75王になる覚悟(ラヴァード)
俺は急いでその手紙を叔父に見せた。
「ああ、これがあればラヴァード。お前がオスロ王の子供だとはっきりわかる。クリス殿下は次期王にはなれないと議会ではっきりさせられる。王妃が言っているおかしな話が全くの出鱈目だとわかる」
「ええ、ですがあの王妃の事です。議会ではクリス殿下が王の子供ではないとマクリート大神官にも真実を話してもらわなくてはならなくては。そして王妃の暴走を止めなければ。そのためには陰でおかしな術を使って貴族を操っている奴らを捕らえなくては無理でしょう。フレイシアもおかしいんです。絶対クリスに何か盛られたのではないかと」
「フレイシアもか?それでフレイシアはどうした?」
「ここにいては危険なのでフランニークに避難させてます。そばにイリを付けてますので」
俺はイリが言っていたことを思い出す。
フレイシアが気づいた老人が穀物袋とスパイスを運び込んだ事を。
「叔父上、もしかしたら幻覚剤のような薬草が持ち込まれたのかもしれませんよ」
「それを王妃やクリスが使って?」
「ええ、それなら天狼が王城に忍び込んで魔術を使うまでもありませんから」
「ああ、急いでガビアンに頼んで調理場を調べさせる。フォートにもマクリート大神官を見張るように連絡をしよう」
「ええ、急いだほうがいいです。クリスは今日にもフレイシアと結婚する気ですから」
「あいつ気が狂ったのか?結婚を今すぐに出来ると思ってるのか?」
「マクリート大神官がいれば出来ます。聖教会が届を受理すれば式は上げていなくても夫婦とみなされますからね」
「それを早く言え。フォートだけじゃ心配だ。シグスも行かせるか?」
「シグスとラキスはウルフタン商会を見張ってます。もし動きがあればすぐに知らせが来るはずで」
「そうか、では薬草を探すんだ」
俺はガビアンたちと一緒に調理場をくまなく探す。
スパイスの棚だけでなく、調味料の壺や油、貯蔵品倉庫の中まで。
そして王妃専用の調味料やお茶の棚から幻覚剤に使われると言うマンドレイという植物の根を見つける。この根は人型に似てかなり強烈な匂いがある。
幻覚剤としても使うが媚薬としても使われる。だが、毒性が強く何度も量を誤ったり体内に取り込むと死に至る恐ろしい毒草なのだ。
「ラヴァード。こんなものが使われればお前を王にしようとしてもまた、王妃に阻止されるかもしれん。こうなったら王妃とクリス殿下を拘束しよう。いいか、お前は次期王になる。いいな!」
叔父にそう言われても俺はまだ迷っていた。自分がこの国の王としてやっていけるのか自信がない。
「俺にその覚悟はありません!」
「まだそんな事を言ってるのか?!フレイシアがどうなってもいいのか?このままではあいつらの思い通りになるぞ。いい加減覚悟を決めろ!家族を守るのも国民を守るのも同じ気持ちだ。人を思いやる心それあれば国民は必ずお前について来てくれる。私もガビアンもお前を支えると誓う。だから王になってくれ」
迷いのない真剣なまなざしが俺を見つめる。
俺は、ぐっと息を詰める。
キアラルダ帝国すべてを背負う覚悟なんか出来る訳がない。でも。フレイシアやエバン、大切な人を守りたい気持ちは誰よりもあるつもりだ。
その気持ちがあればいいなら‥それに今は俺の権限を使って王妃を拘束するしか手がない!
「わかりました。俺はキアラルダ帝国の次期王として王妃メルローズとクリスを拘束します!」
叔父が跪き俺に頭を下げる。
「これよりあなたをラビウド殿下と呼ばせていただきます。ガビアンにすぐ命令を、王妃を拘束次第エバンも釈放の支持をお願いします」
「わかった。メイズ辺境伯あなたを宰相代理と任命します。王妃らを拘束次第すぐに議会招集を」
「はい、承知しましたラビウド殿下」
すぐに王妃とクリス殿下が拘束するためガビアンが騎士隊員に命令を下した。
王妃にはガビアン自身が赴いた。
ガビアンの報告は散々だった。
「ラビウド王太子のご命令によりあなたを拘束します」
ガビアンはわざわざラビウド王太子と呼び彼が次期王であることを指し示した。
王妃の顔色がさっと変わりいきなり騒ぎ始めた。
「これはどういう事?あなた誰を拘束しようとしてるかわかってるの?あなた許さないわよ!クリス。クリスを呼んで頂戴!!ラビウドが次期王なんて許されないわよ。あなた自分のやってることがわかってるの?後悔するわよ~!!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐ王妃が何やら目配せをした。
その瞬間ガビアンたちは目がくらんだ。
そして次に目を開いた時には王妃は見当たらなかった。
「くそ!すぐに王妃を探せ。まだその辺りにいるはずだ。急げ!」
ガビアンは騎士隊員に声をかけあちこちを探すが王妃は見つからなかった。
別の騎士隊員がクリス殿下の元を訪れた。
クリス殿下はやっぱり今日結婚式をするつもりだったらしく礼装の準備をしていた。らしい。
「クリス殿下、ラビウド王太子の命令によりあなたを拘束します」
「お前ら何を言ってる?ラビウド王太子だって?騙されるな!騙されるな、あいつは王の子ではないんだ。あんな奴の言うことを聞くと後悔する事になるぞ。いいから手を離せ!おい、やめろ!何をする。くそ!人の言うことを聞け!!放せ!」
クリス殿下も拘束されるのは不当だと騒ぎ立てたが、ガビアンの部下は全く動じることなくクリス殿下を牢に連れて行った。
そして中に入っていたエバンを連れだした。
「はっ?お前ら私をここに入れてこいつを開放するのか?おい、ふざけるなよ。私をここから出せ!おい、聞いてるのか?お前、名は何という。許さないぞ。母に言いつけてやるからな。クッソ!!」
後でそいつらから聞いたクリス殿下の悪態はかなりひどかったと。
牢から去ってもその悪態はずっと聞こえていたと。
疲れ切った顔のエバンが俺の執務室に入って来た。
「エバン隊長。長い間済みませんでした。もう、安心ですので」
「ああ、ラヴァードありがとう。それよりフレイシアはどこだ?」
叔父が口をはさむ。
「チェスナット辺境伯。申し訳ありませんが、彼はキアラルダ帝国の次期王となられる方だとはっきり証明出来ました。ですので今後はラビウド殿下とお呼び頂くようお願いする」
「ああ、それは良かった。もともと、ラヴァー。いえ、ラビウド殿下が正当な後継。ラビウド殿下あなたがキアラルダ帝国の次期王となればこの国も安泰でしょう。さらに申し上げたい。どうかニルス国の事もよろしくお願いします」
「エバン様、堅苦しい挨拶は抜きにして下さいよ。あの‥フレイシアの事なんですが‥」
俺は事情を説明する。
「すまん。すぐにフランニークに行きたい」
「ああ、摂取した毒を輩出すれば幻覚から覚めると思う。エバンがそばにいてくれればフレイシアも安心だろう」
「いいからすぐに連れて行ってくれ!!」
エバンはすぐにフランニークに転移した。フレイシアとイリにはクリス拘束を知らせるように頼んだ。
だが、王妃に逃げられたことは知らせなかった。




