夫が隠しごとをしてるみたいなんです
「目と鼻の距離に住んでてもなかなか会わないものね。近くまで来たついでに寄ってみたけど、元気?」
「ちょうどよかった、お義姉さんにお願いがあるんですけど」
順子は夫智彦の姉の康代が訪ねて来たのを幸い相談を持ちかけた。
「智彦さん、私に隠しごとをしてるみたいなんです」
「何を隠してるって言うの?」
「最近日曜日になると一人で出かけるんです。行き先を聞いてもはぐらかされて」
「出不精の智彦が? それはたしかに怪しいわね、分かった、任して」
智彦が外出する時はすぐ連絡をよこすようにと康代は順子に言い含めた。
翌週の日曜日、順子からの電話を受けて康代はすぐに家を出て智彦のあとをつけた。
智彦は市立図書館に入って行って閲覧室のテーブルに座った。
誰かと待ち合わせか?と緊張して康代は離れた席から様子をうかがう。
しかし智彦はバッグからノートを出して何か書き始め席を離れない。
次の日曜日も連絡を受けて尾行したが智彦は図書館に入って着席するなりノートを広げた。
康代はしびれを切らして智彦のテーブルに行き隣りに座った。
「あれ姉さん、どうしたの?」
「あんたの浮気調査よ。順子さん、心配してるんだから」
康代は順子からの依頼の次第を打ち明けた。
「それにしても先週も今日も何を書いてるの?」
「ネットに投稿する小説だよ。パロディー部門のコンテストの締め切りが近いんだ。ちょっと読んでみて」
智彦はノートを康代の前にずらした。
『浦島太郎』
浦島太郎が浜辺を歩いていると子供たちが亀をいじめていました。
「こらこらお前たち、亀をいじめたらあかんで」
「何であかんのや、おっちゃん」
「もったいないやないか」
「もったいない?」
「海亀はスープにしたら旨いんやぞ」
「いじめるよりそっちの方が可哀そうやんか。バチ当たるで亀の」
すると浦島は「かめへん、かめへん」と言いましたとさ。
めでたしめでたし。
『かぐや姫』
お爺さんは竹かごの材料の竹を切りにいつものように竹林に入りました。
すると根元の方がぼうっと薄明るく光っている竹がありました。
珍しく思ったお爺さんは光る節の上下を鉈で切って持ち帰りました。
節の中には光り輝く小さなお姫様が入っているのですがお爺さんには分かりません。
なので民芸調の室内灯として竹かごと一緒に家具店に売りとばしました。
これがほんとの家具屋姫だとさ。
めでたしめでたし。
『桃太郎』
ある母親が「いい人に拾われますように」と願いながら桃の中に赤ん坊を入れて川に流しました。
どんぶらこどんぶらこと流れていくうち桃は川の水で大きくふやけてしまいました。
川で洗濯をしていたお婆さんがその桃を引き寄せて包丁で割りました。
するとふやけた桃の中からふやけた赤ん坊が出てきてニッと笑ったのでお婆さんは気分を害しました。
「ふやけてにやけてふざけた子だ!」
お婆さんは割った桃に赤ん坊を戻してガムテープでぐるぐる巻きにして川に放りこみましたがすぐ川下には滝があります。
「うわぁ~!」
滝つぼに落下する桃の中から悲鳴が聞こえてきましたとさ。
めでたしめでたし。
『ウサギとカメ』
兎と亀が丘の上までかけっこをすることになりました。
スタートすると兎が亀を鼻で笑いました。
「もしもし亀よ亀さんよ。世界のうちでお前ほど歩みののろい者はない。どうしてそんなにのろいのか?」
すると亀は「知らないの? じゃあ教えてあげる」と兎を呼び止めました。
爬虫類の分類に始まって亀の骨格の特徴その他、亀がのろい理由を詳しく解説したのです。
兎は退屈してひどく眠くなり、とても立っていられません。
「勘弁してくれ、降参だ」
こうして亀はTKOで兎に勝利しましたとさ。
めでたしめでたし。
『因幡の白ウサギ』
隠岐の島に住んでいた白ウサギのお話です。
対岸の因幡の国(鳥取県)に渡りたいと思って友達の白ウサギに相談しました。
「適当な口実を作ってサメたちを橋の代わりにずらりと並ばせようと思うんだけど」
友達ウサギは首を横に振りました。
「だましたことがばれたらサメたちに後で皮を剥がれたりしてひどい目に遭うぞ」
「じゃどうすればいい?」
「サーフィンボードに乗って行けばいい。俺が手本を見せてやる」
そう言って友達ウサギはボードに乗り両足を開いて腰を落とし上体を反らしてスイスイと波に乗って進みました。
これがほんとのイナバウアーの白ウサギだとさ。
めでたしめでたし。
『白雪姫』
白雪姫の継母としてやって来た新しいお后は毎日鏡に問いかけます。
「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰?」
鏡は答えます。
「あなたです、お后様」
やがて白雪姫は美しい大人に成長しました。
お后はいつものように鏡に向かいます。
「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰?」
「白雪姫です」
お后は激怒し毒リンゴを用意しました。
それを手に持って白雪姫のところに行こうとしたのですが念のために鏡に尋ねました。
「鏡よ鏡、白雪姫がいなくなったら一番美しいのは誰?」
すると鏡は隣国の王女の名を答えました。
「ではその次に美しいのは?」
「その次は?」
「その次は?」
自分の名前がいっこうに出て来ません。
「どんだけ~!」
あまりの悔しさに指の爪を噛もうとしたお后は間違って手にしていた毒リンゴをかじってしまいましたとさ。
めでたしめでたし。
『赤ずきんちゃん』
狼が赤ずきんちゃんのおばあさんのふりをしてベッドに入っていました。
そこへ赤ずきんちゃんが訪ねて来ました。
「おばあさんのお耳はどうしてそんなに大きいの?」
「かわいいお前の声を聞くためさ」
「いくら何でも大きすぎるわ。ハサミを借りるわね」
チョキチョキ!
「ぎゃあ!」
「おばあさんのお目目はどうしてそんなに大きいの?」
「かわいいお前をよく見るためさ」
「そんなに見ないで。恥ずかしいわ」
グサッ!
「ぎゃあ!」
「おばあさんのお口はどうしてそんなに大きいの?」
「お前を一口でペロリと食べるためさ!」
「それなら口はもっと奥まで裂けてなくちゃ」
ジョキジョキジョキ!
「ぎゃああ!」
狼の体は耳と目と口から流れ出る血で赤く染まり傷もズキンズキンと痛みます。
狼が赤ズキンになりましたとさ。
めでたしめでたし。
「どう?」
自信たっぷりに智彦は姉の康代の顔を覗きこんだ。
「頭がズキンズキンする」
「ネット作家を副業にして稼ごうと思ってるんだ。順子には入選してから言おうと思ってるんだけど」
康代はますますひどく頭が疼きだした。
「無理無理! あんたは浮気なんかの隠しごと以上に書く仕事は無理!」




