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クッタリアの魔物  作者: 赤異 海
31/59

31/兵士ローバスの闘い(前半)

 異常に気付いた時にはもうすでに遅かった。外でおこる闘いを見守るために人々が窓に詰め寄る。部屋から出て行く者など誰も気にしなかったようだ。町に留まらせていた行商の男が仲間を置いて逃げるために馬小屋へと走っているのが二階から見えるので叫ぶ女子供。


「何してるのあれ!」


「えっ?扉を開けていったの」


 その声が私の方まで聞こえる。


 男も必死なのだろう。扉を閉める時間など惜しい。


中の女子供がどうした。自分の身も守れないならこれからどうするのか。


そんな身勝手な思いの現れか。男は振り返ることなく、自分たちのために戦う戦士すら見止めることなく走り去る。


それを私たち屋根の上の射手たちも見つけた。


「あいつ……。隊長討ちますか。」


 捜索隊で生き残った、身の危険を感じていた兵士だ。


賢い選択だ。


その場所なら恐怖に負けることはないだろう。


「止めろ。泳がせておけ。そんなことよりあの熊に一斉射だ。用意ぃ!」


 残った射手たちを私は指揮し、味方の援護をする。


一握りでも生き残る者が増える事を信じて。その指は石弓の引き金をゆっくり絞る。


「今だ。放てぇ!」


 熊が一人の兵士を押し倒した隙に矢を体中に浴びせた。


怪物の性質を理解しかけている者は関節を狙う。強大な腕にローバスの射た石弓の太い矢が入り来む。腕を振る事など直ぐには出来まい。


馬乗りになられる既の所で這い出る兵士。


私は石弓から手を離し、弩に持ち帰る。その前に石弓を台座から外して足にかけ弦を強く引っ張る。ほとんどの者が目前で戦っている。私のいる屋根に他の者はいない。今いる者だけで回して怪物退治をしなければならない。折角の矢を無駄にはしない。全て奴らに撃ち込んでやる。


行商の男が馬小屋から出てきた。馬車に乗っている。


積荷の確認などしている暇はなかったのだろう。馬鹿め。


弩を人間の姿のゾンビの足首に放った後、私は弓に持ち替える。油の染み込んだ布を巻いた矢に松明の火を灯す。


狙うのだあれを。


弓を番え、弦を力一杯絞る。力一杯。弦を何度も引いた腕は少し痙攣する。だが狙いを外すつもりはない。ゆっくりと狙う。狙いを絞っていく。


そして、放った。


放った先は荷車。その張ったテント部分に着弾する。燃え上がる荷車。しかし、それは行商の男の乗った荷車ではなかった。町に止められた元は教会の隣の墓地のそのまた隣の、墓守の家の棺を運ぶために使っていた物だ。燃える荷車からは布地が町中を伸びている。


布に引火した炎は布の作った道を走り目的地まで一直線。一つは油の入った樽に、一つは投擲機のばねを抑える太い紐に引火した。


紐はじりじりと遠くからでも音が聞こえるように徐々に徐々に細くなる。中の油まであと少しの布しかなくなった時、樽は空高く放りだされた。空で樽の中の油に引火し、まるで火達磨になった星の流れのように空を駆ける。地面に着地し、ぶちまけられる火の付いた油。町の中心から外へと向かうように次々と空へ投げ出される樽。


商人の逃げた先にも着弾した。


燃え盛る炎。


馬が怯え高く高く前脚を上げて止まった。地面に投げ出される行商。


「ほれ。明るくなったろう」


 町中で熊に槍を深々と刺し戦うダートが囁いたように思えた。


町から少し離れたところまでが炎により明るみに出た。今町中にいるのだけで全部だ。


本来なら、聖域からこちらにこられずに逃げ帰る怪物用に用意したのだが、これはこれで役に立った。


「みんなもう怪物は中の者だけで全部だ!」


 戦い続ける戦士たちに少し安堵の色が蘇った。


あと一息、あと一息。戦士たちの包囲から逃れた馬の怪物が行商の男にも迫っていた。男は馬車に乗り込み逃げようとする。


逃がしはしない。この町から逃がしはしない。


ローバスは非情な決断をした。私は非情だ。また、火矢を構えると躊躇などせずに男の乗った馬車に放つ。馬車は燃えだす。


馬の化け物は追いついてきた。行商の男に選ぶ選択肢は無かった。馬車から飛び降りると地面を転げ回り衝撃で横たわる男。


そこに馬の怪物の蹄が襲いかかった。頭を潰され即死だったろう。


燃える馬車を追いかける他の馬の怪物。燃える荷車から樽が転がり落ちてくる。


既に引火し火達磨だ。


不意に迫りくる火の球を避けきれずに樽と衝突し、樽が壊れて油まみれになる。直ぐに火を燃え広がり馬の怪物を焼き尽くした。


その頃怪物を叩き潰しつかれたラエの前に一人の人間の形の怪物が来ていた。ラエは立ち尽くしてしまった。


「コーブぼうや。」


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