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クッタリアの魔物  作者: 赤異 海
2/59

2/兵士ローバス①

王国の兵士ローバスは今回のクッタリアの町への派兵について他の若い兵士たちと違い、一人乗り気であった。


途中に馬を変えられる場所もなく町に着くまでには若く強靭な馬を使っても三四日かかる。派遣される兵は自分以外みな若く、野生動物相手の兵の教練も兼ねてであろうから年老いた馬に居心地の悪い馬車でも使わされるのであろう。


これは一週間は難くない。


その時、周囲にいれば、戦争で気が狂った一人の男がにやついているように見えたのかもしれん。兵舎の中で待機する若い兵士たちの血の気が引いて行くのが垣間見えたので急いで顔を引き締めた。直属の上官の兵士長コーマックが入ってきたのはそのすぐ後であった。


「ローバス、準備はできているか」


コーマック兵士長は入ってくるなり強張った顔の私と私に対し怯えている兵たちを見てご満悦である。


このコーマックという男はいささか性格に問題がある。私をこんな若士官がするような任務に推挙し、あまつさえ私と新米たちとの間に溝ができたことを喜んでいるのだ。そして、私の場所に入るはずだった士官学校出の若者はいきなりの前線での任務、もしくは近隣国との国境付近の警備にあたらねばならなくなる。


どちらへ転んでも若者は心身を大きく消耗する。運よく生きて帰ってこられたとしてもこれから先の大きなトラウマになるだろう。


しかし、そのおかげで私には時間ができる。前線には持っていくことなどできなかったが今回の任務は別だ。各自の私物については私に判断が任せられている。若士官には悪いが今回は私が楽しむ番であるのだろう。


「はい。あとは荷馬車に食糧と水を積んで我々が乗り込むだけです。ところで馬はどの馬小屋のを」


「ああ、心配はいらん。コムタージュの十一番小屋の歴戦のつわものが表に用意してある。おい、そこの若いの。馬車に繋いで来い」


 さもありなん老馬である。コムタージュは戦車部隊の部隊名で十番小屋以降は老いた馬や性格に難のある馬などが予備として備蓄されている。歴戦のつわものということは過去に戦車を牽引していた馬か。道中逃げ出すことはあるまい。まだましである

「ローバス、わかっていると思うが任務中も毎日の武器、鎧の整備はしっかりしてくれよ。獣といってもあの町一帯の武装した商人や町人を襲っている猛獣だ。何人か死ぬかもしれんが王国の所有物である物は失うわけにはいかん。剥いででも綺麗に持って帰ってきてくれ」


「ご期待にそえるように尽くします」


「まあ、ほどほどにな」


 コーマックは甲高く笑い声を上げながら兵舎を後にした。


縁起でもない。あの地方ではたかが野犬や狼だろう。一応正規の訓練を受けた兵士たちが正規の装備で迎えるのである。準備は万全、兵士を死なせずに命のやり取りの経験をさせる。そのための軍事教練である。


「ローバス隊長、馬の準備整いました」


「そうか。では諸君出立だ」


 兵士たちがそれぞれ私物をまとめ、食糧と水を馬車へと運んで行く。私をその様子を横目に自分の袋に大切にしまってある内の一冊の古い本を傷がつかないようにゆっくりと取り出してうっとりと眺めた。聖ノートルニア時代書解読本、私の愛読書である。


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