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暗黒剣と光の鞘

 町の中を歩く五人。先頭にディアナ、そのすぐ横に何やらすごく落ち込んだ様子のメリッサ。そして、後ろに二ドレとリュシアネル、すこぶる上機嫌なピランチだ。先ほどの勝負の結果が表情に出ているのは言うまでもない


「メリッサ様。どうか気を確かに。習っていない物など答えようがありません。ましてや、メリッサ様ご自身も仰っていたように、この辺境であのような高度な言語が出てくるなど誰が予想できましょう」


「ほっときゃいいんですよシスターディアナ。俺が挑発したとはいえ、受けたのは勇者様の意思なんですから」


「―――うむ。申し訳ないが、あのような安い挑発に乗るようでは勇者殿もまだまだ未熟と言わざるをえぬ。御身は既に戦場に立つ身。下らぬ挑発などをいちいち受けていては、勇者殿は勿論、貴女にお供する者達の命すら幾つあっても足りぬ。そのあたりはご自覚なされよ」


 慰めようとするディアナ。一方、ピランチと二ドレからは厳しい意見…特に二ドレの方は非常に辛辣だ。


「む…。確かにそれはそうなのですが…」


「よしっ! 反省終わり!」


 そんな二人に何か言い返そうとするディアナだったが、その直前に唐突にメリッサが己の顔を両手で叩き、気合の声と共に顔を上げた。


「おおっ!? め、メリッサ様…大丈夫なのですか?」


「当然だっ! 魔王に心配されるほど私はやわじゃない。二ドレ殿。忠告、心に刻んでおきます。そしてピランチ! 次は負けんからなっ!」


 急激なメリッサの復活に流石のディアナも少し困惑気味だが、続くメリッサの言動にディアナは一瞬呆気にとられた顔をした後にふふっとほほ笑みを洩らし、二ドレも満足げに頷き、ここまで沈黙を貫いていたリュシアネルも微笑を浮かべている。そして、


「ふんっ。貴族様なら貴族様らしく気に入らねえ奴は権力で黙らせりゃいいのによ…」


 ピランチは何処か複雑そうな表情と共に鼻を鳴らす。


「それで魔王よ。次は何処へ向かっているのだ?」


 そんなピランチを気にも留めず、メリッサはディアナに次の目的地を聞く。心なしか、その声色には興味の色が感じられる。






 そうして次の目的地…鍛冶屋に着いた一行。


「よく来た。依頼物は完成している」


 その鍛冶屋の主と思しき人物が一行を出迎える。2メートル近い身長に筋骨隆々とした肉体。短い黒髪に、顔つきも整いながらも野性味にあふれておりどう見ても男性に見える…のだが、巨大に突き出ている二つの胸元がこの人物が女性である事を如実に示している。


「………。うむ! 依頼の品、確かに頂戴した。さすがテモリア殿だ! 団員分の数の武具を、しかも加工が難しいと言われるマジクエンで作り上げ、そして品質も申し分なし!」


「ただのしがねえチンピラだったこの俺が、こんな立派な槍を持てるなんて…! ほんと、シスターディアナ様様だぜっ! へへっ、これで自警団もなかなかサマになりますね団長!」


 その依頼物…無数の槍や剣、弓、盾、鎧を前に、その手触りを確かめ満足そうに頷く二ドレ。ピランチも何やら感極まった様子でそれらの武具を見つめている。


「マジクエン…ブラックメタルの次に硬いと言われる鉱石か…。そんな物一体どこで…?」


「最近、この近くの洞窟で見つかったのです。なので、私の知識の下、余力のある町人が採掘してくれているのです」


「―――何なんだこの町は? 王都でもらった情報と全く違う。ひねくれ者、はぐれ者が作った吹き溜まりの町じゃなかったのか?」


 一方、メリッサはこのマジクエンという鉱石の出所を訝しむ。これについては即座にディアナが答えを出してくれたが、それを聞いて尚、メリッサは不可解そうに頭をひねっている。


「シスターディアナ、リュシアネル様。お二人の依頼物もこちらに…」


 そんな中、鍛冶屋の主人…テモリアがディアナとリュシアネルに一振りの剣とそれを収める(さや)を手渡す。ディアナに手渡されたのは、持ち手に髑髏(どくろ)をあしらった見るからに禍々(まがまが)しい剣。一方、リュシアネルの方はその背中にある四枚の羽根をあしらった、神々(こうごう)しい鞘だ。


「また、対極な見た目の剣と鞘だな。持ち主にはあってはいるが」


「残念ながら、この剣は私やリュシアネル様用ではないのです」


 その剣と鞘を見たメリッサが率直な感想を漏らす。だが、その感想にディアナは首を横に振る。と、ほぼ同時にリュシアネルは鞘を机の上に置き、両手を胸元で構えながら呪文を唱え始めた。


 すると、その構えた両手の中に光球が発生する。メリッサが「…っ」と息を漏らしたのを見るに、それ程に濃密な魔力がこの光球には込められているのだろうが、リュシアネルは躊躇うことなくこの光球を目の前の鞘に向けて放つ。


 光球と融合する鞘。途端、鞘が神々しい光を放ち始めたではないか! 先ほどはあくまで形状が神々しいというだけだったが、今はもう形状から纏う光から、放たれる雰囲気から、全てにおいて神々しさが増している。これが神の創りし鞘だ。と、言われてもすんなり納得してしまうほどだ。


「こ、これは…っ!?」


「マジクエンの最大の特徴…ご存じですか?」


「…っ! そうか、魔術による強化! マジクエンは魔力の影響を受けやすく、魔術を(ほどこ)しやすい…そして、その施しの強度によってはブラックメタル製の武具よりも強力になるという…。しかし、その素材を加味してもこの威容! 私の持つ神剣、エクリカルブスに迫るものだ! 流石はリュシアネル殿の魔術強化だ…」


 ディアナの言葉を受け、理解と共にリュシアネルの能力の高さに目を見張るメリッサ。一方、そのリュシアネルは僅かながら息を切らしていた。よく見ると微かながら冷汗がその真っ白い頬をつたっている。


「……は……は…あっ…。シスターディアナ、これが私の掛けられる全力の封印の力です」


「わかりました。では、次は私の番ですね」


 そう言って、鞘の隣に持っていた剣を置くディアナ。そして、あしらわれている髑髏に手を置く。


 ディアナから徐々に湧き出てくる禍々しき漆黒の魔力。その魔力が剣に際限なく送り込まれ、ドンドンと刀身が魔力と同じ漆黒に染め上げられていく。


「―――うん、これくらいでよいでしょう」


 そう言って、髑髏の意匠(いしょう)から手を離すディアナ。出来上がったのは漆黒…を更に超えた暗黒の剣。放たれる凡人でも視認可能な程に濃縮濃密なオーラから感じるのは、触れる物全てを破壊せん…という純粋な破壊の意思。まさしく、魔王が手掛けた暗黒の破壊剣と言った感じだ。


「素晴らしい…光と闇の交合…まさしく究極の武具だ…」


 存在的にも対極となってしまった剣と鞘を目のあたりにし、テモリアは感嘆した様子で呟く。やはり、鍛冶師としては天人の王族、そして魔王の手掛けた武具というのは興味深い物なのだろう。


「魔王…。貴様、こんな恐ろしい剣で一体何をするつもりだ?」


 一方、メリッサは剣呑な雰囲気でディアナを問い質す。抜剣(ばつけん)の構えを見せている事からも、もし答えが危険なものならば、この場で切り捨てる! といった雰囲気だ。


「先ほども言いましたが、これは私用ではありません。この剣を必要としている者がいるのです」


「ふざけるな! この様な(おぞ)ましい剣、貴様意外に誰が扱えるというのだ!? 並の者は勿論、心身ともに鍛え上げられた英雄でもこの禍々しき破壊の力の前では心が壊されてしまうだろう! なにより、この様な過剰な力を振るう相手など存在せん! 貴様という例外は除くがな!」


 対して、身振りを交えて説明するディアナだが、メリッサは構わず大声でまくし立てる。だが、次のディアナの言葉にメリッサは思わずと言った様子で眉根を寄せてしまう。


「かつて魔王が着ていたという無敵の鎧。これを装備した相手…と、すればどうです? あれの防御を貫通するには貴女の神剣かこの暗黒剣しかないと思います」


「―――魔王の鎧…だと?」

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