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魔族からの迎え

 僅かな間の睨み合いの後、最初に動いたのは再びのメリッサだ。常人には見る事もかなわないであろう物凄い速さで間合いを詰め、剣をディアナの頭に振り下ろす。対して、ディアナは見るからに只の木の棒で、この一撃を受け止めてしまった!


「なっ…!? な、何故切れないっ!?」


「ノーマが毎日の教会周辺散策で見つけた、この良い感じの木の棒。そう簡単には切らせませんよ」


 驚愕に目を見開くメリッサに、ディアナはニコッと笑みを浮かべて答える。恐らくは魔力で木の棒の硬さを強化しているのだろう。


「―――魔王よ。この剣に見覚えはあるか?」


「勿論。前世の私にトドメを刺した剣、神剣・エクリカルブス…でしたっけ?」


 不意に、メリッサがディアナに問う。簡潔に答えるディアナ。


「そうだ。そして、今世においても貴様を討つ剣となる。神剣よ! 我に力を!!」


 微笑を浮かべたままのディアナに対し、メリッサは大声で叫ぶ。すると、その声に反応するかのように剣が輝きを増し、力強く神々しい魔力を放ち始めた! が…。


「ぐっ…! ぐうう……っ!! ぐううううーーーっ!!!」


「駄目ですね。前世の勇者が放つ神剣の威力はこんな物ではありませんでした」


 威力の増した神剣をもって、メリッサはそのまま押し切ろうとしたのだろう。が、そのメリッサの意に反して木の棒はびくともしない。更にはディアナから微笑を浮かべたままダメ出しを喰らってしまった。


 そんな二人の横から唐突に振り下ろされる一撃が、ディアナの木の棒を持つ右の腕にヒットする。


「ぐっ、くそおっ! 何故ダメージを与えられんのだ!?」


 しかし腕を切断すること…どころか微動だにしないディアナの腕に、思わず大声で怒鳴るその不意打ちを放ったダークス。


「単純に強すぎてダメージを与えられない…。ならば!」


 そう言って、マルドリッジは持っていた杖を上空にかざす。それに呼応し隣にいたナクアも同じように杖をかざす。すると、マルドリッジの杖からは青い光が迸り、それが鎖となってディアナに絡みつく。一方、ナクアの方は赤い光と化し、メリッサ、ダークス、アーコの三人へ飛んでいく。


「う、お、おおおおっ!!!」


「よ、良し! この(みなぎ)る力をもって今一度!!」


「………具現せし破壊の矢よ! 我が前に立ち塞がる敵を滅せよ!!」


 赤い光を受け、更にいきり立つメリッサとダークス。魔術の詠唱をしていたアーコも、光を受けた勢いに乗って攻撃魔術を放つ。この三人の様子を見るに、赤い光は強化の魔術だろう。


 ならば、ディアナに放たれた青い光から生成された鎖は弱体の魔術か。変わらず微笑を浮かべているディアナに三方から苛烈な攻撃が直撃する!


 しかし…状況は変わらなかった。メリッサは変わらず押し切れず、ダークスの一撃はやはり効かず、アーコの放った破壊の矢はヒットしたものの、直後に矢の方が破壊されるという皮肉な結果に。


 不意にディアナが木の棒を横薙ぎに払う。それだけで、近くにいたメリッサとダークスは吹き飛ばされてしまった。


「駄目です。剣術も攻撃魔術も補助魔術も戦闘経験も何もかもが全然未熟。貴方達の使命の重さは分かりますが、焦ってはいけません。…いえ、重いからこそ、命を投げ捨てるような真似はしてはいけないのです。貴方達が死ねば、もう魔王討伐という使命を背負える者はいないのですよ?」


 まるで戦闘になっていない事に悔しそうに俯く…ダークスに至っては歯ぎしりまでしている…メリッサ一行を見回しながら、真顔で諭そうとするディアナ。


「今のままでは魔王に敵わないのは分かったでしょう? 一旦引いて、もっと修練を積んできてください。そうすれば、いずれ希望が」


「だから! 時間がないと言っている!! 今! お前を倒さなければ我ら人間の未来は」


「分かっています。それについても私が何とかしますので、今は引いて下さい」


 (せき)を切ったようにまくし立てながら三度剣を構えるメリッサに、しかしディアナは一つ頷いてから明後日の方に向き直る…そう、戦闘前に振り向いていた方だ。


「クスクス…。おままごとは終わりましたか? 魔王様」


 いつの間にかそこに一人の女性が立っていた。紫の特徴的な肌色に桃色の腰辺りまで届く長髪。背が高く、豊満な肢体に、細長く全てを見下した感じの目付きは、まさしく女狐と言う言葉がふさわしい。


「―――魔力の質…そしてどことなく覚えのある雰囲気…。ガスティラ宰相(さいしょう)…の、子孫か何か…」


「まあ、前世の記憶があるのですね。素晴らしい、流石魔王様。ガスティラは私の祖父です。私の名はミスティラ。ガスティラと同じく宰相を務める者。以後、お見知りおきを…」


 相手を見定めようとするディアナに、名乗った後に恭しく一礼する女狐…ミスティラ。礼儀正しい筈のその一礼は、しかしその優雅な所作に(たが)い不気味な威圧感を感じるものだ。


「これは、ご丁寧にありがとうございます。それで、ご用件は…?」


「勿論、魔王様に再び魔の頂点に立っていただく事。本来ならこのような出迎えは下の者に任せ、私は本拠でお迎えするべきなのですが、現在魔族は急進派と臆病者共に二分して(いさか)いが絶えず、それ故に人間如きに僅かとはいえ出遅れ、あまつさえ私一人の出迎えとなる始末。更に、この臆病者共の中に、あろう事か貴方様の子孫と名乗る二人がおりまして、そう名乗れる程度には実力もあるため、我ら急進派も迂闊には攻められない状況となっております」


 警戒のにじむディアナの問いに、ペラペラと近況を語りだすミスティラ。明らかにディアナが自分の提案を受け入れる前提で話を進めている。


「で、私にその二人を始末させて急進派が魔族を制圧…しかる後、急進の名前通り世界を制圧…でもするのでしょうか?」


「いえいえ、例えどのような姿勢でも仮にも魔王様のご子息…始末などという物騒な事は最終手段として、話し合いでも隷属でも如何様(いかよう)にでもして頂ければ…。では、行きましょうか魔王様」


 続くディアナの問いに、子孫二人についてはあやふやに答え、急進派の行く先には触れようともしない。あくまで、その先を決めるのは魔王様だ…という、魔王を敬っている姿勢を見せる。


「申し訳ありませんが、お断りさせて頂きます。今の私は人間ですので…」


 しかし、そうして差し出されたミスティラの手を、ディアナは柔らかく…しかしハッキリと首を横に振って断った。


「―――断る? 何故?」


 その返答がよほど予想外だったのだろう。今まで怪し気な口調だったミスティラから、初めて頓狂な声色が漏れる。


「何故も何もありません。今言いました、私は人間だと。人間が魔族の頂点になど立てる訳ないでしょう。そんな事をしてはますます魔族の世が混乱してしまいます。そして、私としましても、もうあのような地位に就くのはごめんです」


「人間? 貴方様が? ご冗談を。これだけ禍々しい魔力を放っておきながら、ご自身を人間と称するのは無理があります。いえ、例え貴方様が人間を称しても、周囲の人間がそれを許さない。人間如きに貴方様を受け入れる器などないのです」


「ミーズノ様には受け入れて貰いました。他のシスターの皆様にも、最初は懐疑的でしたが今は受け入れて貰っています。子供達にも認めて頂きました。ふもとの町の人々にもやはり最初は渋い顔をされたそうですが、今は皆様受け入れて下さっています」


「それは、貴方様のその温厚な態度に付け込んでいるだけでしょう。貴方様のお力がある限り、自分たちが脅威にさらされる事はないですからね。如何にも、矮小(わいしょう)で弱小で卑屈で愚かな下等生物が考えそうな事だ」


「仮にそうだったとして、魔族がそうじゃないとでも仰るつもりですか? 下っ端魔族ならともかく、上位魔族の貴女なら知っているでしょう? 何故前世の魔王が、同族の筈の魔族にまで襲い掛かったのかを…」


 そうして始まるディアナとミスティラの舌戦。何処までも冷静に切り返すディアナに対し、ミスティラは舌戦が進むにつれ額に青筋が立っているのを見るに、ディアナの方が優勢の様だ。


「―――いい加減にしろよ小僧…。魔王の力を継いでいるからって、下でに出てりゃ調子に乗りやがってよぉ…っ! ああもう止めだ止めだっ! こんなクソガキに私の貴重な頭脳を使うなど無駄すぎるっ! 力づくで連れて行きゃいいんだよっ!!」


 唐突に言葉遣いが非常に乱暴になるミスティラ。どうやらいちいち反論してくるディアナに遂にキレてしまったようだが、その勢いと同時に放たれた魔力が、風圧となって周囲を薙ぎ払う。


「成程、気に入らない事があるとすぐにキレるのもガスティラ譲りの様ですね…」


 その風圧からミーズノや子供達、メリッサ達を守りながら、臨戦態勢に入ったミスティラを前にディアナはボソッと呟くと共に自身も木の棒を構えた。

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