63お茶会
翌日、王妃殿下に招かれたお茶会へと。
私とメイズ辺境伯とラヴァード兄様、そしてエバン様の4人で王城に出向いた。
王妃は私達を王城の庭園に招いていた。
私は聖女服、他のみんなは正装姿でラヴァード人様はこんな窮屈な格好は嫌だとばかり不機嫌な顔だ。
エバン様はさすがにこういう場は慣れているのかそれでもいつもよりピリッとした顔つき。
そんなエバン様も素敵だな。
私はもう緊張しまくっているはずなのに彼がそばにいるだけで安心する。
国王や王妃殿下になんてニルス国でもこんな形で会ったことなどなかったしいつも遠目に見る程度だったのに。
案内されて豪華な庭園に用意されたテーブル席に案内される。
王妃殿下はすぐに表れた。
「待っていたわメイズ辺境伯。ラヴァードもそして聖女フレイシア。あなたには本当に感謝してもしきれないわ。キアラルダ帝国を救ってくれて本当にありがとう」
王妃メルローズ様が満面の笑みを浮かべて私たちはすごく歓迎されたがエバン様は全く無視って感じ。
嫌な人!隣に座るエバン様をちらりと見るが彼はにこやかに笑みを浮かべている。さすが私の‥うふっ。
椅子に座るとすぐに最高級の茶葉でいれた紅茶が出された。ケーキやクッキーもどれも高級なものばかりだろう。
お茶を注ぐ侍女。あれ?よく見ればイリじゃ?髪色は違うけど確かにイリ。
私は侍女にハッとして目くばせすると侍女がウインクした。
あっ、これって隠密行動ってやつ?
ラヴァード兄様からイリやシグスさんが仲間だって聞いた。ちなみにイリは私の護衛としてそばにいたんだって。
イリって凄いって思ったけど、今日もこのお茶会に忍び込んだってわけなのね。
「さあ、遠慮なんかしなくていいわ。どうぞ」
「はい、ありがとうございます」
「あの、王妃様、本日はどのようなご用件でお呼びになられたのでしょうか?」
まずは叔父様が尋ねた。
「ええ、まずはそちらの方は部外者ですので、席を外していただきましょう。護衛兵。彼を外に」
「それはどういう事でしょう?」
「まあ、わたくしずっと思ってましたのよ。そもそもニルス国は我が国を陥れた国。そんな国の人間を同席させるなんて!とにかく彼を外に」
「待って下さい!では、王妃様はどうして彼も招かれたのです?」
「これが現実だってあなた方に教えるためです。当然でしょう。それに聖女フレイシアと婚約したいだなんてどんな神経をしているのかと思いました。一度会ってみたいとも。でも、もうこれで充分です」
みんなが止めるのも聞かず王妃は強引にエバン様を護衛兵に引き立てさせた。
「心配ありません。話が終わればすぐに拘束は解かれまるでしょう。私は気にしませんのでそのまま話をどうぞ」
エバン様は逆らおうともせず黙って護衛兵に庭園から連れ出される。
そのすぐ後だった。
クリス殿下が現れた。
「これは皆さんお揃いで、私もご一緒してもよろしいですか、母上」
「ええ、クリス、ちょうど良かったわ。これでキアラルダ帝国の未来についての話が出来るわね」
「メイズ辺境伯。ラヴァード様、フレイシアあれから調子はどうです?心配してました」
私はまだ気が収まらないが、なんとか言葉を紡ぐ。
「ありがとうございます。体調も戻って聖女の仕事も再会しようと思っております」
「それは良かった」
あれからセレストや彼に関係していた貴族は摘発されて牢に入った。セレストは幽閉されているらしい。
すでに貴族議会でいろいろ審議をしているらしいが新しい王はまだ決まっていない。
クリス殿下はマクリートの子だと公になって貴族のほとんどが次期国王はラヴァードだろうと予測していた。
王妃メルローズは沈黙を貫いていて、貴族たちからはセレストを排除出来ればそれ以上の糾弾をしようという声も出ていなかったので王妃はそのまま王城にいる。
でも、ラヴァードが国王となれば王城から出てどこかに隠居という事にでもなるだろう。
そんな矢先のお茶会の誘いだった。
「それは良かった。実はフレイシアに話が合って‥」
クリス殿下はすぐに私の隣に座った。
もう、そこエバン様が座っていたところなのに。ちょっとむっとする。彼がおかしなことを言い出さないうちにと牽制を。
「また、結婚してとか言わないですよね?」ちょっとくだけた感じで言う。
「今、言おうと思ってたのに‥まあいい。私はまだあきらめていない。フレイシア君と結婚したい。私は本気だよ。こんな気持ちは生れて初めてなんだ。本気で女性を好きになったんだ。諦められるはずがないだろう」
クリス殿下が蕩けるような笑みを浮かべて私を見る。ほんと顔だけはいいから。普通の女の人だったらきっといちころかもね。
私もエバン様がいなかったら危なかったかも?ううん、こういうタイプはもうこりごりかな。
脳内でクリス殿下の顔の造作や口説きに関心したり冷めたり。
「いいですか。確かに私達は兄妹ではありませんでした。でも、私は婚約したんですよ。もう無理に決まってるじゃないですか!」
はっきりさせておくべきだ。
「コホン。せっかく王妃殿下にお会いする機会を頂いたのでぜひ話をきいてもらいたいのですが、よろしいですか?」
叔父様がクリス殿下の話を遮る。
「ええ、よろしいですわ。クリス話はまた後でしなさい」
「申し訳ありません」
クリス殿下がバツが悪そうに謝る。こういう素直さは好感が持てるのに。
「次期国王の事です」
「ええ、私もその話をしたいと思っていました。それでメイズ辺境伯のお考えは?」
「はい、まず最初にクリス殿下の意志を伺いたい。いかがですクリス殿下。あなたはキアラルダ帝国の王となる気持ちはおありですか?」
「はい、メイズ辺境伯、ラヴァード様。私は今まで身体が弱くすべての事に諦めを抱いておりました。ですがフレイシアに治癒してもらって身体の調子は劇的に改善されました。そしてフレイシアの必死の献身にも心打たれました。私は次期王として頑張らなければと気持ちを新たにしています。どうか、私を支えてキアラルダ帝国の未来を共に築いて行ってもらいたいのです」
「ほう、それほどの決意を?」
叔父様は意味ありげな含みを持たせたような口ぶり。
「叔父上。次期王はクリス殿下で決まりだ。これほどの決意をしているんだ。きっと次期王にふさわしい。フレイシアもそう思わないか?」
「‥ええ、私はどなたが王になっても支えて行くつもりですので」
王妃がぱっと両手を合わせて声を上げた。
「まあ、ラヴァード様もフレイシアもありがとう。うれしいわ。わたし。クリスの相手にはフレイシア、あなたがピッタリだと思うの。チェスナット辺境伯はいい方だと思うわ。でも、キアラルダの民のニルス国に対する不信感はかなりのもの。フレイシアがニルス国の王族と結婚だなんて国民も納得しないと思うの。キアラルダもまだまだ問題は山積でしょう?メイズ辺境伯だってクリスが王となって聖女フレイシアが妃となればキアラルダ帝国の安泰に繋がると思うはよ」
王妃は言葉早に叔父様に同意を求める。いや、求めるのではなく決定だと言わんばかりだ。
もう、どうして話がそんな方向にいくわけ?
そんなつもりでここに来たんじゃないのに‥困ったわ。
「母上、ありがとうございます。フレイシア、どうだろう?私は君がそばにいてくれればどんな事でも出来そうな気がするんだ。君は私の太陽。そして私の未来なんだ!フレイシアお願いだ。私の手を取ってはくれまいか。私は本気だよ」
腕を伸ばされこの手を取ってほしいと‥
歯の浮くようなセリフの連発。これはまずい。はっきり言わなければ!!
「困ります。私は‥もちろん聖女の仕事はキアラルダ帝国の為にもニルス国の為にも、そして大陸すべての為にやりたいと考えています。でも、そこにクリス殿下との結婚はありません」
「‥ふれい、しあ‥‥」
クリス殿下がショックのあまり腕がぐたりと椅子に落ちた。
途端に人が飛び込んで来た。
「クッソぉ~おまえのような奴にフレイシアは渡さん!死ね!!」
エバン様だ。聞いてたの?
彼は剣を抜刀してその剣を振り上げて私の方に向かって来る。
でも、こんなの、彼がこんな事するはず…
もしかして狙いは私ではなくクリス殿下?まさか。エバンが?なぜ?脳内が混乱したまま辺りに叫び声が。
「フレイシア様逃げて!」多分イリの声。
「フレイシアこっちだ!早く!」ラヴァード兄様?
いきなりクリス殿下に手を思いっきり引かれて走る。
後ろから追手が追いかけて来る。うそうそ。エバン様やめて。そんな事したらだめ!脳内で必死で叫んでいるが声に放っていない。
瞬間!クリス殿下が私を庇う。
「ぐはっ!」
「きゃぁぁぁぁ~」
そこに護衛兵やラヴァード様、イルが駆け付けてエバン様を取り押さえる。
「放せ!あいつを殺す!いいから放せ!!」
エバン様の顔がちらりと見えた。目が火走り鬼みたいな形相で‥あれ?でも目の焦点がおかしい。これって精神魔法じゃ?
でも、すぐに現実が目の前に広がる。
クリス殿下の上着が裂けて血がしたたり落ちた。
「クリス殿下!しっかり‥すぐ手当てを‥」
クリス殿下は私を庇って大けがを負ったのだ。
そしてエバン様はクリス殿下を傷つけた。
その事実だけがこの場を覆っていた。




