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クッタリアの魔物  作者: 赤異 海
25/59

25/自警団員ジャイ②

 響き渡る戦士たちの咆哮。熱病に侵されたように、町中は熱気を帯びていた。


町の広場の首つり処刑場の上ではあの王国兵士とダート町長が握手をして演説の最後を飾っていた。


あの兵士、ローバスとダート町長は町で怪物と徹底的に戦うことを声高く叫んでいた。


気に食わない町長の育てた子どもたちであっても町の一員であることは誰しも認めている。そんな仲間が無残にやられて黙っている人々ではなかった。


町長の言葉に続いてみんなは口ぐちに化け物を殺せ。殺せと叫んでいる。


その原動力となったのは町の仲間の死だけではない。町長がどこから取り出したのか、ものすごい数の武器が揃っている。あれは投石機か。あれは弩にそれと城壁などへの備え付け用の石弓ではないか。


私も心が躍った。王都へ行かなければ見る事もできないような憧れの物が揃っている。


この光景はまるで夢のようであった。住み慣れた町に謎の怪物の脅威、それに立ち上がる王国兵士と町の戦士たち。


これではまるで夢のようである。それしか言葉が思いつかない。


「おかしなものね」


 浮足立つ私の隣のララが醒めたように言い放った。


「他人が死んではおいしい思いが出来るからと喜び、私の兄たちが死んではあんなに深く悲しんでおいて、たくさん人が死んだら今度はいきり立っちゃって立ち向かおうだなんて。馬鹿みたい」


「みんなララヌイさんたちの敵を取ろうとしてるんじゃないか」


「みんな臆病なだけだわ。私の父だってただの臆病者。待ち伏せの次は町が襲われるんじゃないかって気が気でないのよ。そんなに怖いならどこか遠くへ逃げてしまえばいいのに」


「そんな訳にもいかないさ。町長たちの話し通りなら、この町が狙われているんだ。逃げ出せるかどうかだって――」


「動く死体が私たちを狙っているのですってね。そんな馬鹿な話ってないわ。私たちが何をしたっていうの。きっとただの野生動物の見間違いよ。神が死体を生き返らせるなんて事お許しにはならないわ。ありえない」


「でも町の連中が鹿の生首が生きているのを見たって」


「みんな頭がおかしくなってるだけよ。こんな町――」


 ララは最後まで言葉を続けなかった。ララヌイさんが守ってきた町を侮辱することが兄への侮辱にもなると思っているのだろう。


「ララ。今の君にはここは毒だ。家に送るから、家で何か気の紛れる物を食べるんだ。私が後で何かおいしい物を持っていこう」


 私は町の活気に背中を向けて、ララを送る。


彼女もどうかしているのだ。兄を失った悲しみから立ち直っていない。ララヌイの父親が敵を討つことに意識をまとめたように、彼女も私などに気持ちを話すことで自分のやりようのない感情を抑えているのかもしれない。


「おい。待てよお前らどこに行くんだ!」


 広場から去ろうとする私たちにダミが駆け寄ってくる。


「ララ。俺この町を守るぜ。お前とララヌイのために」


「ダミ。あんたなんか大っ嫌い」


 ふん、とダミを蔑視すると一人で家へと向かるララ。


「おい。ララ待てって。俺はまだ半人前扱いしかされないけど、きっとトッドよりもティッカーよりもでかい男になって見せるから。本気だぞ。俺は絶対成功する。保証できるぜ。」


 ダミはそんなララを追って行く。


ダミの愚直さもこの時ばかりは感心した。ララの気を逸らすことが出来ている。かなり無理矢理だが、私には真似などできない。


ダミはダミなりに彼女を支える事が出来るのだろう。私はただ寄り添うことしかできない男だ。だから恋した彼女に男が出来ても一緒に喜ぶことしかできなかった。


私は二人を追う事を止め、広場に戻る。まだ興奮冷めやらない人々は、ローバス兵士とダート町長が話し合いのためそこから去っても散る様子がない。


この騒ぎが治まってからでないと何も買っていくことなどできないだろう。私は二人に何を差し入れに行くか悩みながら広場を一人彷徨う。


行き交う人々に――しっかりやれよ、一緒に奴らを叩きのめすぞ――などと声をかけられながら。


「ジャイ。ちょっといいか」


トッドさんに呼び止められ、その方を向くと彼が厳しい顔をしていた。


「俺はララヌイに比べてどうだ?」


「どうって」


「俺が新しい団長に選ばれたんだ」


 驚きはしなかった。ダート町長は実の息子だからといって贔屓はしない人だと思っている。だから、数いた彼の養子を差し置いてララヌイさんが団長でいたのだ。


ララヌイはラエじいさんなどは臆病者だと言うが、最も慎重なだけであるのだと思う。それに団員の信用も厚かった。それでいて友人にも恵まれ、彼の葬儀の準備には持ち場を離れて来る者までいた。


それを買われて町長に自警団を任せられていたのだと思う。いくら自警団が警備の面で町を取り仕切ると決まっていても、町長が不信任を申したなら立ちいかないだろう。そんな町長が次に選んだ団長なのだ。


そう説明するとトッドさんは笑った。


「お前に聞いてみて正解だよ。下手な奴に聞いたら、ララヌイと俺、どっちを上げてどっちを落とすか悩ませてしまう所だった。元気がでた。ありがとう」


 それだけ言って立ち去るトッドさん。


彼もまた何かあったのだろうか。支えを必要としているのだろうか。


私にはとてもじゃないが人を見守ることしかできない。私に誰かの支えになることなど出来ない。今日も私は私を支えるだけで限界である。他人のことを顧みる事などできない。


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