79証言をお願いします
じりじりとした緊迫状態状他のまま一時が過ぎたらしい。
うん?ゆっくり瞼を開く。うっ、まぶしっ!
ううん。頭いたっ~。
ゆっくり脳が覚醒していき瞼を開く。と。
私の周りに人がぐるりと。
イリ?ラキスさん。シグスさん。あれはナジさんに奥さんのカリンさん。もうひとりは‥?
「あの‥‥」
すぐにイリが気づいて私の前に跪く。
「フレイシア様気が付きました。ご気分はいかがです?」
そう言われてナジさんに連れて来られて苦い薬湯を飲んだ事を思い出した。
「あっ‥」
起き上がろうとしたがイリに止められる。
「だめです。まだ起き上がっては‥ご気分は?」
「ええ、なんだかすっきりしたような‥頭がぼんやりしてたけど‥ええ、良くなった感じ」
イリが嬉しそうに私の手をぎゅっと握る。
「それは‥フレイシア様クリス殿下の事ですが‥」
「クリス殿下?何かあった?」
イリがぎょっとした顔で尋ねる。
「フレイシア様はクリス殿下がお好きなのでは?今日は殿下の所から戻られてからクリス殿下が好きだと連呼されて」
はっ?何言ってるのイリ!由々しき事を。
「誰がそんな事を?私が好きなのはエバン様に決まってるじゃない。よりによって仇のようなクリス殿下を好きだなんて。いくらイリだからってそんな出鱈目言うなんて!!」
「ふっ、ククッ‥良かった。フレイシア様本当に良かった。あなたはクリス殿下に薬を盛られたのです。殿下の所から返られてからクリス殿下が好きだとずっと仰って、挙句に今日結婚すると言われてそれはもうお止めしても聞いてもらえなくて‥」
イリは笑ったと思ったら今度は涙ぐんだ。
「そんな事が‥私、クリス殿下の所に行ったのは覚えてる。けど、そんな事を言ったなんて‥記憶にないのよ。ごめんイリ心配かけて‥でも、どうやって私は‥」
イリがナジさんを指さした。
「フレイシアさんって言ったよな。おりゃてっきりフェイって言うんだとばかり‥いや、いいんだ。名前なんて。あんたが俺と息子を助けてくれたことに変わりはないんだからな。幻覚剤を盛られてた。それで都合のいいように思い込まされたんだろう」
「クリス殿下がそんな事を?ひどっ!」
彼を全面的に信じていたわけではないけど、そんな汚い手段を使うとは思っていなかった。
「きっと、王妃の策略です。クリス殿下とフレイシア様が結婚すればクリス殿下が王になってもおかしくはないですから‥あっ、でも、ラヴァード様。いえ、もうラビウド殿下とお呼びしなくてはいけません。彼がはっきりオスロ王の子であると分かったんです。フレイシア様のお母様が手紙を残されていたんです。それでクリス殿下は拘束されました。エバン様もすでに釈放されているはずです」
「お兄様の事はもうわかってた事だけどクリス殿下を拘束何ってずいぶん思い切ったのね、そんな事より、エバン様が釈放されたなんてすごくうれしい。これもイリたちのおかげね‥でも、王妃は残ってるって事?」
「ですがそれも時間の問題かと、フレイシア様には二度と手出しはさせません。安心して下さい」
「もう、イリったらありがとう」
私はイリと抱き合って喜ぶ。
「おいおい、ちょっと待ってくれ。王妃ってあのメルローズだろう?クリスはあいつの息子だよな。それでフレイシアは?」
ナジさんが眉をしかめて尋ねて来る。
「何言ってるんです。彼女はキアラルダ帝国オスロ王の娘。王女です。そして月の加護を受けた聖女様でもありますよ。そんな事も知らなかったんですか?」
「そ、そんな事知る訳ねぇだろう!聖女だって聞いただけでも驚いてるのによぉ。王女だなんて雲の上の存在。俺たちゃ会った事も見たこともないんだ。そんな人があんなところで俺に声をかけるなんて思うわけがねぇ。おまけにいかがわしそうな商会にまでついて来てくれて薄汚い子供まで治してくれて‥そんな人が聖女、おまけに王女様だなんて‥くそ!信じられねぇ!!」
「でも、事実ですよ」
イリがナジさんをいかがわしい者でも見るような目つきで見る。
「おい!まさか、俺たちが王妃に雇われた天狼の一味だと知って‥いや、それなら俺たちを助ける訳がねぇ‥なんで?何で俺たちみてぇなどうでもいいようなもんを助けたりなんか‥」
ナジさんが訳が分からないと動揺しまくっている。
おまけに自ら天狼だと言って。
相当だなとおかしくなるけど。
私は思う。そんな風に思わせた政治が悪いんだと。お兄様もそう。行き場のない人たちが安心して暮らせる国。そんな国になったらどんなにいいだろう。それは理想かも知れない。でも、少しは出来るんじゃないかな。
私はそんな事を思うとたまらずナジさんに駆け寄る。ぎゅっと彼の手を握って顔を見る。
彼の顔が強張り動揺したように視線が彷徨う。
そんな彼をじっと見て彼に言う。
「ナジさんは私を助けてくれました。本当にありがとうございました。私、ナジさんがどうでもいい人だなんて思っていませんよ。私はみんなの為にこの力を使いたいって思ってますから。ナジさんが苦しんでいるところを見過ごすなんて出来なかった。カロ君が元気になって良かった。心からそう思っています。私は今まで自分が王女だと知りませんでした。ずっと聖教会の神官をしていた父に育てられた平民なんです。それに貴族には嫌な思いもさせられてきて‥だから、私はどんな人にもこの力を使うって決めてるんです」
彼の緊張が緩んだかのようにふっと強張った顔が緩む。
「ったく。あんたにゃかなわねぇな‥俺は孤児で子供の頃からかっぱらいや悪い事ばかりして来た。人からは疎まれ強い奴にはやられっぱなしでだからどんな手を使ってもやられまいと悪い事ことにも手を染めた。幸い魔力が使えたから、それを利用して悪どい奴らを利用して来た。金にさえなりゃ他の事はどうでもよかった。でも、カロが病気になって金では無理な事もあるって思った。そしたらフレイシアに出会ってあんたの優しさは俺のずっと奥に眠っていた良心みたいなものをひきずり出しちまった。あんたを助けたいって思った。あんたのためなら何でもしてやりてぇってよぉ‥」
じわりと眦から滲む涙。
そうだ。もしもナジさんが証言してくれれば‥
期待の気持ちを込めてナジさんに話しかけた。
「ナジさん。もし、それが本心なら私達を助けてもらえませんか。王妃を追い詰める証拠が欲しいんです。王妃は今まで色々な人間を陥れて来ました。それはきっと自分の子供を王にするため。クリス殿下もきっと母親の期待に応えようと必死なんだと。でも、もう終わりにしたいんです。このキアラルダ帝国はこのままではいけないんです。私には兄がいます。兄も子供の頃王妃に追い出されて苦労してきました。最近やっと兄と再会しました。兄は王にはなりたくないと言ってますがどうやら結審したようなんです。私はそんな兄が王になればこの国はきっとまともな国になると思っています。もちろんすぐになれる訳もありませんが。カロ君や貧しい子供たちが幸せになれるような国にする努力をしてくれるはず。もちろん私も一生懸命みんなを助けたいって思ってます。だからお願いします。ナジさんが証言してくれれば王妃を追い詰めることが出来るんです。帝国に巣くう腐った貴族たちを一層して新たなキアラルダにしたいんです。いかがでしょうか?」
「俺がそんな大役を?いや、こんな悪の親玉の言うことを信じる奴がいるかもわからんだろ?」
「いいえ、私達は信じます。あなたはフレイシア様を助けてくれた。あなたは人の心を持ったいい人です。そして私たちのリーダーであるラビウド殿下も同じです。あなたを信じると思います。彼は妹にはからっきし甘いんです。フレイシア様を助けた恩人だと知れば一も二もなく信じます。絶対です!」イルが。
「俺もあんたを信じる」ラキスさんも。
「俺も信じる。って言うか証言してくれるよな?」シグスさんも。
「そうか?でもなぁ‥俺たちはもう逃げる気で‥」
「「「「お願いします!!」」」」
ナジさんががしゃがしゃ頭を掻きまわす。
「いやぁ、かなわねぇな。俺はもう逃げるつもりだったのによぉ。でもな。あんたに頼まれちゃ‥しかたねぇな。よし!俺みたいなもんでも良けりゃ‥ただし、俺たちの罪を軽くしてほしい。俺の子分も元はみんな孤児で行き場のない奴ばかりでよ。ほんと、いい奴ばかりなんだ。まともな仕事があれば皆ちゃんと働くはずなんだ」
「「「「ナジさんありがとうございます!」」」」
「私が責任を持って皆さんの処遇を決めます。お任せ下さい」
私はナジさんと固い握手を交わした。




