雪月花と廃墟の幽霊
今、私たちは夏休みを利用して一泊二日の小旅行に来ています。平凡な私と、美人だけど怪奇現象やホラーなことが大好きな横山雪乃ちゃん、美味しい物が大好きなちょっとぽっちゃり気味な里見月姫さんの三人です。
一人で夏休みをぶらぶらと満喫していたら、雪乃ちゃんから連絡があったのです。
「くろちゃん、旅行行こう、旅行。夏休みの思い出だよ!」
妙にテンションの高い雪乃ちゃんの言葉に不安を覚えながらも、夏休みの思い出作りという誘惑に負け、みんなとの小旅行に参加してしまったのです。
今回も月姫さんのお兄さんが車を回してくれました。保護者同伴と言うことで外泊も許して貰い旅館へ出発です。
ちょっと長めのドライブを楽しんで着いた旅館は、真新しく非常に高そうな旅館でした。
「これ、お金は……?」
「それなら僕が出すよ。みんなの思い出作りに協力したいからね」
お兄さん、容姿も男前だけど行動も男前です。
「あ、もちろん君たちとは部屋が別だから安心してね」
あ、はい。
「くろちゃん、照れてる?」
雪乃ちゃんが小さな声で話しかけてきます。う、うう。
「じゃあ、温泉よ!」
「えー、ご飯はー?」
部屋に荷物を置いてくつろいですぐに二人から出た言葉がそれでした。
「くろちゃんはどうする?」
「どうするー?」
私は……、
・「温泉に入ろうか」と言った。
・「まずは腹ごしらえだよね」と言った。
現れる二択。そう、私にはこういったゲームのように二択で物事を考えてしまう癖があるのでした。
えーっと、うん。ご飯はまだ早いよね。それにご飯はお兄さんと一緒に食べたいしね。ということで!
「温泉に入ろうか」
「決定!」
「もう、くろちゃんが言うなら仕方ないかなー」
三人で温泉に。美人女将の湯ということで美肌効果もあるとか。是非入らないとね。あ、でもここの若女将って確か雇われ女将だったような……。一気に効能に不安が出てきたような。
「う」
温泉で見た雪乃ちゃんのスタイルに思わず声が出てしまった。出るところは出て凹むところは凹んでいる……それに比べて私のなんと貧相なことよ、とほほ。
「くろちゃん、入ろうよー」
そ、そうだね。考えても仕方ない。
「はー、生き返るわー」
雪乃ちゃんはおばさんみたいな事を言っている。
私もかけ湯をしてから、ゆっくりと温泉に足を入れてみる。あ、暖かい。雪乃ちゃんの言葉じゃないけど生き返る気がする。そのまま体を沈める。うーん、気持ちいい。
「でも、意外だよね」
私の言葉に雪乃ちゃんがこちらを向く。
「だって、雪乃ちゃんが普通の旅館を選ぶんだもん」
そうなのだ。あの雪乃ちゃんのことだから、てっきり壊れかけの何か出そうな旅館でも選んでいると思って、かなり覚悟を決めてきていたのだ。ま、まぁ、月姫さんのお兄さんが来るって言うことに釣られたというのも無いわけじゃ無いけど……。
「ここの旅館って美人女将の湯で有名らしいねー」
「雇われらしいけどね」
「あら? でも、従業員の方が話していたけれど、今の女将と先々代の女将ってそっくりだったらしいわよ? だから隠し子じゃないかって聞いたわ。まあでも、女将さんは本社の……」
「へー、そうなんだー」
「隠し子に後を継がせたのかなぁ」
私たちはゆったりと温泉につかりながら、そんなとりとめの無い話を続けていた。
「いい旅館だよねー」
月姫さんの言葉に私も頷く。ホント、来て良かったぁ。
その後、普通に月姫さんのお兄さんと一緒に美味しいご飯を食べて、さあ寝ようかと言うところで、「じゃ、行こうか」と雪乃ちゃんが言った。
え?
ええ?
「何言っているの、ここからが本番だわ」
いや、充分、満足したので……えーっと、あの。
◆ ◆ ◆
「じゃあ、気をつけて行ってきてね」
月姫さんのお兄さんに見送られて外出です。なんで夜中に外出することに……。
「くろちゃん、はいー、虫除けのスプレー」
私は月姫さんから虫除けスプレーを借りて肌にかける。ああ、温泉の効能が虫除けスプレーに上書きされる。
「でね、今から行くところは……」
雪乃ちゃんが興奮したのか懐中電灯を振り回している。
「なんと、先程の旅館の旧館です。もうすぐ取り壊しということで! 今しか見るチャンスが無いのよね」
うう、そういうのはいいです。のーさんきゅーです。
草むらを歩き、関係者以外立ち入り禁止の看板を抜けて、寂れ、今にも崩れ落ちそうな木造の建物に到着する。これ、絶対に何か出るヤツだよ。昼間に行っても危ないヤツだよ!
「あ、ちゃんと噂にあったとおり、大きな木が生えているね」
旧館の片隅には大きな木が立っていた。余り詳しくないけど、多分、栃の木かなぁ。
「なんでも、この旅館の主が経営難を苦にあの木で首を吊ったんだって」
ちょ、怖い話ストップ、ストップ。
「えー、でもー、それだど今の旅館はー?」
あ、確かに。そうだよね。
「今の旅館は経営者別のチェーン店らしいのよ」
「チェーン店?」
「旅館のチェーン店だわ。ここの温泉に目を付けたとある旅館経営の会社が無理矢理、ここを買い取ったらしいの。で、それを苦に自殺ってわけ。昔はここら辺の村の村長をしていた家系らしいんだけどね」
く、黒いよ。黒い話だよ。そんな場所、絶対に何か出るよ、呪われるよ!
「えー、そうなのー?」
「でも、こっちは出るって話だけど私たちが泊まっている方には何か出たって聞かないから大丈夫だわ」
いや、それなら旅館に戻ろうよ。こっちには出るんだよね。
「よし、行きましょう」
雪乃ちゃんはガンガン進んでいく。ホント、無駄に行動力があるんだから……。
ぎぎぎぃと嫌な音を立てて木のドアが開く。取り壊し予定だけあってドアが歪んでいるんだろうね。
「こ、これなら月姫さんのお兄さんにも来て貰えば良かったよね」
「あー、そういう楽しみ方も有りか」
雪乃ちゃん、楽しみ方って……。
「でも、お兄ちゃん、こういうの駄目だからー」
え。意外。なんだか怖いもののない無敵のスーパーマンみたいなのを想像していました。いや、でも、怖がるお兄さんも有りかなー。
「くろちゃんはー、お兄ちゃんに来て欲しかったのー?」
月姫さんが聞いてくる。え、えーと……。
「でもお兄ちゃん、ホモだよ」
うん?
う、ううん?
今、何と言われました。
「お兄ちゃんね、男が好きなんだよー。じゃないとー、不安で友達二人と一緒に来させないよー」
え、あの。その……。
「ふっふっふ」
雪乃ちゃんが笑っている。
そ、そっか……。ちょっとがっかりです。漫画や二次元では有りだけどリアルはちょっと……うん。うー。ま、まぁイケメンなのには変わりないので目の保養ということで……うん、そうだよ。目の保養だよ!
懐中電灯の明かりを頼りに廃墟を歩いて行く。
「落書きが多いわ」
「だねー」
確かに先程からスプレー缶で描いたような落書きが多い。あー、これ、アレだ。
奥から話し声が聞こえてくる。
「こっちだー、こっちだー」
その声は誰かと話し合っているのに、聞いているとまるで私たちを誘導しているかのような気になってくる。
雪乃ちゃんが頬を掻いている。
「くろちゃんは私の後ろに居てね」
雪乃ちゃんはそう言うとジーンズのポケットから警棒のようなものを取り出していた。うーん、ポケットに入れて邪魔に無らないのかなぁ。
「つっきー」
雪乃ちゃんが月姫さんに声をかける。月姫さんもそれに頷く。
「こっちだー」
声に誘われるように廃墟の奥へ。奥から明かりが漏れている。あれ、懐中電灯か何かの明かりかな?
私たちは明かりの下へ。そこに居たのは私たちと同い年くらいの少年二人だった。
「おい、なんだよ」
座り込んでいた二人の少年が驚きこちらを見る。
「お、すげぇイケてるのが居るぜ」
不良さん達だね。見ているのは雪乃ちゃんかな。
「なんだよ、こんな所まで……俺たちと遊びに来たのか?」
少年達が起き上がります。
「先手必勝ー!」
そう言うが早いか雪乃ちゃんが手に持った警棒を少年の腹に突き当てます。月姫さんももう一人の少年の腕を取り、くるんと一回転させていました。
「いてぇ」
「いきなり何をしやがる!」
倒れ込んだ少年二人が悪態をついています。
「お前らみたいなのは力関係を分からせた方が早いからですわ」
雪乃ちゃんが警棒を肩にのせ、悪そうに笑っています。こういう所はノリノリだよね。
「ご、ごめんなさい。二人がやり過ぎたみたいで……。襲われるかと思って、つい手が出ちゃったんです」
と、とりあえず謝るだけは謝っておこう。
「いてて、たくよー」
少年はそっぽを向いています。
「容姿は平凡だが、お前が、一番、話が分かるみたいだな」
少年はそんなことを言っています。もう一回転くらいした方が良かったんでしょうか。
「で、ここで何をしている」
雪乃ちゃんの威圧的な言葉。雪乃ちゃん、怖いです。
「お前らこそ、俺達のたまり場に何の用だよ!」
雪乃ちゃんがあからさまにがっかりな顔をしています。せっかくのホラースポットに不良ですもんね、がっかりするよね。
「あ、えーっとですね、ここで幽霊が出るって聞いて見に来たんです」
「ちっ、肝試しかよ」
「ここ、俺たちで、ずっとたまり場にしているけどよー、幽霊なんて見たことないぜ」
あれ……でも? 私は視界の端に、何か光っているものがあるのが見えた。
そうだ、
・「こっちだーって私たちに喋りかけていたのは貴方たちだったの?」と私は聞いてみた。
・「あの光っているのって……」と、私は気になったものを追ってみた。
そうだよ、あの呼んでいた声って絶対にこの不良さん達じゃないよ! でも、それよりもあの光っている物の方が気になる。懐中電灯の明かりに反射してチラチラと、それにここは元々旅館の何の部屋だったんだろう。
「あの光っているのって……」
私が指差した方をみんなで見る。確かに光が反射してチラチラと。なんだろう。
私たちは不良さんと一緒に光っているものに吸い寄せられるように近寄ってみた。
「ペンダントね」
怖いもの知らずの雪乃ちゃんがペンダントを拾う。
「おいおい、なんで、こんなものが落ちてるんだ」
不良さん達も気付いていなかったようだ。
雪乃ちゃんがペンダントを開けてみる。私ものぞき込んで中に何が入っているのかを確認する。
「写真……?」
中に入っていたのは一枚の写真だった。
「これ、女将さんに似ているよね」
「おいおい、なんでこんなものがあるんだよ」
「こえぇぇよ」
不良さん達も会話に参加です。
「さっきまでなかったよな?」
「な?」
ほ、ホラー的な事を言うのは止めてください。
「じゃ、帰ろうか」
雪乃ちゃんは今回の結果に満足したのか帰り始める。
「お、おい、置いていくなよ」
「そうだろ、こ、怖くなっただろうが、無責任だろ!」
雪乃ちゃんは不良さんを無視して歩いて行く。
「お邪魔しましたー」
月姫ちゃんもお辞儀して去って行く。
「あ、私も帰ります。お邪魔しました」
私たちは不良さん達を置いて旅館に戻ります。
「虫は多かったけれど刺されなくて良かったよねー」
虫除けスプレーがあってよかったよね。
「この時間でも温泉って入れるかなー」
そうだよね、ちょっと汗をかいてしまったので温泉に入りたいです。
その後、もう一度みんなで温泉に入って浴衣に着替えて就寝となった。
◆ ◆ ◆
「それじゃあ、女将さんの所に行こうか」
翌朝すぐに雪乃ちゃんはそう言った。雪乃ちゃんは旧館で拾ったペンダントを持って歩き出す。行動し始めた雪乃ちゃんは誰にも止められない。
「女将さん、このペンダントを見て欲しいの」
雪乃ちゃんが入り口で挨拶を終えた若女将を捕まえてペンダントを見せる。
「こ、これは……よく見せて貰っても良いですか?」
雪乃ちゃんが若女将にペンダントを渡す。若女将がペンダントを開け写真を確認している。中の写真の人って女将さんそっくりだよね。
「これを何処で見つけたんです?」
若女将の言葉に三人で顔を見交わす。言っちゃっていいのかなぁ。立ち入り禁止に入ったんだよね。
「夜、散歩をしていたんです。その時に二人組の不良に絡まれて……、その不良が持っていたんですわ」
ゆ、雪乃ちゃん?
「まぁ、怪我はありませんでしたか?」
「大丈夫ですわ。返り討ちにしましたから」
ゆ、雪乃ちゃん?
「そうですね。この旅館の奥に、旧館がまだ残っているのですが、そこにたむろしている不良が居るという話は私も聞いています。その不良はそこでこれを拾ったのかも知れませんね」
う、上手く誤魔化せたかなぁ。
そこで私は……、
・「このペンダントとの関係を教えて貰ってもいいですか?」とぶしつけに聞いてみた。
・「旧館にある木の噂ってご存じですか?」と情報を聞き出そうとしてみた。
あれ? 木の噂って何か関係してくるのかな? いや、でも、ここで気になるのはペンダントとの関係性だよね。
「このペンダントとの関係を教えて貰ってもいいですか?」
「中の写真を見たんですね」
「ごめんなさい、何か持ち主につながることがないかと確認しましたわ」
え? ゆ、雪乃ちゃん。そ、それも嘘だよね?
「そうね、これは旧館にまつわる話なんですが……」
そう言って若女将が語り出したのは、この旅館の歴史だった。
「昔々、この村には非常に仲の良い夫婦が居たらしいのです。しかし旦那さんが事故で亡くなり、それを苦に妻も池に身投げをしてしまいました。そしたら、その池が温泉に変わったらしいのです。それを村人達みんなで協力して温泉宿として村の発展に努めたのがこの旅館の元になっているらしいのです」
「へぇー。そんなことがあったんですねー」
月姫さんが関心している。アレ? それがこの写真にどう関わるんだろうか?
「亡くなった夫婦には子どもが居てね。美人と評判だった長女は村長と結婚し、その他の生き残った子ども達は他の村へ里子に出されたのね」
そこからペンダントの写真にどうつながるのかな?
「女将さーん、朝のお客さん到着しましたー」
「あ、はーい。今、向かうわね。ごめんなさい、もう少しお話したかったんだけれど」
私たちは大きく首を振る。お仕事の邪魔をしたら悪いもんね。
「このペンダントは貰ってもいいかしら?」
「あ、はい。どうぞ」
雪乃ちゃんのその言葉に若女将はペンダントを強く握りしめ去って行った。うーん、どういうことだったんだろうね。
「そろそろチェックアウトの準備をしようか」
月姫さんのお兄さんもやってくる。
私たちは部屋に戻り荷物を片付けていると雪乃ちゃんが、こんなことを言った。
「女将さんから聞いた旅館の由来なんだけど、私が事前に聞いてきたのとは違ったなぁ」
え?
「どういうこと?」
「私が聞いた話だとね、村長夫婦が子ども達を引き取って幸せに暮らしました、になっているのよ」
う、うん? それって……。
「ゆっきー、ここの女将さんって雇われて来た方なんだよねー? 話を間違えて憶えていたんじゃない?」
「そ、そうだよ!」
雪乃ちゃんが考え込んでいる。
「そういえば、雇われって言うけど、あの女将さん、この旅館系列の本社の社長の娘さんらしいのよね。インタビュー記事を見たことがあるから間違いないわ。親とは関係無いですみたいなことを言っていたのよね。ま、今回の話とは関係ないけどね」
そうなのか。私だったら、そのまま社長令嬢としてぬくぬく暮らしちゃいそうだけどなぁ。
まぁ、温泉も気持ちが良かったし、深夜の散歩も少しスリルが楽しめたと思って、なんだかんだでちょっとした思い出になったかなぁ。
私たちは行きと同じように月姫さんのお兄さんの車に乗って自宅へ帰っていった。
そして数日後、朝の新聞を見てびっくりした。
◆ ◆ ◆
私たち三人は雪乃ちゃんの家に集まっていた。
「新聞、見ました?」
「見たよー」
「見た、見たよ!」
なんと、私たちが行った旅館、その取り壊された旧館から複数の白骨死体が見つかったのだ。しかも小さな子どもの骨が多いと言うことだった。ただ、年代的には最低でも100年くらいは昔のものらしく、現代の殺人事件としては扱えないと言うことだった。
「うーん。もっとよく調べるべきだった!」
雪乃ちゃんは悔しそうだ。
「だって、白骨死体が見つかったのって、私たちがペンダントを見つけたところだったのよ! 絶対、何か関連性があったんだわ!」
うーん、こっちだーって、言ってたのってもしかして、その子ども達? いやいや、そんなホラーな……。
って、あれ?
「もう一度、行きましょうよ」
「えー、さすがにもう一度はー」
雪乃ちゃんと月姫さんのそんなやりとり……。
私は……、
・「昔話の差異、憶えている?」と言った。
・「あの旧館で声が聞こえていたよね?」と二人に確認をした。
ま、まさか、あの旧館で声が聞こえていたのは私だけみたいな展開はないよね? ないよね? って、私が疑問に思ったのはそこではなくて……。
「昔話の差異、憶えている?」
「どうしたのー?」
「くろちゃん、何か分かったんですの?」
二人の声に私は小さく頷いた。
「これは完全に私の憶測でしかないんだけど、雪乃ちゃんが教えてくれた話では村長夫婦が子どもを引き取ったってなってるよね」
二人が頷く。そうなのだ、あの落ちていたペンダントのこともある。なんで若女将がペンダントとの関連を聞いた時に昔話をしだしたのか。
そう、つまり……、
・「村長夫婦は引き取った子どもを殺していたんじゃないかな?」と私は二人に怖い考えを伝えた。
・「女将さんの語った話の方が本当なんじゃないかな?」と私は二人に語った。
うーん、一番も真実の一端な気はするけど、そこに進むにはまだ早い気がする。
「女将さんの語った話の方が本当なんじゃないかな?」
「つまり?」
「村に温泉が出た、それを発見した夫婦が居た。その夫婦が独占しようとしたとか、それとも村で共有するとか、そんな感じで意見が食い違ったんじゃないかな。そして事故か何か分からないけれど夫婦が死んでしまう」
私の言葉に二人が頷く。
「残っている伝承って大抵、権力者に良いように書かれるよね。村で美人と評判の長女だけは村長が妾として囲って、他の子どもは禍根を断つために殺しちゃったんじゃないかな」
うん、二つの物語の差異から、そんな想像が出来るよね。
「その子どもが、新聞に載っていた白骨?」
……た、多分。でも、それだけじゃない。
そう……、
・「女将さんの昔話、表現を柔らかくしようとしていたけれど一部おかしく無かった?」と私は言った。
・「その呪いで旅館が潰れてしまったのね!」と私は仮説を立ててみた。
いや、二番は無いかなぁ。旅館が潰れた理由の一つだとは思うんだけどね。
「女将さんの昔話、表現を柔らかくしようとしていたけれど一部おかしく無かった?」
「そうー?」
「私が聞いていた話と違ったってコトくらいしか」
二人の言葉。そうおかしかったのだ。
「女将さん、『生き残った子ども達』って言っていたのよ! 普通、生き残ったって表現するかな?」
二人があっと驚いた顔をする。そうなのだ、普通は言わない。わざわざ、そう表現するってことは……うん。
「多分、生き残った子ども達が女将さんのご先祖なんじゃないかなぁ」
「つまり、あの旅館を、本社が、女将さんの親御さんが買い取ったのも復讐だったのね」
私は頷く。あくまで予想でしか無いけれど間違っていない気がする。
「えー、でもペンダントはー?」
「多分、村長の妾になった長女さんの子孫じゃないかなぁ。それなら女将さんと似ているのも納得でしょ?」
「いや、私はあの女将の祖母とかを押すわ。あの女将が旧館の秘密を探っていて……ううん、先祖の遺体を探してさまよっている時に落としてしまったのよ!」
うーん、どうなんだろう。
真相は闇の中だ。
すべて私たちの想像でしかない。
でも、旧館から骨が見つかって、あの旅館の会社がちゃんと埋葬するって言っているみたいだし、めでたしめでたしなのかなぁ。
「ちょっと待ってよ! なんとなく謎は解けたみたいな雰囲気になったけど、私、幽霊を見ていないわ! 幽霊よ! あー、もう」
雪乃ちゃんはそんなことを言っていた。
「もうゆっきーは、そればっかりー」
月姫さんも笑っている。
ま、幽霊は居なかったけど、私たちはこれでいいんじゃないかなぁ。
気が向いたら半年後にでも続き書きます。→ 未定?