27/町長ダート③
あの日の出来事を夢で見てしまった。
あの砂漠の都市は国境の城壁と初めから一つであったのように見事にはまった都であった。都市が後に出来た事は確かであるが、あそこまで城壁と共鳴した都は他にはない。
城壁は砂漠からの熱と砂嵐を防ぎ、都は忘れる事の出来ない思い出と喧騒を城壁に与えた。
私はあそこでの生活に暑さ以外は満足していた。人々はみんな明るく、活気があり、自分の人生を楽しんでいた。戦乱から離れた地での楽園のような生活。私たち兵隊もその例に漏れず、都市では女たちと遊んだり、酒を昼間から飲んだりと色々楽しんだ。
そんなある日、城壁の崩壊箇所の連絡があり、私と仲間たちはとても億劫であったが仕事に励んだ。
「おい。この壁大丈夫か。ずいぶん派手に壊れているな。他の箇所も確認しなきゃいかんだろ」
「そんなことはごめんだ。この修復だけでもまだまだ時間がかかりそうだ。これでは遊べん」
仲間たちの笑いが晴天の空へと上がっていく。
「国も何かしてくれれば何とかなるが」
「市長に物資の事を頼んでみるか?」
「了解は得られないだろう。こんな所、こんな馬鹿長い壁なんてなくっても誰も責めてはこないと一蹴されるのが落ちさ」
「俺たちだけで何とかするにも日がかかりすぎるよ。なあダート」
「ああ、でも良い退屈しのぎだ。これだけ働けば酒がさぞ旨いだろう」
砂漠で雷のような轟音が響いた。
壁が、床が大きく揺れた。仲間が一人城壁から落ちた。
あぶない。と叫ぶより先に何かが彼を受け止めた。私は肝を潰した。
「痛たたた……」
――逃げろ。
――逃げろ。と私たちが叫ぶ。
「なんてことない。俺は大丈夫だ!」
仲間がそれに気付かずに私たちに笑顔で手を振る。
「逃げろ。逃げるんだ。その化けサソリから逃げろ」
下を向いたときには遅かった。彼の背後から迫る巨大な槍が彼を突き刺したのだ。
彼は声が出ない。それは喉に突き刺さり、今にも彼の首と体を離そうとしていた。
私は逃げ出した。仲間の声がどんどん遠ざかっていく。
都市まで逃げ、壁は越えられまいと振り返った私が目にしたのは器用に脚を使い崩落物を昇ったのか、壁の破損した部分に居座る大きなサソリだった。
その鋏には仲間が挟まれ、その胴を分断され、私は叫びだす。
「あああああああ!」
寝台から飛び起きると我に返った。
あれは過去の事だ。あれは退治されたのだ。そう知っていても胸の動悸が止まなかった。
私の家には私とローバスしかいない。彼に真意を尋ねるつもりもあり、息子たちには仕事をやり追い返した。
「これで貴様の思い通りだ。これからどうするのだね?」
「徹底抗戦以外あり得ん、と言いたいが町長。あなたはどうなのだ。」
「壇上で話した通りだ。町を守るために戦う」
「そうか。安心した」
「私も安心したいのだよ。教えてくれ」
「戦って戦って救援を待つ。それだけだ」
「本当にそれだけかね?」
疑う私の眼をしっかりと彼は見つめた。彼の眼に嘘は見えない。しかし、そんな子供騙しで疑いが晴れる訳ではない。
「再び問おう。それだけかね?」
「そうだ」
「逃げる選択はなかったのか?」
「考えはした。考えはしたが――」
それから本当に化け物が町に攻めてきた日までの数日間、何度も私は彼に問いただしたが答えはついぞなかった。