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剛天将軍

「はいはい、どちら様…あっ! シスターディアナ! こんにちは! それと、リュシアネル様もお帰りなさい!」


 ディアナ、メリッサ、リュシアネルの三人がとある民家を訪れる。ディアナは光の鞘に収まった例の暗黒剣を携えており、そのディアナを未だ険しい表情で睨んでいるメリッサ。どうやら剣の事での和解はまだできていない様だ。


「こんにちはエリル様。ルドガ様はどちらに?」


「お兄ちゃんはおじいちゃんと一緒に奥の部屋にいます! バジリア先生もついさっき来られました! 案内しますね! こっちです!」


 そう言って、民家から出てきた少女…エリルの案内の下、民家の中に足を踏み入れる三人。案内された部屋には凛々しい顔立ちの緑髪の青年、厳しそうな顔立ちの老人、何故か凛々しい顔立ちの青年の影に隠れている女性、そしてバジリアの四人の人物がいた。


「おお! 来たかディアナ君! 子供たちは無事に教会に帰しておいたよ」


「いつも勉強を見て頂いてありがとうございますバジリア先生。そして、こんにちはルドガ様、ビューイ様。先日お伝えした通り、本日は例の剣を持参しました。これを…」


 バジリアに礼を伝えた後、改めて緑髪の青年…ルドガに挨拶を、そして間髪入れずに手に持っていた剣をルドガに手渡すディアナ。


「な、なあルドガ。ほんとーにこんなぶきをつかうのか? りゅしあねるの光の力でもかくしきれないほどのつよくこわい力をかんじるぞ…」


 手渡された剣を老人…ビューイと一緒に見つめていたルドガだったが、不意にルドガの影に隠れていた女性が微かに震えた声でルドガに話しかける。よく見るとこの女性、頭に獣耳が生えており、腰のあたりからはフサフサの尻尾が生えているではないか。怯えているのか耳は折れ、尻尾は丸まっているが。


「仕方ないんだ、ミルト姉。この剣以外では、奴に手傷を負わす事が出来ない」


 そう言って、柄に手をかけるルドガ。視線を老人にやり、老人が頷くのを確認してから、意を決した様子で剣を鞘から僅かに引き抜く。が、次の瞬間、剣から強烈な暗黒のオーラが放たれる!


「ぐっ!?」「ぬうっ!?」「ひうっ!?」「うっ…!」「あうっ…!」


 ルドガ、ビューイ、怯えている女性…ミルト、バジリア、エリルのそれぞれが、この強烈なオーラに苦悶の声、もしくは悲鳴を上げながらのけぞる。メリッサとリュシアネルも声こそ上げなかったが、オーラにあてられたのか、その顔は微かながら苦悶に歪んでいる。


「ルドガ様、大丈夫ですか?」


 そんな中、唯一表情に変化のないディアナがルドガに近寄り心配そうに見上げる。


「大丈夫…とは言い難いな。鍔元(つばもと)しか見えていないのにこの激烈な暗黒のオーラ。全部引き抜けばどうなってしまうんだ」


「うむ…。とはいえ、ディアナ殿がこの強度で作ったという事は、これくらいでなければ奴の鎧には痛打(つうだ)は期待できん…という事ですな?」


 青ざめ、冷汗をかいているルドガに、同じ表情のビューイが難しい顔でディアナに問う。対して、首を縦に振るディアナ。


「―――なら、使いこなしてみせるしかない。父さんと母さんの仇を取るために」


「うむ…」


「お兄ちゃん…」「るどが…」


 その頷きを確認したルドガは、決意の言葉と共に剣を鞘にしまう。そんな彼を、険しい表情で見据えるビューイと、心配そうに見つめるエリルとミルト。リュシアネルもどことなく心配そうだ。


「少し、いいですか…?」


 と、ここでメリッサが割って入ろうとする。何やら大分改まっている様だ。


「ご老人…。つかぬ事をおたずねしますが、貴方はもしや”ビューイ・アルセイム”殿でしょうか…?」


「む…。いかにも、それは儂の名じゃが…」


「やはり…! かの剛天(ごうてん)将軍にこの様な地で出会えるとは何たる僥倖(ぎょうこう)か!」


 恐る恐る…と言った感じで尋ねるメリッサ。そして、ビューイが頷くと今度は感極まった様子ではしゃぎだした。


「メリッサ様はビューイ様をご存じで?」


「当たり前だ! かつて城に仕えていた将軍にして、ここ百年以内では間違いなく最高最強の人間の戦士だった御方! 竜人の国で開かれた御前試合(ごぜんしあい)では、屈強な竜人を始めとした百戦錬磨(ひゃくせんれんま)の各種族の猛者(もさ)たちを相手に優勝を飾ったほどの腕前! これはもう四十年近く前の話だが、今なお語り草にされている偉業なのだぞ! 彼の者の剣は天から下された(いかづち)が如き威力の剛剣…剛天将軍の呼び名の由来だ!」


 何気なく聞いたディアナに、凄まじい早口でまくし立てるメリッサ。そのはちきれんばかりの笑顔にキラキラと輝く瞳をみるに、彼女自身も非常に憧れていたであろう事がありありとわかる。


「だが! 二十年ほど前に引退され、その数年後に息子夫婦と共に獣人の国へ渡った際に唐突に行方不明となられてしまったのだ…。ビューイ殿! 今まで一体何をしておられたのです!?」






 メリッサの質問にぽつりぽつりと答え始めるビューイ。


 それによると、獣人の国へ向かっていたある日、盗賊達の襲撃にあったそうだ。当時はまだ老いてなお盛んだったビューイは言わずもがな、父の武勇を受け継いだ息子…ヘルゼンと優秀な魔術師だったヘルゼンの妻…ネリルの三人が盗賊如きに後れを取るなどありえない…筈だった。


 盗賊どもを蹴散らす一行の前に現れたのが盗賊達の長。その長が着ていた鎧の前にはビューイやヘルゼンの剛剣もネリルの魔術も全て跳ね返されてしまったそうだ。


「ぎへへへへへっ!! この魔王が着てたっていう鎧の前じゃ、剛天将軍様の剣も形無しだぜぇ!」


 盗賊団の長は確かにそう言ったらしい。当然、攻撃が効かないのでは勝機はない。ヘルゼンとネリルは己を囮とし、ビューイとまだ幼かったルドガと生まれたばかりのエリルを逃がしたそうだ。


 そうして、息子夫婦の仇を取るために魔王の鎧に対抗する力を求めて十と余年、魔王の転生者がいるという噂を耳にし、ビューイは藁をもつかむ思いで最近この町に越してきたそうだ。






「なんと…。そ、その様な事が…」


 ビューイの話を聞き終え、愕然とした様子で呟くメリッサ。他の者達も、もれなく沈痛な面持ちだ。


「そのとうぞくだんのおさなんだけど…。獣人らしいんだ。同族として…そして王族につらなるものとして、わたしはそのおさをせいばいしないといけない」


「復讐は復讐を呼ぶのみ。されど、悪は裁かれなければいけません。ルドガ…我が最愛の夫よ、心配はいりません。貴方の心がその剣によりどれだけ暗黒に捕らわれようと、必ず私が光を灯してみせましょう」


 そんな中、ミルトも決意の声を上げ、リュシアネルも静かに…しかし力強く声を上げる。が、その時に発した”夫”という言葉に、メリッサは「…ん?」と首を傾げる。


 見ると、いつの間にかルドガの隣に移っていたリュシアネルは、愛おしそうにルドガの剣を持っていた手を自分の両手で覆っているではないか。


「あ! りゅしあねるずるい! わたしもるどがをてつだうんだからっ! あと、夫って何!? 夫ってつがいのことだよね!? まだつがいになんてなってないじゃん!」


 そんなリュシアネルに対抗するようにルドガの背中から抱きつくミルト。ここで初めて分かったが、ミルトの身長は凄く高い。鍛冶師のテモリアに並ぶほどだ。対して、ルドガの身長はミルトの胸辺りくらい。当然、背後から抱きつかれるとルドガの後頭部に当たるのはその豊満な…。


「ミルト姉もリュシアネル様も少し離れてくれないか…?」


「いやだっ!!」


「お断りします。あと、私の事はリュシアネルと呼ぶように。様はいりません」


 恥ずかしそうに頼むルドガだったが、断固とした否定に頼みは切り捨てられてしまう。一方、唐突に雰囲気が甘酸っぱくなった事に、メリッサは「なんだ…?」と困惑気にルドガを見つめる。


「あー…ちょっと話は変わりますけど…。その、魔王の鎧に対抗する手段を探している旅の中で、ルドガ様、天人の占い師に女難の相が出ていると警告を受けた事があるらしくて…。その時は興味ないと切り捨てたらしいんですけど…」


「成程…。最近になって兆候(ちょうこう)が出てきていると…」


「ビューイ様は顔も広い方だったので、ミルト様もリュシアネル様もルドガ様とはもともと縁はあったらしいんですけどね…」


 困っている様子のルドガに構わずスキンシップを続けるミルトとリュシアネルを見ながら、ディアナの説明を受けるメリッサだったが、その顔色から困惑の色が消えることはなかった。

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