65エバン様に会いに
私たちはそのまま王城に留まるように言われた。
フレイシアのいる扉の外には護衛という名目の監視の護衛兵が立ち、エバンとの面会は叶わなかった。
俺たちはエバンの潔白を訴えるが王妃は一切許さないの一点張りだ。
クリス殿下は順調に回復してすでに起き上がれるくらいになっていると聞いた。
だが、かなりやばい状況だ。
お茶会で王妃はエバンをすぐに外に追い出した。そしてクリスが入って来た。
数分後エバンが興奮した様子で乱入。クリスに切りかかって逃げる。その場にフレイシアがいたのにクリスに切りかかった。
もし、エバンが正気なら絶対にそんな事はしないはずだ。フレイシアが怪我をしていたかもしれないんだ。
あいつがそんな事をするはずがない。ということはもう、牢にいた時のように精神魔法。洗脳か。
天狼。そいつらは闇ギルドの中でも悪どい手を使って金を稼いでいると言う。
国は問わず仕事が入ればどこにでも行くしどんな相手でもお構いなしだと聞いた。請負料金は破格の値段だが完璧に仕事をこなし秘密も絶対。お互いが口を割らない事ではっきりした証拠が揃わず捕まえる事も出来ない。
エバンの事でもそうだ。多分王妃が使っている。だが、証拠はない。金の流れを追ってもリーダーが直接雇い主とやり取りをするので証拠も残らない。
やっかいだなぁ。
ん?そうだ。私って転移出来るんじゃない。今からエバン様の所に行ってみたらいいんじゃ?
(キア)
(なに?フレイシア)
(今からエバン様に会って来る)
(うふっ、やっと気づいたの?っフレイシアはどんな魔法でも使えるって)
(キア?酷~い。わかってたなら言ってくれれば良かったじゃない!)
(まあ、エバン様はさっきやっと解放されたみたいだから)
(えっ?エバン様はあれからどうだったの?)
(うん、力ずくで拘束されてかなり殴られてた。でも、まるで気がふれたみたいだって取り調べのガビアン隊長も確信したわ)
(ガビアン?私のいとこになる?じゃ、エバン様は自分の意志であんな事したんじゃないって認めてもらえなのね?)
(まあ、何人も証人がいるからそこは大丈夫と思うわ)
(そう‥良かった。じゃあ、今から会いに行ってもいいわね?)
(ええ、でも、見張りがいると思うから姿は消した方がいいわ)
(うん、わかった。この前みたいに‥えっ?あの時‥あ”あ”ぁぁぁぁ!!!あの時私天狼の奴らの魔力を感じた。もしかしたら私あいつらがわかるかも)
(フレイシア、それはあいつらが姿を表せばの話でしょう?そうやすやすと表には出てこない連中なのよ。それはほとんど奇跡に近いわよ。もし、捕まったらその人です!って言えるかもしれないけど‥フレイシアはそんな危険な事は考えなくていいから、さっ、エバン様にあって来たら?)
(うん、そうだね)
何もできない空しさが悔しい。でも、その分エバン様を元気づけられたら。痛めつけられた身体の傷だけでも治せるなら‥
私はそんな事を思ってエバン様のいる牢内に転移した。
*~*~*
牢内は灯りはなく鉄格子のはめ込まれためどから差し込む月の灯りだけでうす暗い。
姿は消している。私は板一枚の粗末なこれがベッド?と思われる場所に横たわる彼のそばに走り寄る。
「え‥‥」喉が擦れる。声が震える。
彼は壁に向くようにしていて、布切れ一枚の薄い衣を着せられていて、その薄い生地から殴られた後のような傷が見える。
寒いのだろうか小刻みに震えている。
金色の髪はぐちゃぐちゃに乱れて力の抜け落ちた躯体は生きる屍のようだ。
ぎゅっと握りしめた拳は怒りなのか恐怖なのか不安なのかもうわからない。ただ、今すぐに目の前の愛する人を抱きしめたかった。
「えばんさま‥」
愛しい人の名を呼んでその背中にぎゅっと抱きついた。
強張った彼の身体がビクリと動く。彼が身じろぐようにして首が後ろに回る。
「ふれい、しあ?‥なのか?‥」
もう、私ったら姿を消していることをすっかり忘れていた。
「ええ、ごめんなさい。でも、キアが見張りがいるから姿を消した方がいいって言ったから‥」
口早に小さな声でそう告げる。
「ああ、喋らないで見つかると君まで‥」
こんな時まで私の事を心配する彼に愛しさが倍増する。
私は彼の手を握る。わかったって合図。見えていなくたって感覚は伝わっている。
彼はぐるっと身体を回してベッドから起き上がろうとしたので私はそれを押しとどめる。
周りに誰もいないのと助かめると姿が見えるようにした。
「ふれいしあ‥」
「誰か来たらすぐに隠れるから」
まずは彼の身体の治癒をするからと合図を送りまた周りを見回す、見張りはいない。今だ。私はエバン様の身体に手をかざして彼の怪我を治して行く。
彼の身体の傷があっという間に塞がりきれいになった。
すると彼は私を抱きしめた。そっと耳元で囁くように話をする。
「俺はやってない。いきなり頭が割れそうになってその後のことは何も覚えてないんだ。クリス殿下を襲ったと聞いて俺が一番驚いてる。聞いてフレイシア。俺は国王になったアレクに俺がキアラルダ帝国への正式な交渉人に指名してくれるよう依頼してるだろう?もうすぐにその書簡が届くはずだ。そうすれば俺は国の代表。キアラルダ帝国の政治家と正式な交渉が出来る立場になる。この事は完全に誰かの陰謀だし、ニルスとキアラルダの間のわだかまりを解いて君と結婚する。だから心配するな」
彼は一気にそう言うと一度大きく息を吸った。
「‥」
言葉を返す前に唇を塞がれる。
カサカサに乾いて冷たい空気にさらされた唇。なのにその熱い想いが流れ込んで来る。
背中から丸ごと抱き締められて耳元で「大丈夫だから‥」そう優しく告げられる。
ああ、私は今死んでもいい。それほどの幸福感が胸に押し寄せる。
「ええ、信じてる」
「さあ、見つかるとまずい。フレイシアもう帰るんだ。今日は疲れただろう?すまん、いつも君に心配ばかりかけて‥」
ちょうどエバン様の顔の辺りに月明かりが差し込んだ。彼の目尻に皺が寄り眉がふにょと下がるのが見えた。
いつもの猛者は私の事となると瞬時に子犬なみのか弱い生き物となる。もう、めちゃかわいい!!
「ううん、明日また来る」
彼に自分からキスした。
「ぐはっ!‥いや、心配ない。言ったようにすぐに出られる。だから心配するな。いいな?」
あれ、強気のエバン様に戻った。顔赤いよ。大丈夫?




