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クッタリアの魔物  作者: 赤異 海
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3/聖ノートルニア時代書解読本①~世界への進出~

我々はどこからきたのかそれを知る者は誰もいない。我々のルーツを知る手掛かりは本書の帯にあるように古代から残された聖ノートルニア時代書と各地の有名無名の過去の各書士たちが残した歴史の積み重ねを記した本たちだけである。我々にできるのはその本たちを正しく読み取り、人間とハイル大陸の生まれからこれまでの歴史を分析し、後世へとその事実を伝える。


ただそれだけである。


まずは我々を創造した存在、ノートルニアの神々の事を知る必要がある。残念なことに神の生まれを知ることなど誰にもできず、神の教えを直接見聞きした者などいるはずもなく、我々にとっては最古の文献といえる聖ノートルニア時代書だけが親を知る唯一の伝手である。


時代書には所々に神々の存在を確信的に明記はなされているが、その存在の子細についてのページはほぼ皆無に等しい。


ただ聖ノートルニア時代書にはノートルニアの神々は元来、姿形はないが霧のようでいて時には雨のように姿を表し、川や海へと次第に途方もなく巨大にもなるというこの世に存在しない非物体の集合体であったとはっきりと記されている。


非物体とは『無』のことを指し示すのであろうか、もしくはこの『世』の部分が重要であるのか定かではないが先人たちの中には突如空間に人が現れた現象を確認した話しや一呼吸の内に大陸が伸びた話がよくある。


また英雄譚などでは空から落ちてきた王の話や出自や、豊かな経験の記憶はあるが実際にはその故郷が存在せずに過去に受けたと記憶する大けがの傷痕が全くないなど現実と食い違う自分の過去の記憶に困惑しながら、その事実を受け入れられなかった一人の騎士の書記や実際に存在する友人宛てた手紙など多くが残されている。


空から王が落ちてきたなど無から生まれた英雄の話などはほとんどが華美な装飾か真っ赤な嘘の眉唾ものであろうが、記憶と食い違う事実に苦しむ騎士の話しはとても興味深い。



その騎士が所属した国の書類には騎士の出自を実際に行って確認した人物が騎士の素行調査をしたものまである。それには存在しないはずの町で存在しないはずの騎士の友人たちから聞いた騎士の過去が産声を上げたその日から騎士として採用されるために故郷を出て王国に向かった日まで事細かに記されていた。

騎士と調査人に面識はなく、その調査人も偶然選ばれた者であって口裏を合わせる事などできはしなかったとある。


事の発覚は十数年後その騎士の同僚が勧められて町に養生に向かったところ、そこは廃墟ですらなく人の気配のない平原であった事だと記録されている。


その後、虚偽申告による王国への反逆の罪で調査人は処断されたが、騎士はそれまでの武功から時の王に恩赦を与えられ、騎士養成の任に就いたとされる。



話の脱線はこれぐらいにして我々の神の話に戻ろう。ノートルニアの神々が「無」から来たのか別の「世」から来たのかは定かではないが時代書にはその所業の一旦が描かれているのでそのことについて話題にしたい。


神々がこの世界で初めに行った行為が物質化であることはこの本に興味を持ち手に取るような勤勉な者にとっては周知であろう。


時代書からはまず神は凄まじい業火で包まれた岩でできた球体を作り、その岩が徐々に冷え固まりながら世界に広がった物がハイル大陸であると要約することができる。その時の大陸にならなかった業火で出来た岩からこぼれ落ちた滴から生まれたのが我々の祖先であると時代書から読み取れる。


その後、ハイル大陸と我々の祖先はノートルニアの神々の意思の元、この世界で増殖を始めたとされている。我々が男女に分かれているようにハイル大陸は噴火による燃え盛る岩とそれを冷やす水に分かれ今も尚、増殖を続けている。


我々人間とこのハイル大陸は一つの親から生まれた兄弟であるといえよう。我々が酷い戦乱の中もこの大地に固執するのはハイル大陸と兄弟で有るという祖先からの実体のない言伝なのかもしれない。


かくして我々はこの世界の住人となったのである。



『業火の岩より人と大地が生まれた。この世界にノートルニアの王国を築けと神は言う。我らに逆らうことなどできようか。』

(聖ノートルニア時代書、創造の章から一部抜粋。)



 我々の中に逆らうものなど出てこられないことは、これまでの人間同士の戦争や多種との共生を図る勢力が現れても明白であった。我々は未だにこの世界で存在を増やし、その勢いは衰えていないことは歴史的にも事実である。

この世界に我々が順応する早さたるや時の流れより機能的に優れているといってもよい。

我々人間とハイル大陸は生まれたその当時は自らだけで存在を確立していた。人間はその数を増やす事だけが天命であり、またハイルの大地もその限りであった。


 (中略)


 しかし、ノートルニアの神々の意思の元に働く我々にも脅威が現れたとある。


そう。この世界の動植物たちである。


この世界に先にいたか我々の後に来たかは時代書では定かではないが突如我々の神聖な土地と人々を侵したとある。


その時、ノートルニアの神々の意思の元、我らにも彼らのように捕食ができるようになった。そして人間は死んで間もない動植物を捕食し、ハイル大陸は枯れたり腐ってしまった動植物を捕食することで彼らの侵略を食い止めたとある。


そのため我々は彼ら無しでは生きられない不完全な身体になってしまったが、これもこの世界に順応せよという神々の意思であることは語るまでもない。


 今、我々と敵対する勢力は数多いが後に我々が勝利することは明確である。我々は非物体の神々が無から生み出した神聖なものであり、我々が神から与えられた敵対者の力を奪い自らの糧にする力というのは我々特有のものである。彼らの書物や情報を知る限る彼らは必ずしも我々のように神という支配者の寵愛を受けた存在ではないといえる。



『この世を満たさん限りに数を増やせ。それが我々の唯一の使命である。他者を受け入れよ。他者を食らいつくせ。さすればこの世は我々で満ち溢れ、ノートルニアの神々の意思に報いられるであろう。』

(聖ノートルニア時代書、進出の章。融和を説き実行した英知の王イデオムの言葉を抜粋。)



 この古のイデオム王には黒い噂が絶えない。


彼の悪行に耐えられなくなったのかクリュスという王宮神官の書きなぐられた複数の紙の切れ端が今では見つかっている。書きなぐるようにしたのは勿論見つかった時に誰の字が判別できないようにするためであり、特定されないためかイデオム王の悪行の核心に触れられた物は一つとしてない。


なぜクリュス神官の物と現在判断されているかといえば、後のローム王がイデオム王の関係者の墓を全てあばき、クリュス神官の妹の墓で見つかったからであるとされている。


ローム王といえば、人間同士の争いの時代の悪名高き暴君であり、異種族を無理やり実験材料にしていたことが多国家の文献で書かれている。


邪推してしまえばイデオム王が聖ノートルニア時代書に英知の君主として描かれている事に嫉妬したローム王の捏造などと考えてしまうが、今現在もイデオム王に黒い噂が絶えないのは文献が多くもっとも容易に遡ることができる人間同士の争いの時代から現在まで異種族との融和など実現されてなく、むしろ殆んどの異種族との関係が劣悪であることからイデオム王にそんなことが本当にできたのか疑問視する声が大きいからである。


また、聖ノートルニア時代書のイデオム王の章が存外に多く過度に神聖視されていることから時の為政者であるイデオム王が今ある時代書の作成を指示した可能性も排除できないからでもある。



*この本では異種族の詳しいことについては記載はしないが、興味のある読者の方は別冊

『世界の生物とその興味深き生体、文明について』を入手されたし。

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