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クッタリアの魔物  作者: 赤異 海
10/59

10/傭兵カルベス①

 随分と太っ腹な貴族だ。


片耳のない男カルベスが、酒や食い物は上物が行商から仕入れられたらしいと聞き、先払いされた硬貨を手に握りしめ町の酒場へと向かう。


ここにきている商人どもは貴族からどれだけ巻き上げられるかしか考えておらず、御国のために働いてきて右耳まで失った男にすら冷たい。


くそだ。


東の地では火を噴く筒にやられ、顔にも火傷の痕があるがそれがなんだ。俺は南の地では狂馬乗りのカルベスとまでいわれ、森に潜む異人どもに矢の雨を浴びせてやった男だぞ。


カルベスはモルチスという貴族の男に王都で雇われた大量の傭兵の中の一人であったが、その内外限らず自分の腕に勝る者はいないと自負している。剣の腕も弓の腕もだ。馬術に至っては森の異人どもすら跪いて教えを乞うであろうとまであの地では感じた。


そう話して信じる者などいなかった。そもそも南に攻め込んだ事すら嘘だと一蹴される。それをあの男は最後まで話を聞いた。俺が愛馬を東の地で失った時の話では涙まで流していた。あの男も東の地に俺と同じ時期にいたようだ。びっくりだ。あの地の国々は一枚岩ではなく俺らに友好的な異人もいたようだが、少なくとも俺がいた戦場でも占領した村々でもそんな奴は一人もいなかった。


たしかに俺は人殺しだがこれは戦争だ。俺らが殺せばお前らだって殺しているのにも関わらず、どの村の連中も最後まで俺たちに歯向かってきた。


異人の同盟国からの軍隊が到着すると大人しくなり、そのことも未だに腹立たしい。俺たちを舐めているのだ。


おっと話が逸れてしまったな。あの男の度胸にも感心するが金払いの良さにはもっと感心する。国が支払うような割に合わない端金の優に二倍は現金で用意してきた。その程度では歯牙にもかけない俺だがそれは先払いの金で後にも同じ金額を支払うと約束した。


しかも俺らのために音楽や娯楽を用意までするとは。その代わりの条件といえば町で問題を起こすな大人しくしていろっていうぐらいなものだ。もちろんこんなぶっきらぼうな口の聞き方ではなく、何て言ったっけなぁ。忘れたが貴族にしては御行儀が良かったのは覚えている。


小心者そうなので脅して身ぐるみ剥いじまえなんて話してる奴らもいたが、それはそれで好都合だ。猛獣から町を守ることが何だ。ただ町で大人しくしてるなんてつまらない。貴族に恩を売るついで気晴らしに畳んじまえばいい。あの貴族と付き合えばこの先もおいしい思いができそうだ。そんなことを思いながら酒を飲み干す。


この酒は濁りもないし薄めてもいない。実に旨い。


「おーい、そこの姉ちゃん。こっち来て俺と飲まないか。奢るよ」


 商売女は高い声で返事をするがこっちを見ると顔色を変えてそそくさと離れて行ってしまう。こんな顔になってからは女を口説くことさえままならない。


「けっ」


 不愉快である。しかも、女は行った先の男と俺の顔の話をしているのがとても。


この女たちも貴族に呼ばれてここにきているから俺とわざわざ飲まなくても金づるがそこらにいる事を知っているのである。


金はあるのに自由は聞かない。いや、顔が悪いのだな。


白けてしまった。


景気よく酒を煽る周りの連中と俺はこんな顔になってから住む世界が違う気がする。いや、そんなことはない。


一緒なのだ。俺もお前らも。


生まれて生きてどこか誰も知らないところで野垂れ死ぬ。あの貴族だって成りは良くても俺らと同じ。そう。同じなのだ。


よほど酒が旨かったのか、たった一杯しか飲んでいないのに一度酔っぱらってから酔いが醒めた気分だ。さっきまでの良い感じはもうない。


俺はたった一杯分の酒代を支払い俺らに用意された町の宿へと向かう。


随分と用意が良いものだ。町の宿屋では俺たちを全て泊めることなどできないので、貴族が俺たちを雇いに王都に出向いている間に、出て行った技術屋たちの使われていなかった家をざっと掃除したのだそうだ。


何もないが寒くも熱くもない。丁度いい。王都にいても臭い馬小屋に詰められた馬の気分になるのでここの方が生活がしやすそうだった。何人かと相部屋になるのだが、ほとんどの者が前金を使って祭り状態の酒場や外で毎晩遊び歩いているので掃除した甲斐などないと思う。


そう考えていると俺の仮住まいについてしまった。どうにも寝たい気分でもない。遊び歩く気にもなれない。仕方がない。剣と弓の手入れでも鍛冶師にさせているのを眺めてでもいるかと町の鍛冶屋の方へ行くことに決めた。


剣と弓は小汚く高価な物でもないので仮住まいに置いて来たのであったか。俺は家に入ると急に眠気に襲われて、ここから出て行った家族が大きすぎて置いて行ったであろうベッドに倒れ込んだ。


少し埃臭いが悪い心地ではない。ここは退屈なのだ。金のためにも暴れる訳にもいかず。かといって遊ぶにも気分が乗らない。


なんだか鍛冶屋に行くことが面倒になってしまい、そのまま俺は次の朝まで眠った。猛獣の一匹や二匹町を襲いにこないかなどと思いながら。


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