昼休み
昼休みになると必ず自分の時間を邪魔する人間がくる。
それは自分よりも二つ年下で、階段をのぼってまでわざわざくるようなバカだ。
「ハルトさん!おはようございます!」
「本当お前懲りないよな…」
半分諦めている。
「ハルトさん、今日はちゃんと授業受けましたか?」
そいつは持ってきた弁当を開き食べ始める。
俺はと言うと今日は珍しく弟が機嫌が悪く作ってくれなかった。
作ってくれる事自体奇跡ではあるが。
「あれ、ハルトさん弁当忘れたんですか?」
「今日は持ってきてない。」
「私の食べられるのであればどうぞ食べてください。」
「あぁ、ありがとう。」
箸を貸してもらおうとすると拒んだ。
「え、ハルトさん?」
「いや、箸。」
ご飯を食べるには箸がいる。
「これは私がすでに口をつけた物なんですが。」
「良いよ、お前のだし。」
不思議とこいつは触れられる以外は大丈夫だ。
「いや、そうゆう問題では無くてですね…」
少しこいつの顔が火照っている気がする。
熱でもあるのだろうか。
保健室に行った方が良い。
「貸せよ、あとお前なんでここいるの。」
「あぁ〜…!!!そ、それはですね…」
俺よりカナの方がご飯を食べた方が良いような気がした。
気分が悪そうだ。
弁当に入っている卵焼きを箸でとり口に入れた。
「ふむっ。」
なんだか咥えてる姿は間抜けだ。
「うまい?」
「あ、お、美味しい…です。」
さっきよりもさらに顔が赤くなっている気がする。
俺もたまごやきを食べた。
「あ、うめぇ。」
「本当ですか!?」
嬉しそうな顔をしてこっちを見た。
コロコロと顔が変わる女だ。
少し近づいてきたのはあまり、良くはない。
少し距離をおいた。
「ハルトさんって私の事嫌いですよね…」
下の方を見て言った。
そうでもない。
見ていて飽きないし、面白い。
近づいてくる以外は。
「近づいて来なかったらマシ。」
「マシ…。」
それでも周りの女よりはマシだ。
ウインナーをとりまたカナの口に運ぶ。
「ハルトさん、私には気を使わなくて…」
ごちゃごちゃ言ってくるのはめんどくさい。
「私あまりお腹空いてないので…」
「そう。」
それなら先に言えば良いのに。
飯を食べ終わると少し時間がある。
この時間はあまり好きではない。
一人ならまだマシだが一人では無い。
また何か話しかけてくるのだろう。
そう思って横を見た。
「あ。」
寝息をたてて寝ていた。
よだれをたらして寝ている。
人はここまで気持ちよく寝られるのだろうか…。
ただ、寝る場所が危ない気がする。
「…落ちそう。」
もしも後ろにカクンと行ったら落ちるであろう高さしか壁はない。
前かがみになっているもののいつ後ろにカクンといってしまうか。
移動させたいのはやまやまだが女の身体を触るのは抵抗がある。
「考えるだけで気持ち悪い…。」
胃酸が喉にあがってくるような、感覚。
「いや…ここで後ろに行ってしまったら俺は殺人犯になる。」
人はたくさん殺したけど。
引きずる…のはかわいそうだ。
後で引きずった事を怒られるのがめんどくさい。
決心をし、膝の裏と背中の中心あたりに手を当て持ち上げる。
族に言うお姫様抱っこと言うものだがあまりドキドキはしないしむしろ体調がドンドン悪くなっていく気がする。
「軽…。」
そのまま壁の高い方へと持っていく。
運んでいるとカナが目を覚ました。
「えっ。」
「え…?」
その場で立ち止まる。
俺の努力とはなんだったのだろう。
「ひ、ひぃやぁああ!?ハ、ハルトさん!?えっ!?やっ、ちょっ、変なとこ触ってますよね!?」
その場で暴れ始める。
もう持っている理由もないので支えを外す。
そのままカナは地面に落ちた。
「ぎゃっ!いっ、いたぁ!!」
「騒がしいクソ女め…」
思わず思っている事が口にでた。
「え、ハルトさん、この状況は…」
「お前が寝るから、安全なトコに運ぼうと思っただけなんだけど。」
カナは少し考え込み、立ち上がった。
「そ、その…な、何故あのような持ち方を…」
話すならハッキリ目を見て話して欲しい。
「引きずったらお前が文句言ってくるだろ!?」
「引きずるのは確かに嫌ですけど!で、でもあんな…」
「あぁ、もうお前と話すのめんどくさい。寝る。」
あのまま落ちた方が面白かったかもしれない。
そんな事を思ってるとセーターの裾をつまんできた。
ぞわっ、と身体が反応する。
「でも、ありがとうございました、その…心配してくれたんですよね?」
手をよけ俺はカナの方を向いた。
「落ちたら俺は殺人犯になるからな。」
「人殺しのくせに…」
最後のは何も聞かなかった事にしよう。
カナは笑顔だ。
さっきまで困ったような顔をしたり、怒ったような顔をしていたくせに。
「ふっ…本当お前バカみたいな面してるな。」
カナを見ていると、自然と笑顔がこぼれる、変な話だ。
「ハ、ハルトさんはもう少し女の子の事を考えて話した方が良いと思いますよ!」
女の子の考えなんて、考えたくもない。
叱られたのがムカついた。
悪戯にからかいたくなる。
近づけるだけ近づき、耳に口が当たる距離まで近づいた。
「カナ、好きだよ。」
顔を真っ赤にして、こっちを見ている。
それはどうすれば良いのかわからない、と言ってるような顔。
「お休み。」
「か、からかいましたよね!?からかいましたよね!?」
そんな怒鳴り声をよそに眠りについた。
毎日学校に来てるのは、こいつのせいなのかもしれないなんて。