33/町娘ララ①
父も死んでしまった。この町にいる理由はもうない。
「へへっ、そこで俺は化け物にこう一太刀、こうな。一太刀入れたんだよ。ララ。聞いてるのかよ?」
隣ではダミが得意げに闘いの様子を語っている。
知っている。
二階から彼の戦う様子は見ていた。馬に蹴られそうになった時も、後ろから犬に噛まれて飛びあがっていた時も。見ていたのだ。
王都へと向かう馬車には大勢いる。あれから吹っ切れたように明るいラエおじいさん。何があったのか聞いても教えてくれない。私と母はダート元町長の誘いを受けて王都へと行くことになった。
ダミもティッカーさんもいるが、トッドさんは北の大地へと行くらしい。珍しい事だ。彼は町長には一番良く従った養子であったのでそれには大いに驚いた。
ジャイは町に残って母と酒場の娘の世話をするらしい。私も誘われたが、私の居場所などあそこにはないだろう。
兄と父、チャップスを失った町。こんな町にはもう吐き気がする。
ダートにも、あの父を殺したローバスという兵士にも。
しかし、こんな世で女だけで生きるのは辛すぎると母に説得された私は、ダミを選んだ。しばらくは彼にそのことを伝えるつもりはない。
まだまだ情けない男を舞いあがらせるのは彼の父への嫌悪感もあり癪であった。王都に仕事があればいいが。農業を営んでいた者は雇い主が国になるだけだが、私や商売をしていただけの求められていない職能を持った者に居場所があるのであろうか。
ダートは自信があるらしい。コネでも持っているのかしら。
私たちには北のライマーン地方へ行くことも近くのナルシアに行く選択もあった。しかし、異国の地で余所者として扱われるのもクッタリアの近くで再び怪物に襲われるか怯えながら暮らすことも選ばなかった。
新天地でやり直す意思も故郷を忘れられなくてその近くの砦に住む覚悟も私にはない。
私にはただ家族と、そして明るい暮らしをしたいと言う小さな欲望しかなかったがその夢は儚くも散った。私は王都で幸せを見つけられる事ができるだろうか、これ以上親しい人を失わずに済むだろうかそれだけが心配だ。