30/老兵ラエ①
大したこともない。呆気ない物だ。
老人ラエが襲い来る犬の形の化け物に左手に持つ剣を頭に叩きつけると、それは容易に肉を斬り裂き骨を砕いた。
腐っているのだ。当然である。
死んですぐは硬直し硬いと感じても、時間がたてばやがて大地へと還っていく。その途中で生き返らせたのであれば肉は無機物へとなる途中である。
彼らのノートルニア信仰で言わせれば、死から無の神の元へ行き、赦しを得れば新たな生への準備期間として偉大なハイルとの一体化ができるである。
ラエは視線が定まらずこちらを捉えられない怪物にすかさず鉄槌を下した。完璧に頭は潰した。しかし怪物は怯まない。こちらに向かってくる。
なぜこちらの位置が分かるのか不思議にも思う。
怪物はラエに体当たりをした。怪物は鎧に弾き返され、ラエは少し後ずさるも隙は見せずに怪物の前脚を両方狙って剣撃を放つ。両脚の付け根に当たり、怪物は体制を崩す。後ろ足だけで進もうとするが思うようにいかない。そんな怪物の背後にまわり後ろ足を鎚で潰した。これで一体。
ラエは冷静である。ローバスから得た情報を自分なりに噛み砕き怪物を追い込んだ。首を切り落としても止めを刺せないのなら行動を阻止するだけでいい。そうローバスからみんな説明を受けている。
その通りにやったが怯まない物の相手は疲れる。生きている者が相手なら初撃で勝負が決まるがこれは生きていないのだ。少し息が乱れるラエ。
まだまだこれからと老体に鞭を打ち通りを見まわす。
死なない怪物に必要以上に槍を突き刺す者、熊や狼に追いかけまわされ命からがら逃げ回る者。ラエも次の相手を決めたように動き始める。
その時、町長の家にいるはずの行商の男が馬小屋に走るのが見えた。無理もない。町の者であってもこんな状況からは早く抜け出したいと思うだろう。