18朝食を一緒に
食堂に行くともうすでに辺境伯は席についていた。
テーブルの上にはオムレツやパン、スープが並んでいる。
「辺境伯様お待たせして申し訳ありません」
彼は私の姿をちらりと見るとさっと目を反らした。
強面の割に照れ屋なんだと思うとかなり年上の彼が可愛いと思ってしまった。
「いや、こっちこそ朝食の事をすっかり忘れていた。すまん。それから‥俺のことはエバンと呼んでくれないか。フレイシアは婚約者になったんだし堅苦しいのは嫌いだ」
「ですが‥」
「やっぱりこんなおじさんはいやだよな」
しょぼんと彼の肩が落ちる。
まあ、おじさんと言えばそうですが‥
「あ、あの、そんな事気にしてません。わかりました。エバン様とお呼びします」
「そうか、さあ、ごちそうではないが冷めないうちに食べてくれ」
年甲斐もなくあからさまに嬉しそうな顔をされてこっちまで顔が緩む。
「ありがとうございます」
年季の入ったイスやテーブルはとても丁寧に使い込まれている。特にテーブルは傷には蠟を塗りこんで指を痛めたりしないよう手入れがしてある。
そう言えば私が案内された部屋の窓枠も同じような手入がしてあった。シーツもほつれをきれいに手直しした跡があったり洗い場のタイルの目地にも修繕の後があった。
父様も良くタイルの目地を直していた。母様が欠けたタイルで怪我をしないようにと言って。
ふと父の事を思い出すと両親の墓参りに行きたいと思った。辺境伯。いえ、エバン様に頼めば許してもらえるだろうか?
そんな事を思いながらスープを口に運んだ。
「フレイシア。こんな田舎だ。料理が口に合えばいいんだが‥」
「えっ?あっ、はい、美味しいです。野菜の甘みや肉のうまみがスープに溶け込んですごく美味しいです」
心配そうにこちらを向いた瞳がわずかに柔らいだ。
「そうか。遠慮はいらんからな。たくさん食べてくれ」
「はい。聖教会では食事は厳しくて決まった物しか食べれませんでしたから、このパンすごく柔らかくておいしいです」
「でも、君はジェリク殿下の婚約者だったんだろう。それなのに?」
「ジェリク殿下が優しいのは私に貴族たちの治癒を頼むときだけです。彼らを治してもお礼を受け取るのは殿下でした。私には甘味のお礼一つもありませんでした」
「それは酷いな。そう言えばフレイシアが着ていた聖女服。旅をするためにあんな服を着ていたのか?」
「いいえ、お恥ずかしい話私は聖教会から支給された聖女服しか持ち合わせがなかったんです。今着ている服も6年前のものでサイズが合わず失礼とは思いましたがあいにく昨日着ていた服が‥」
「フレイシアすまない。私はとんだ誤解をしていたようだ。ジェリク殿下と一緒に王都に行ってしまった君は贅沢に優雅な暮らしをしているとばかり思っていた。お父さんが魔物に襲われて亡くなった時私も葬儀に行ったが君は葬儀にも顔を出さなかった。親の葬儀にも来ないなんてひどい奴だって思っていた‥俺は‥だから荷馬車でも昨晩もあんな手ひどい態度で君を蔑んで‥すまん。謝っても許してはもらえる事ではないな (実は嫉妬だったとは口が裂けても言えんな)」
エバン様は立ちあがって頭を下げた。
「ガシャン!」
フォークが投げ出されて皿に当たった。持っていたパンはテーブルの上に転がった。
彼がどれほど動揺したかがわかる。
「エバン様‥それほどまでに思って頂けるだけで私はうれしいです。だからもう気にしないで下さい。今はもう私の事信じて下さるんですよね?」
「もちろんだフレイシア。君が今までして来た苦労を思うと。これからはここで思う通りに暮らせばいい。何か欲しいものはないか?」
彼が真っ直ぐ私を見つめて尋ねた。
「私。両親のお墓参りがしたいんです。父が亡くなった時葬儀に行きたかった。でも、ジェリク殿下が急な病の方を見るようにって‥死んだ人間はもう帰らないんだから死にそうな人間を救う方がいいに決まっていると‥」
「そんなバカな‥でも、治療が終わってすぐに向かうことも出来ただろうに‥父親の葬儀に行かせないなんてなんて奴だ!」
「私ももっとはっきり伝えればよかったんですが喋れませんでしたから余計言いにくくて‥」
「だからこそ周りの人間が気づくべきだろう。いや、すまん。食事中。さあ、たくさん食べてくれ、食事が終わったらマリンと一緒にレムソンの街に行って来るといい、差し当たって着替えや化粧品なんかも必要だろう」
「いえ、私お金を持っていないので。エバン様何か私に手伝えることをさせて下さい。そしてお金を頂いたら買い物に行かせてもらうので」
「何を馬鹿な事を。フレイシアは俺の婚約者になったんだ。君に必要なものは俺が揃えるに決まってるだろう。遠慮はいらない。見返りを求める気もないぞ。だから行ってこい!」
「いいんですか?」
「ああ、それに落ち着いたら両親の墓参りも行こう。直にグラマリンにも行く用があったはずだからな。一緒に行こう」
「はい、ありがとうございます」
そこに騎士がばたばたと駆け込んで来た。
「隊長。魔物が出ました」
「ラヴァード。今行く。ああ、そうだ。フレイシア悪いが俺がいいと言うまで屋敷から出るな。買い物は少し待ってくれ」
「フレイシア?はっ、隊長、この女と食事を?」
「なんだ?俺の婚約者だと言っただろ!」
「ったく。これだから恋愛初心者は厄介なんだ!隊長この女絶対やばいですって!まじ、あんた隊長手玉に取ってんじゃねぇよ。とっととここから出て行けよ!」
唾毛を巻き釣らしながら私を睨みつけるラヴァード副隊長。だったよね?
なんで?そんな鬼みたいに怖い顔して見てるのよ!私何も悪いことしてません!!
「フレイシア、こいつの言うことは気にするな。こいつ女はからっきし苦手でこんな悪態しか言えんのだ。おら、ラヴァード急ぐぞ!」
「マジ隊長。わかってるんですか。あんなの詐欺に決まってるじゃないですか。何血迷ってるんです?もう、勘弁して下さいよ。魔物だけでも大変だって言うのに‥いいですかこの世で一番怖いのは女なんですってば‥#&=!!」
ひど~い。あの人どうしてそんなに私を攻撃するわけ?
マリンが笑いながら教えてくれる。
「ラヴァードさんはどんな女性にもあんな態度なんです。気にしないでいいですから」
「きっと過去に凄く嫌な女に騙されたのね。お可哀想に‥」
私は心の中でご愁傷様とお祈りをした。




