33キアに会いたい
「聖女様。でしたら一つだけお願いを聞いていただけませんか?」
マクリート大神官が藁にも縋るような思いなのだろう。
頭がひざにくっつくほど下げている。
「そんな、頭を上げて下さい。そんなの狡いです。私に同情をさせるつもり?」
「そんなつもりは‥どうか王太子、いや国王陛下になられるクリス殿下を救って頂きたい。殿下は疫病に苦しむ民を捨ててはおけないと自ら診療所に出向きそこで罹患されて今も苦しんでおられるのです。元々身体が弱いお方でもう一刻の猶予もないのです。殿下が亡くなればそれこそセレストく王代理の思うつぼ。王妃もやっとセレスト国王代理の思惑に気づかれて今では距離を置かれています。どうかお願いします」
そんなの‥それに王妃が私の母にひどいことをしたんだよね。兄だったラビウド王子も追い出して‥そんな都合よすぎるわよ。
いきなり知った事実。それによって感情はもっとぐちゃぐちゃになる。
キアーナ様、どうしてこんな所に連れて来たの。ニルス国にいてもきっと地獄だったけど。
考えるほどに胸が苦しくて息が‥
「そんな‥はっ、はっ、はっ‥」
息が出来なくて苦しくなって。みんな嫌い。みんな。みんな、私の手の届かない所に行ちゃう。母様も父様もジェリクもエバンも‥キアも?もう嫌だ。キアどこ?キアに会いたい‥
「聖女様‥しっかり。すぐに医者を」
*~*~*
目が覚めるとさっきと違う部屋にいた。
貴族の屋敷のような寝室みたい。シルクらしいシーツ。ふわふわの布団、豪華な家具。厚地のカーテン。ふかふかの絨毯。どれもニルス国の王宮にあった部屋みたい。
「ここは?」
不安でまた息が苦しくなる。
(フレイシア大丈夫?)
(キア!?キアなの?どこ?)
そう言うと金色の光が光ってキアが現れた。
(キア。もう会えないかと思ったよ。すごく心配した。あっ、でも、私のせいでごめん)
(ううん、フレイシアが傷ついてすごく怒りが沸き上がって、月光水晶を壊そうとしてたらそしたらキアーナ様が来ちゃって、その後はキアーナ様がキアラルダに連れて行くってフレイシアを連れて行って)
(うん、聞いたよ。ごめんね。キアにまで嫌な思いさせて‥)
(仕方ないよ。あんなところ見せられたら‥辛かったでしょ?私すぐに会いに行きたかったけど、力いっぱい使ったから直ぐには行けなかったの。ごめんね)
(そんなの全然いいよ。キアが無事でよかった)
(ここは帝都カラルーシにある王城の一室なの。フレイシアのお母さんの部屋だったところよ)
(えっ、いつの間に?)
(キアラルダの貴族は転移魔法が使えるの)
(じゃ、私が嫌なところでも連れていかれるって事‥)
ふっと緩んだ心がまたキュッと締まる。
(でも、私が付いてるよ。だから安心して、フレイシアが嫌な事はさせないから)
(そう‥そうよね。キアがいてくれれば)
ふと、キアが嬉しそうにほほ笑むのが見えて。
なんて可愛い!
彼女の周りに眩い光が散りばめられていく。
うそ。ファンタジー!!!
(そう?ふ~ん。じゃ、もっと元気にしちゃおっか。あのね。ニルス国はあの後、王都が水没しそうになって暴動が起きたの)
(待って、水没って王都は、ニルス国は大丈夫なの?)
(ええ、それは王都以外はほとんど被害はないし王都もすでに水は引いているから心配ないわ。だから安心して。まあ、それで暴動が起きて王宮の門は叩き壊されて王宮に暴徒化した人たちがなだれ込んだの。それで国王とジェリク、宰相のエグブランド公爵、カトリーナはあの時私が振りまいた魔力のせいで動けなくなってたの。それでみんなにつるし上げにあって、カトリーナなんかみんなを呪い殺してやるとか息巻いてたけど、アレク王太子は私の魔力で毒が浄化されて無事だし、エバン様はフレイシアのかけた加護のおかげで無傷だったのよ。でも、カトリーナにかけられた魅了が解けて何があったか気づいてパニックになってた。すでにフレイシアはいなくなった後だったから彼、後悔してた。でも、暴動や王都の惨状がすごくてそんな事を考えている暇もなかったと思うわ。すぐにグラスリン侯爵と動いたの。暴動化した人たちを収めて、国王はすっかり気力を失っていて、エグブランド公爵やジェリク、カトリーナを拘束して王都の救助に王国騎士団を投入してみんなも一緒に協力して必死で王都を守ろうとしてるわ。だから私、王都に太陽を照らしたわ。こんな国滅べばいいって思ったけどそれは汚い事をしていた貴族だけだから。国民は関係ないって気づいたわ。だからちょっとかわいそうな事をしたって思ってるの)
(ちょ、ちょっと待って。王都が無事だった事はわかった。けど‥キア。エバン様がカトリーナに魅了にかけられてたって本当なの?)
(ええ、あの時は気づかなかったわよ。でも、後でわかったの。ごめんね。私が先に気づいてれば‥)
(ううん、あの状況では無理だよ。それにしても‥やっぱり許せない。かな)
(そうよね。許さなくていいんじゃない?ね、聞いて。カトリーナが使ってた魔法は全部キアラルダの魔込石だったの。聖女なんて大噓だったのよ。ニルス国でもキアラルダ帝国でも聖女はあなただけだから安心して。でも今は、しばらくここでゆっくりしてどうするか考えればいいのよ。あなたは王女なんだしみんなもそれをわかってるんだし‥)
(そんなの。いきなり王女だったって言われても‥それに、みんな困ってるんでしょう?私だけそんな呑気になんか‥)
(フレイシアのそう言うところ好きよ。でも、少しの間は休んだ方がいいと思うから)
(うん、そうだね。やっぱりキアと話すと落ち着く。何だかね。色々な事が一度に押し寄せてもうどうしていいか分からなくて‥私‥)
(うん、だから少し休んだ方がいいって事)
(うん)
私はやっと深く息を吸い込めた気がした。そしてもう一度目を閉じた。




