36/兵士ローバス⑦
あの夜から既に数週間が経っている。あれから怪物がこの町に現れる事はなかった。安堵する町の人々だが、まだ私には終わったとは思えず町の警戒命令を取り下げてはいない。
町から人々がかなり旅立ったため今日まで持ち堪えたが、そろそろ行商でも町に来なければ食事が野菜のスープだけになってしまう。この町では麦や米は作っていなかったため、周辺の町村や王都へ売るための植物と町にも植えてある果物などしか取れない。
ナルシアの町はどうであろうか。町の人の話によるとしばらく前に貴族が来て、商人などで賑わっていたらしい。
今はどうであろうか。この町のように怪物に襲われてしまったのだろうか。
馬鹿げた話だと気にも留めなかったが、今となっては貴族が何かとても嫌な物を掘り当ててしまったなんてことになっていなければ良いがと勘ぐってしまう。
私の予想は外れ、あれがいったい何なのか検討は全くつかない。
そろそろ一度ナルシアの様子を見てこなければならないな。
外の見回りをしつつ王都の方角へと目が行ってしまった。私の中では思い出したかのように怒りがふつふつと込み上げてきた。
それにしても遅い。コーマックは何を手こずっているのだ。まさか私の話を信じず直訴の手紙を破り捨ててなどはいないだろうな。あの男なら有りえた。いや、あまりに信じられない事態なのでそれが当然だろう。直訴などして間違いでしたでは折角納まりが付いた奴の首が飛ぶ。そんな事をコーマックが許すはずがない。
しかし、信頼もしているのだ。奴は私が悪ふざけで文など寄越さぬと知っているはずである。そうだ何かあったのである。
そこで厭な考えが浮かんでしまった。ジャーン君である。
彼がもし途中で怪物に一人襲われでもしていたらと思うとぞっとした。未だにコーマックへと情報が伝わっていないとしたら。そんな事はあってはならないが。まだ怪物が森の中にでも潜んでいたら、ここは完全に陸の孤島ではないか。
私にも新たな決断が迫っているのだと感じた。信じて救援を待つか、凶悪な怪物を引きいれる可能性を内包したまま王都へとこちらから出向くか。ナルシアへと行くのは無駄かもしれない。既に怪物の巣窟であったなら、私たちは奴らに餌をわざわざ届けに行くのと同じである。それでは王都へ危機を知らせ用意させる間もなく多くの被害が出る事だろう。
私は悩んだ。
可能性を考えだせば終わりがなかった。決断を先延ばしにするのが無難か。後少し、食糧が底を突く寸前まで待ってみよう。それで怪物が現れなければ王都へ向かってもよいかもしれない。
私はもう失敗をしたくなかった。どうにか安全策の道はないかと模索し続けた。