44いよいよキアラルダへ(エバン)
ラヴァードの手際のよい仕度のおかげで午後にはメイズ辺境伯の所に迎えた。
「メイズ辺境伯、しばらくです。こんな形でお世話になるとは思ってもいませんでしたがよろしくお願いします」
「いや、ラヴァードから聞いてこちらはいつでも帝都に入れるよう準備をしておりました。チェスナット辺境伯それよりニルス国の方は大丈夫なんですか?」
エストル・メイズ辺境伯は準備をしていたと言ってくれた。
「メイズ辺境伯、ニルス国はキアラルダ帝国に多大な迷惑をお掛けしていると言うのに感謝の言葉もありません。王都は水没寸前でしたが何とか食い止める事が出来、今まさに復興の最中でして、国の中枢にすくっていた悪人は捕らえて国王も引退でしょう。次期国王はアレク殿下が引き継ぐと張り切っております。どうかこれからもよろしくお願いします」
俺はアレク国王となったニルス国を頼むと頭を下げる。
内心は一刻も早く帝都カラルーシに向かいたいが、社交辞令は大切な事だからな。
「叔父上、そろそろ帝都に向かわないと日が暮れてしまいます」
「ああ、そうだな。チェスナット辺境伯あなたのその身分のままでは帝都で動きづらいはず。ギルドに登録しているビーストハンターの一員としてカラルーシには行ってもらうつもりですので。あちらではラヴァードの指示に従って頂きたい。あなた方は魔物討伐の途中でカラルーシに立ち寄った旅人ということになってますから」
「それは助かる。実は私もこの身分で行くのは無理かと思っていたんです。何から何まで本当にすみません」
旅のハンターのようないでたちに着替えるとすぐにメイズからカラルーシに転移魔法で送られた。
ちなみに転移魔法の場所はどこでもではなく、王城、騎士隊のある所、宿。ギルド。それに高位貴族の屋敷や豪商など移動先は限られるがキアラルダ帝国内なら大体の所に行けると言う便利な移動手段らしい。
着いたのはビーストハンターが定宿にしているフランニークという名の宿だった。ここも転移魔法で移動できる場所だと聞いた。
ラヴァード目立つ銀色の髪や緋色の瞳を茶色に変えている。俺は髪色を同じく茶色に変えた。
「ここからは隊長とは呼べませんので、エバン様あなたの事はレオニールということでお願いします」
「わかった。ラヴァードは何と呼べばいい?」
「俺はラヴァードで構いません。さあ、まずは仲間を紹介しますので」
俺はラヴァードと部屋に入るとラキスがいた。まあ、この男がビーストハンターのメンバーということは俺も知っていたから驚かなかった。
「こちらはエバン・チェスナット辺境伯。だが、ここではレオニールと名乗ってもらう。レオニール、ラキスはご存知なので、こっちはフォート。聖教会の神官として潜入させてます。こっちはシグス。シグスは帝都の街中であちこち探る担当であっちにいる女はイリと言って王城に潜入させてます。もうひとりメイトという奴がいますが今はカラルーシにいないのでまた紹介します」
1人1人が挨拶をする。
「すごいな。俺はエバン・チェスナットだ。君たちにはいつも頼ってばかりで本当にすまない。魔物の一件でも感謝している。あの‥それでさっそくなんだがフレイシアの様子はどうなんだろうか?」
フォートがくすりと笑った。
みんなが事情は聴いて知っているらしい。俺がカトリーナの魅了にかかってフレイシアを失望させたことを‥
やりづらいな。でも、そんな罠に引っかかったのは自分だ。責任はきちんと取らなきゃな。
最初に口火を切ったのはフォートだった。
「ええ、彼女は聖女としてそれは素晴らしい働きをしています。帝都では疫病に苦しむ人達を治癒して、それが終わると今度はあちこちの領地に出向いて各地で疫病患者の治療に当たっています。皆、聖女の力に生きる気力を取り戻していますよ」
「そうか。フレイシアらしい。それで彼女に会えるよな?」
「今はとても忙しくしていて、朝から夜まで働き詰めなんです。帝都に帰ってくることもあれば領地で宿泊することもしばしばで予定があるようでない状態でして。とにかく一度聖教会に戻って予定を確認します。そしてなるべく早く面会という形で話が出来るようにします」
「面会か‥遠くから見るだけでも‥だめか?」
「いえ、但し聖教会にはいつも人が押し寄せていますので聖女を見れるかどうかは‥」
「そうか。でも、ここでじっとしているのもな。まあ、明日にでも聖教会に行ってみる」
「はい、でもくれぐれもエバン・チェスナットだとばれないように」
「はっ、こんな男。誰が貴族だと思う?」
「ですが、それではフレイシア様にも気づかれないのでは?」
ガーン!
そうだった。彼女が俺と分からなきゃどうする?
「わかった。髭は剃る。髪も切る。衣服はこの格好でいいだろう?」
「いいんじゃないですか。でも、気づかれても彼女には近寄らないと約束ですよ。一人が彼女に近づけば他の人も同調するかもしれません。あなただと気づけば私もフレイシア様に話をしてみますから」
「ああ、でも、もし彼女が会いたくないと言っても一度話をさせて欲しい。頼む」
「それほど仰るなら話の場は設けると言うことで、但しそれ以上のことはお引き受けは出来ません。後はお二人の気持ち次第でいいですね?」
「ああ、フレイシアが許せないと言ったら諦めるしかないからな‥」
俺はぐっとこぶしを握りこんだ。




