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短編集 1

作者: 深井佐々木

【効かない、三角形】





「あたしさ、山川の事好きなんだけど」



そう言うと、目の前の山川は、困ったように笑った。

私は、あぁ、多分答えは良くない方だな、と悟った。でもここまできたんだ、最後まで言わなくちゃ。



「付き合ってくれないかな」



春の風が震える私の唇を掠めた。気を緩めたら、涙が溢れてしまいそうだ。



「…ごめん」



答えはやっぱり、思った通りだった。覚悟が少しできていたぶん、ダメージが少なくなった気がした。


私は そっか、と小さく呟いて、空を見上げた。

黄昏たい訳じゃない。涙が流れそうだったから。



「…、好きな人が、いるんだ」



私の言葉より、もっと小さく微かな声で、山川は言った。

好きな人…なら、仕方がない。だが、私が好きな山川が、どんな人を好きになるか、少し気になった。



「…山川、ごめん これだけ、聞かせて。その人って…誰?」



目に涙を溜めて、山川に問う。


すると山川は、少し怪訝な顔をして、黙りこんだ。



「あ…ごめん、聞いちゃ駄目だったか…」



軽い気持ちで聞いたが、ここまで タブーな話だったとは…、と 申し訳なさに一杯になっていると、山川は目を合わさず、下を向いたまま話し始めた。



「中野…」


「…なに」


「これから話すことは、秘密にしてくれないか…?」


「えっ…わかった…」



えらく深刻な顔をしているので、身構えていると、山川は 顔をこちらへ きっぱりと向かせて、言った



「俺、新田が好きなんだ」



再び、春の風が吹き抜ける


私は、山川のその言葉に気をとられ、気付かぬうちに涙を流していた。



「…うそ…」



私はその場にしゃがみこんだ。

理解ができなくて、ぐちゃぐちゃの感情を 一先ず涙にぶつけるしかない






新田、とは、私の友達


幼馴染みで、友達


男 友達。




私の好きな人の 好きになった人は 男子 だった。







「な、中野!?」




駆け寄る山川は 私の肩に手を置くが、反射的に払い除けた。


同情なのか、只 驚いただけ なのか


解らないが、今 山川には近くに寄ってほしくなかった。

ある日は 山川の事ばかり考えて 嬉しくなり、ある日は山川の事ばかり考えて 悲しくなり、 私は人に対して初めてこんなに 一喜一憂 するようになった


それほどまで 好きな人に 寄って欲しくないと 考えるのは 山川にふられたからでもなく、山川が同姓愛者だったからでもない


山川が 普通に 女を好きでいたなら、諦めはついた。だが、男なら?


複雑な気持ちに胸を覆われるが、でも 何も罪もない 山川を責め立てる気には到底なれない。








黙って涙を流し続ける私を 只々眺める山川は、ごめんなさい ごめんなさい と、ずっと謝っていた


違う、私は 山川に謝らせたいんじゃない、


と、心で叫んでも 伝わるはずもない。




ただ一言「応援するね、頑張って」が、言えなかった。

正しくは、言いたくなかった。


そうやって卑屈になっている自分が悔しくて 涙に拍車をかけた




春の風は 絶え間無く吹き抜ける。


少し、すきま風のように寒い春の風が 涙を拐っていってくれたら、と 考えた瞬間 風が止んでいっていた。




end


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