48エバン様が捕まる
私の目の前でエバン様が捕らえられた。
クリス殿下の目は血走っていて恐い。
「私のフレイシアに近づこうだなんて万死に値する。おい、連れて行け。こいつの正体を吐かせろ。いいな!必ずだぞ」
クリス殿下は怒りに任せて護衛兵に命令する。
「クッソ!放せ。その汚い手を離せ!」
エバン様は必死で護衛兵の拘束を解こうともがくが多勢に無勢。叶うはずもない。
そのまま引きずられて部屋の外に連れ出された。
「おい、いいから放せ!くそぉ‥」そんな声がどんどん遠ざかって行った。
殿下は興奮しているのかはぁはぁと肩で息をしている。何とかクリス殿下を落ち着かせてエバン様を助けなきゃ。
「クリス殿下‥気を静められて下さい」
「フレイシア?すまない。驚かせただろう。もう安心だから、さあ、君は何も心配せず休んでいなさい。イリ!この薬で薬湯を作って来てくれ!」
イリも突然のことで驚いたんだろう。はっとしてクリス殿下の差し出す薬を受け取る手が震えている。
「殿下、イリが怯えています。そのような大声を張り上げなくても‥」
「そうだな。君のこととなると私はつい感情的になってしまうんだ。イリ、少し苦いからはちみつを入れてくれ」
「はい、かしこまりました」
イリは急いで部屋を出て行く。薬湯を作って来るつもりなんだろう。
やっと気を静めたらしいクリス殿下がふわりと私の手を持ち上げた。
「すまない。恐がらせた。熱はどう?」もう片方の手が額に触れる。
触らないでって言いたい。
けど、エバン様の事が気がかりで、それにもしかしたら殿下に頼めばエバン様を助けれるかもしれないなんて考えが浮かんで乗せられた手を拒絶できない。
気をよくした殿下の手は額から頬を伝って下りて行く。小指が唇の端に触れてビクリと身体がはねた。
「可愛いな。フレイシアは‥」
遠慮がちだった指先が今度ははっきりした意志を持って唇をなぞる。
「フレイシア好きだ。こんな気持ちは初めてなんだ。どうか私を受け入れて欲しい」
何て言っていいか分からず「コホッ」と咳をする。
慌てて手のひらがすっと喉の下を撫ぜた。
「すまない。苦しいかい?聖女は自分の病は治癒出来ないのか?人々は散々助けていると言うのに何と‥」
そこにイリが薬湯を作って持ってきてくれた。
「殿下、薬湯をお持ちしました。どうかもうお引き取りを後はこちらでお世話いたしますので」
「いいからそれを」
クリス殿下は動こうとはせず薬湯を受け取るとそれをそばのテーブルに置く。そしてすっと手が伸びて私の背中に隙間が空いてその隙間に彼が滑り込んだ。
あっという間の事だった。
後ろから包み込むように抱かれてさっきの薬湯をスプーンで掬う。
「で、殿下、何を?」
「いいから薬を飲もう。はい、あ~ん」
「出来ません」
「いいから」
逆らえない圧で私は強制給餌をされる。
どろりとした薬湯は苦みがあったがハチミツのおかげで楽に飲み込めた。
ゆっくり何度も同じ行為が繰り返される。
暖かな温もりが背中から伝わって来ると彼が話を始めた。
「私は身体が弱かっただろう。母がいつもこうやって薬を飲ませてくれたんだ。すごく安心出来て心が落ち着いた。だからフレイシアにもそうなってほしくて。無理をさせただろうか?」
威圧的だと思っていたが彼なりの優しさだと思えた。こんな事思うのはやっぱり血が繋がっているからなのかな?
ほんの少し兄である彼に優しくしてもいいかもと思った。
それにしてもエバン様は無事だろうか。もう、関係ない人だと思いたいのにいつだって彼は頭の片隅にいる。




