるほどしかいなかった。
石弓をとり、それぞれの怪物の動きを鈍らせた後、止めを刺しに私たちは下りて行った。
怪物は抵抗せずに、首を落とすと元の死体に戻った。
町には死体に戻っていない肉片も大量に蠢いていたのであの夜の様に集めて火を付けた。その後には骨やらが残っている。あの夜は私たちの骨であったが、この日は怪物の骨が残っていた。
やはり、あの新しい怪物は違う物のようであった。