第六章(2/2)
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何かがおかしい…………
何故、今俺は戦ってる? 俺は何の為に戦ってる?
俺は今……何を切った?
ガンッ!! ガンッ!!
手に握られた光の剣は、RSー104号の持つ剣とぶつかり合う。
横に払われた剣を、俺は強引に後方に跳び回避した。
その瞬間、俺の視界がRSー104号の向こうに目的であるRSー105号、塒の元同僚
そして………………
「っ!?」
横たわるナナが目に入ったと同時、俺の目の前に光の剣が現れて凄まじいスピードで迫ってきた。
ガギィ!!
回避は不可能と判断した俺は、瞬時に剣を縦に持ち替えてそれを防ぐ。
鍔迫り合い、俺は握った剣に一際力を込めた。
「あなた……は!?」
感情を消去されてる筈のRSー104号は、まるで感情があるかの様に顔を歪ませて俺を睨みつける。
感情なんて、邪魔なだけ。そう言った筈のクセに、なんて表情だ。
「貴方は、私達にココロを取り戻せ、そう言った!!」
おかしい……その言葉が頭を埋め尽くす。
何故俺は素直に聞いている?
「貴方自身が、自分は兵器では無くアスカと、そう言った!!」
「………………」
「貴方は、感情を持った瞳で私にあの子達を守る、そう言った!!」
ガンッ!! ガンッ!!
と、RSー104号が振るった剣が俺の剣に当たり、衝撃音を響かせる。
(そうか)
「っ!?」
まただ、また頭の中に声が響いた。
(俺の声は、あいつらに届いてたんだな……なら俺は、大丈夫だ)
その声は嬉しそうにそう言って笑う。
「こうして話してる間も、本当は貴方に届いているんでしょう!?」
(ああ、届いてる)
気分が悪い。まるで二人は会話してるかの様に俺の中の何かを揺らす。
瞬間、また横たわるナナの姿が俺の視界に入った。
(スマンな、ナナ。もう少しなんだ)
やめろ、止めろ、ヤメロ!?
「ぐっ!?」
必死に剣を振り払い、勢いを消す事無く、今度は俺が攻撃を仕掛ける。
この距離だ、狙いは決して外さない。
もう楽になりたかった。
直ぐにでもこの場から離れたかった。
「お、わりだ……」
直線で進む光の剣は、的確にRSー104号の頭に向かう。
ああ、これで俺は…………
「ア、スカ」
小さな、今にも消えそうな声。
本来なら無視したであろうそんな声に、俺の意思とは反して動いていた体が急に止まった。
アスカ? アスカは……
(俺だ!!)
違う、俺はRSー99号
(RSー99号なんて、ここには居ない!!)
違う、俺は……
(俺はアスカだ!!)
「ナ……ナ」
口から出たのは、紛れも無く俺の言葉だった。
「ナ……ナナ……
…………?!?!」
な、なんだっ?!
頭が……痛い!?
俺はその痛みに堪えきれず、その場に倒れてしまう。
誰かが何か言っているが、それどころではない。
と同時に、俺の視界をノイズが埋め尽くした。
白と黒の砂嵐しか、俺の目には映らない。
なんだっ?!
回路の故障か……?!
頭痛に堪えていると、ノイズが次第に消えていき、思考回路に大量の何かが流れ込んできた。
ザザザッ
「交通事故で……」
「首から下が麻痺して……」
「もう死にたい……
まだ……生きたい……!」
「生まれ変わるつもりはないかい?
まだ生きたくないかい?」
ザザッ
「塒さま、RS-99の脳波が停止しました」
「ふん、所詮は死に損ないの脳だったか。
まあ、1年も持てば良い方だったかな。
よかったね、1年も寿命が延びて」
ザザザザッ
ううっ
これは何だ……!
ザザザザッ
「強盗が……」
「一家惨殺……」
「あの娘だけ無事で……」
「お父さん……お母さん……!」
「力が欲しくないかい?
憎い犯人に復讐する力が」
ザザザッ
「塒さま、RS-99の脳波が……」
「今度は2年か。 あまり変わらないね。
健康な脳でも、RS-99の演算力に耐えきれないのかな?
次からのブレインには措置をほどこさないとね。
ま、君も未練はないよね。
ちゃんと復讐できたんだし」
ザザザッ
俺が処理できたのはそこまでで、後はただ情報が思考回路を流れるだけ。
やがてそれは止まり、視界が再びノイズに覆われた。
こ、これは……
アスカが見たのは、何かの映像と会話。
少年や少女が不幸な目に遭い、それを見計らったかのように現れる男――塒。
RS-99だと……?
それに彼らは……
……成程。
これは記録……いや、記憶か。
『RS-99になった者達』がRS-99のメモリーに刻み込んだ記憶――『ココロ』。
俺はそれを見ているのか……。
ザザザッ
また視界に映像が映る。
どうやら、少年の記憶のようだ。
年は10歳ほどか。
目の前に塒と、その隣に男がいる。
少年は、孤児だった。
しかし独りぼっちではなく、彼には妹がいた。
少年はただ一人の家族を、とても大切にしていた。
2人は孤児院で暮らしていたが、ある時、妹が病気で倒れてしまう。
その病気は現代の医学での治療は難しく、医者すらも諦めた。
日に日に弱っていく妹。
絶望する少年の前に現れたのが、やはり塒。
「可愛い妹を助けたいかい?
妹の笑顔を、また見たくないかい?
君と引き換えに妹を助けてあげられるんだけど、どうかな?」
少年は、それにすがるしかなかった。
塒が少年に求めたのは、実験の被験者になること。
何らかのトレーニングをして、手術を受けること。
しかし少年は、自分の身体より妹の命の方が大切だった。
今日はそのトレーニング施設に入る日。
目の前の塒が、少年に手招きをする。
と同時に、背におぶっている妹から弱々しい声が聞こえる。
「いかないで……おにいちゃん……」
しかし少年の決意は揺らがず、妹を塒の隣にいた男に託した。
「妹を……
……ナナを頼みます」
「……ああ。
私が必ず助ける」
「さあ、行こうか」
「おにいちゃん……!」
ザザザザザザザザザ!
映像はそこで途切れる。
情報の流れも止まった。
ということは、あれが最後の『RS-99になった者』のココロ。
『最後』の、つまり……
あれは……俺の記憶なのか……?
……
…………
……成程な。
俺は昔から妹思いだった訳か。
サイボーグになってからも妹「達」の世話をやき続けて……
最後には、一番大切な「妹」を斬ってしまったというのか……。
ククク……滑稽だな。
俺は塒の手のひらの上で踊らされっぱなしだったという訳だ。
すまない……
ナナ……リン……RS-104……
すまない……!
ここで俺の意識は、白黒のノイズに呑まれていった。
情報の濁流が止まる。そして意識を取り戻した俺が最初に見たのは、真っ青な空。
起き上がろうとするが、身体が動かない。その原因はすぐに分かった。RS-104号が俺の腹に右足を乗せて固定しているからだ。
俺の頭には3本の剣と1つの銃が突きつけられている。潮博士はともかく、2人のリンは拘束したはずなのだが………。
まぁ、自分達が取り出した手錠だ。壊す事など容易だったのだろう。
「………正気に戻りましたか」
「………さぁな」
何だか、色々な事に必死になっていた過去の自分が馬鹿らしく思えてきた。
空が高い。照り付ける光は近くに認識できるのに、その源の太陽があまりにも遠い。
「アスカ………どうしてナナを斬った」
「どうしてナナを斬った」
「………どうしてだろうな」
記憶を、いや『ココロ』を取り戻した今の俺には、何もかもがどうでもよく思えてくる。妹であるナナを傷つけてしまった。取り返しのつかない事をしてしまった。
その事実が、どうしようもない虚無感となって俺を襲う。
「もうじき番の手配してくれた医療チームが来る。………正直ギリギリだが、決して助からないわけじゃない」
「………そうか」
その言葉を聞いて安心した。もしナナを死なせてしまったら、俺は………。
「俺は………もうサイボーグでも人間でもない。そのまま俺を突き刺して、俺を終わらせてくれ」
「……断ります。貴方は、『アスカ』という人間なのでしょう………!?」
「冗談は止してくれ。人殺しの兵器としては、戦闘中にフリーズするなんてとんでもない欠陥品。人としては、妹に手をかけるなんてとんでもない人でなし」
「アスカは、アスカ」
「アスカは、人間」
RS-104号は怒りの中にも悔しさや悲しみ、2人のリンは心配と不安が混ざったような表情で見つめてくる。
そんな顔、できるようになれたんだな。
「……俺は、サイボーグでも人間でもない………」
「では何故、貴方は………!」
だができれば、『アスカ』として終わりたかった。
「泣いているのですか………っ!!」
目尻から頬を伝い、渇いた大地に水がどんどん吸い込まれていく。
故障でもしたかと思っていたが、どうやら俺は本当に、涙しているようだ。
「これは……驚いた………」
皆の顔が、太陽が、空が、ぐにゃぐにゃと揺れ動くから上手く認識できない。
リンが、RS-104が、潮博士が歪みながら揺れる。
その後ろにある抜けるような青空も滲んで見えた。
「俺は…………」
思い出さないでいたほうがマシだった。
目尻から、また一筋涙がこぼれる。
『アスカ』でいたい。でも、そう思う故に自分のことが許せない。
心を一度でも失ったなら、そのまま取り戻さずに悪人としてリンやRS-104に『壊された』ほうが良かった……
なのに、今
俺が『アスカ』に戻ったと知って誰も動かない。
「只今到着致しました!」
張りつめた空気を破ったのは番さんの呼んでくれた医療チームの声だった。
「そうか!………光の剣で………そう、斜めに……」
頭に向けられていた銃がひとつ消えて、潮博士はたちまちナナの方へ行く。
「あなたは自暴自棄になって、まわりに甘えているだけじゃないんですか。」
急に静かになった中、口を開いたRS-104が哀しそうな瞳で見つめていた。
「あなたは人間です。正真正銘のナナの兄です。過ぎたことは変えられません……ならば、今あなたは、あなたにできることをするべきではないのですか!」
RS-104にこんなに感情的に怒られる日がくるとはな。
「………これじゃあ立場逆転だな……」
熱く乾いた砂漠の風が通り過ぎて足元の砂の形を変えてゆく。
俺の中に巣食っていた諦めや虚しさもそれと一緒に崩れていくような気がした。
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「着いたはずなのになかなか来ないと思ったら、面白いことをやってるねぇ……」
モニターを見つめる目に醒めた光を宿して塒が呟く。
暗い部屋に虚ろに響く声に、RS-105が反応する。
「おもしろいこと」
「そう。面白いこと。そして、RS-99……今回の脳は意外と強いんだね?」
塒の唇がにやりと歪む。
「RS-105……お客様をお迎えに行きなさい」
「りょうかい」
どこまでも機械的な声が重なって、部屋の中からRS-105が消える。
「わざわざ出向いてきてくれるとは……。しかし、これで全ての駒が揃う!」
空っぽの部屋に塒の興奮した声が響いた。




