婚約破棄を繰り返していた王太子が、ついに壊れました。
前回のあらすじ
淑女たちの女子会。婚約破棄野郎をどうやってざまあ(始末)するか話し合っていた。その二日目。
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わたしは こんやくはき
えいえんの いのちをもつ
のろわれた へび
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「マーガレット・フォン・アルディス!
貴様との婚約を――破棄する!」
広間がざわめいた。
だが、婚約を破棄された当人は、静かに本を閉じただけだった。
「……はい、承知いたしたでござる。
ならば、もう帰ってもよろしいでござるか?」
あまりにも平然とした返事に、王太子は一瞬言葉を失う。
「な、なんだ、貴様のその反応は!婚約を破棄されるんだぞ!?もっとこう、何かあるだろう!?」
マーガレットは小さく首をかしげる。
「と申されても……
拙者、貴方様という生物に、微塵も興味はござらぬゆえ」
王太子の顔がみるみる赤くなる。
「マーガレット、貴様!」
王太子は苛立ったように隣の令嬢の手を取った。
「よく見よ! こちらが我が新たなる婚約者カトリーヌだ!陰気な貴様とは比べ物にならぬほど美しいだろう!」
カトリーヌは若く、美しく、穢れを知らぬ令嬢。
柔らかな金の髪に、透き通るような肌。
だがマーガレットは、その令嬢をじっと見つめていた。
やがて、ゆっくり歩み寄る。
「……じゅるり……いと美味しそう。
いやいや、いと尊き素質にござる。
麗しきカトリーヌ嬢、ちと失礼つかまつる」
マーガレットは懐から一枚の紙を取り出した。
「さあ、こちらをよくご覧あれ」
それは写し絵。
そこに描かれているのは――覇姫エレクシア。
凛とした眼差しと銀髪。
深紅のドレス。
その姿は、神々しいほどに美しかった。
カトリーヌは思わず息を呑む。
「……なんて綺麗な女性。逞しくて神々しいほど美しいわ」
マーガレットの眼が怪しく光る。
「いとうつくしき御姿にござろう?」
「え、ええ……とても」
「この御方こそ、覇姫エレクシア様。
拙者の愛しの“推し”にござる」
「おし……とは?」
「フフフ、“推し”とは、
我が人生そのもの」
そう言ってどこからかさらに紙束を取り出す。
写し絵、詩、小冊子。
そして。
怪しげな表紙の薄い本。
推し語り
推しを描きては
いと尊し
令嬢は特に薄い本に目を輝かせ、マーガレットへ身を乗り出した。
「ああ……ゴクリ……す、素敵ですわ。
わたくしもその“推し”を、知りとうございます」
いつの間にか二人は床に座り込んでいた。
ドレスの裾も気にせず、紙を広げ、
キャッキャウフフと語り合っている。
王太子が慌てたように声を荒らげる。
「……おい、余の婚約破棄の話はどうなった?」
マーガレットは静かにカトリーヌへ手を差し出した。
「あのような道端の糞は放っておいて、共に“推し”を愛でるでござるよ。
尊きは正義」
カトリーヌは少し迷った。
だがやがて、その手を取る。
「……私も、エレクシア様を“推し”てみたい……ですわ」
マーガレットは満足げに頷いた。
「ようこそ、こちら側へ」
王太子の顔が引きつり、何かを言いかけた。
その瞬間――。
どこからか美しい歌声が聞こえてきた。
ラーララーラ♪ ヤッホッホー♪
ヤッホッホー♪ ヤッホッホー♪
ラーララーラ♪ ヤッホッホー♪
おしーえてー
おうたーいしー
おしーえてー
おうじさまー
おしえてー
ねえ、いま
どんなきもち?
王太子が振り向く。
そこには無機質な表情のメイドたちが並び、王太子をじっと見つめていた。
不気味に口が開く。
「ねえ」
「いまどんな気持ち?」
「ねえ、おしえてよ」
「いまどんな気持ちなの?」
「覇姫エレクシア様に」
「二人の女を寝取られて」
「いまどんな気持ち?」
王太子の顔が青ざめ、腰が抜けたように尻餅をついた。
「ひい、な、なんだこれは……!」
兵士たちが隊列を組み、会場へなだれ込んでくる。
ドン! ドン! ドン!
NTR! NTR!
NTR! NTR! NTR!
NTR! NTR! NTR!
NTR! NTR! NTR!
DVD!
整然と並んだ兵士たちが雄々しい声で大合唱を始める。
王太子の背後で、マーガレットがそっと囁いた。
「可愛い坊や、
貴方こそ真の“され王”。
ざまあされ、
NTRされ、
蹂躙される運命。
さあ、エレクシア様に全てを捧げるでござるよ」
マーガレットは、
まるで今は亡き母のように、
優しく微笑んでいた。
「大丈夫にござるよ。
恥ずかしいことではござらぬ。
恐れることでもござらぬ。
さあ、全て差し出すのでござる。
それが貴方様の望みなのだから」
「ぼ、ぼくの……母上……?
……マ、ママなの……?」
おしーえて、おうたーいしー
おしーえて、おうじさま
おしえてー
ねえ、いま どんなきもち?
無表情のメイドたちが輪を作り、王太子の周りをスキップで回り始める。
「ぼ、ボクは……」
兵士たちが剣を盾に打ち付けながら、雄々しく叫ぶ。
決断を迫る。
NTR! NTR! NTR!
NTR! NTR! NTR!
NTR! NTR! NTR!
NTR! NTR! NTR!
DVD!
天井から天使の羽が舞う。数人の妖精が舞い降り、王太子の頭上を旋回する。
うちひとりが王太子をそっと抱きしめる。
「さあ、受け入れるのです。
あなたは……ざまあの愛し子」
王太子が涎を垂らし、虚ろな目で立ち上がる。
「ぼくは、ざまあのいとしごだ!
ウヒヒヒ、もっともっと……
ざまあを、されたいなあ」
王太子は明日へ向かって駆け出した。
天井で鐘が鳴り響く。
まるで彼の門出を祝うかの如く。
――完
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マーガレットがやり切った顔で紅茶を啜る。
「と、まあこんな感じでござる」
エレクシアが腕を組み、感心したように頷く。
「ううむ、見事だ。
王太子を物理的に破壊するのではなく、精神汚染して狂わせるとは」
四天王セラフィーナが静かに言った。
「なかなかのものです。
肉体を壊すより、精神を壊す方が後処理が簡単」
醜姫ブスが腕を組む。
「甲乙つけがたい……皆、素晴らしいざまぁだった」
エレクシアが脚を組み直した。
白磁のように滑らかな脚がちらりと覗く。
「そうだな、ではそれぞれ、これだけはやりたいポイントを挙げていこう」
指を一本立て、少し誇らしげに言う。
「俺様はやはり無礼者は粉砕したい。
究極奥義で股間から焼き尽くす」
「推し様は“物理的”ざまあでござるな」
マーガレットが頷く。
セラフィーナが淡々と言う。
「私はまずは漢の生き様を問い、やはり王太子如き、槍で始末したいです」
「“漢の生き様”と槍攻めでござるな」
醜姫ブス・グロリアが腕を組む。
「むう、オレは……」
三人の視線が集まり、恥ずかしそうに告げる。
「覇帝エレクシアン様が白馬の王子のように現れ……
それで、その……プロポーズされたい……」
「呪いが解けて聖女になるのは?」
セラフィーナが補足する。
「いや、そこは重要ではないんだ。オレは別に醜女のままでも構わないからな」
最後にマーガレットが望みを言う。
「我は王太子を狂わせたいでござる。狂った後なら焼き尽くされようが、串刺しにされようが構わぬでござる」
「では――ふむ。
全部まとめてやるとどうなるだろうか」
全員の目が輝く。
「さすがはエレクシア様。素晴らしいお考えです」
セラフィーナが紅茶を置く。
「では全入れの簡易版をやってみるでござるか。
令嬢役はブス殿で」
全員が頷いた。
「ニホンの神々よ、これが正真正銘のざまあ。
篤とご覧あれ」
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王宮の大広間。
「ブス・グロリアよ!貴様との婚約を破棄する!
理由は貴様が醜いからだ」
「はい、仰る通り私は醜女です」
王太子の宣言に、ブス・グロリアが崩れ落ちる。
その瞬間――
ドォン!!
扉が弾け飛び、覇帝エレクシアンが現れた。
「探したぞブスよ。我が妃となってくれ。
貴方を心から愛している」
覇帝が跪き、プロポーズをする。
真実の愛に呪いが解け、ブスは光に包まれ――聖女へと姿を変える。
「ふざけるなぁ!死ねえ!」
王太子が豹変し、剣を振り上げる。
だが次の瞬間。
空が黒く染まり、
覇天エレクシアンの護衛騎士セラフィーナの声が静かに響いた。
「――愚か」
数千の鋼の槍が天から降り注ぎ、王太子を串刺しにする。
「ぐぼぁああ!」
血まみれで死に損ないの王太子の周囲で、無表情のメイドたちが輪を作り歌い出す。
おしーえてー
おうたーいしー
おしーえてー
おうじさま
おんなのー
いきざまと
いまのきもち
メイドたちと貴族たちが次々と王太子に問いかける。
ねえ、いま
どんな気持ち?
無様にやられて
聖女をねとられて
漢の生き様もわからず
ねえ、教えてよ
ねえ、答えてよ
おんなの生き様と
今の気持ちを
兵士たちが盾を打ち鳴らし、雄々しく叫ぶ。
NTR!
NTR!
DVD!
その時。
王太子の背後から、
マーガレットが優しくそっと囁いた。
まるで聖母のように。
「王太子殿――
貴方様こそ、ざまあの愛し子にござる
恐れず受け入れるのです」
マーガレットが、まるで聖母のように微笑んだ。
王太子の身体が震える。
「ウヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」
肉が裂け、骨が歪み、
王太子は異形の怪物へとその姿を変える。
「ぼくは!
ざまあのいとしごだぞぉ!
みんな、こんやくはきして くってやる!」
「愛しき聖女ブスよ、離れておれ」
覇帝エレクシアンが一歩前へ出る。
「覇天奥義――日輪滅股殺蹴」
太陽の如き蹴りが、怪物の下半身を焼き尽くす。
股間から焼かれ、やがて王太子は灰となり崩れ落ちた。
消えゆく中で、王太子だったものは小さく呟く。
「さすがだ……覇帝エレクシアン……
余の勝てる相手ではなかった。
そしてありがとう……余を止めてくれて……
これで、逝ける……」
――完。
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「ま、こんな感じか」
エレクシアが満足そうに伸びをした。
「よし、じゃあみんなで甘味でも食べようか」
メイドに軽く手を振る。
「ケーキを持って来てくれ。あと紅茶も」
「おお、ケーキか!」
ブス・グロリアがぱっと顔を輝かせる。
「早く食べましょう」
セラフィーナが小さく頷く。
「甘味は死闘の後の楽しみでござる」
マーガレットも目を輝かせた。
「拙者は苺の乗ったものが良いでござる」
「オレはチョコがいいな」
「いや待て、全部食べればよいではないか」
「メロンが乗ったのもいいですね」
テーブルにケーキが並び、四人は楽しそうに笑った。
キャッキャッウフフ。
乙女たちの女子会は続く……
――これで終わりのはずだった。
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――その頃。
王都の街角。
一人の男が、街をふらふらと歩いていた。
貴族の衣服を着ており、明らかにやんごとなき身分の男。
それは――
この世から消滅したはずの
王太子その人。
近くを歩いていた母娘が、彼を見て囁く。
「ママー、あのおうたいしさま、
なんかぶつぶついってるー」
母親が慌てて子供の目を隠す。
「しっ、見ちゃいけませ……
いや、ま、まさか、あれは!
あのヘビは破滅の悪魔の化身!?」
王太子は虚ろな目で、同じ言葉を繰り返していた。
まるで誰かに語りかけるように……
わたしは
こんやくはき
えいえんの いのちをもつ
のろわれた へび
ざまあされても
ねとられても
おういを はくだつされても
ほかの さくひんに
のりうつり
また
こんやくはきを
してしまう
えいえんに
ものがたりを
くりかえす
のろわれた あくまのけしん……
王太子は、そう呟きながら
どこかへ歩いていった。
セクシーすぎ、可愛すぎ?な理由でお蔵入りになった覇姫エレクシアのサービスショット?
もったいないので、ここにこっそり貼っておきます。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。 もし少しでも面白いと感じていただけたら、 ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです^^
この短編集を一気読みしやすいようにした連載版。
☆★ 婚約破棄され系女子 ( 漢 ) の芸術的ざまぁ劇場。
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