22/兵士ジャーン①
ついさっき寝付いたばかりなのに、ローバス隊長に叩き起こされてしまった。とても寝覚めが悪い。
隊長は私を起こすと、とてつもなく臭う頭陀袋を渡した。中には隊長たちが森の中で見つけたこの付近を襲う化け物の正体が入っていると言われた。
私には隊長がなぜこんなにも焦燥しているのかが気になったがそんなことを聞くことなどしなかった。隊長は何か核心を掴んでいるのだろう。私のような無教養な者が口を出すことではないのだ。
私はいつものように笑うと隊長も少し笑った。
事態は解決の方向へと向かっているからだと思う。君にはその解決のために王都へ一足先に帰って欲しいと言われた。寝ぼけていた私はそこで初めて隊長が大切に読んでいた本を私の荷物に加えているのが分かった。
所々に付箋紙が挟まれている。文もある。こんな風に包まれた文は初めて見る。全てをコーマック兵士長に直接渡して欲しいと頼まれた。
「本当に兵士長をお慕いしているのですね」
「何を言っているのだ。彼を通すことができれば上での面倒な手順を無視してもっと上に伝えられるからだ。彼を尊敬などはしない」
「ですがなぜこんな手紙を紙きれで事足りるんじゃないですかね」
「それは国王への直訴状だよ」
私は驚いた。国王と聞くだけでも私のような田舎者には時代書に書かれた聞きなれない言葉を言われたような気分になる。
なにか現実離れしているような、とても恥ずかしくて言えないような言葉である。
「何もそんなに驚く事は無いだろ。国の大事なのだ。私の様な小物でも伝えねば後悔すると分かるほどの」
「では兵士長には何とここでのことを伝えればよいのですか?」
「君が何か話す必要はない。君を今まで混乱させてすまなかったが、事態は予想より大きく酷い事になっている」
私には特に何なのか伝える気はないようだ。また困惑させてしまうからと隊長は言うが、私だって何が真相なのか知りたいと考えることはある。
「兵士長には本の中に挿んだ付箋に書かれた内容がある。君は見なくていい」
そう言われても気になるものは仕様がない。しかし、隊長の気持ちを無下にする訳にもいかず、その場では頷いた。
既に外には町の馬が用意してあると言われたが、私は町に若い馬を逃げ出す時用に残しておいた方が良いと進言し、私は老馬で国へと向かうことにした。
「どうしてもそんな馬で行くのかね」
「自分にだって考えがあるんですよ」
この馬はクッタリアに向かう時に気付いたが、とても賢い。若い馬が引く馬車と同等の速さでここまで来ていた。
長年色々な道を走る事で馬は賢くなる。地形による踏み足から蹴り足の力加減、ペース配分も乗り手がどんなに急いでいるのかを考えて、それでいて自分の脚に無理のでない速度で目的地まで走り抜ける。
この老馬の名前を世話人から聞いていなかったのがとても惜しく思えた。これは名馬であると直感に来た。
「すまないな。こんな事ばかり頼んでしまって……」
「そんなことはないですよ。隊長の大切な本も傷一つ付けずに送り届けて見せます!」
「ああ。頼りにしてる」
私はそう言われることに悪い気持ちがしなかった。少しにやけてしまったかもしれない。
結局そのことは隊長に指摘された。