12あなたはどなたでしょうか?
かなり夜が更けた頃。
ギシリと扉の開く音がした。
私はすでに明かりを落とし部屋はほとんど何も見えない状態。
だと言うのに誰かが部屋に入って来た。
ヒェッ!誰?
「‥‥‥(あの、どなた?)」と言いたかったが喉が張り付いたようになって声が出ない。
衣擦れの音がして誰かがベッドの端に上がる気配が。
うわっ!どうしよう。どうすれば?もう、あんた誰なのよ!
「おい、寝てるのか?普通、辺境伯の閨の相手になるかもしれないと思ったらおちおち明かりも落とせないんじゃないのか?こうやっているという事はやはりずいぶんと男慣れした女なのか?さすが聖女を呪ったり殿下をたぶらかした淫乱女だけのことはあるな。まあ、王都の奴らの言いなりって言うのも癪に障るが拒否すればしたで面倒だからな。今夜だけは仕方なくお前を性のはけ口にする事にした。変な期待はするなよ。俺だって王都の奴らに付け入る隙は与える気はないからな。それに俺が手をつけなきゃ騎士に下げ渡す事も出来ない。だから仕方なくだ。わかったらそのつもりで務めを果たすんだな」
気だるげなつぶやきのような言葉を吐き捨てると男がするりと私を引き寄せた。
すごい、見えるんだ。こんな真っ暗なのに?
「わ、私が見えるのですか?」
「くっ!ほとんど見えない。まあ、おぼろげに姿が分かる程度だ。そもそもお前の顔さえ見たくはないんだ。まったく、王都は暇人ばかりなんだな。こんな余興を企てやがって!こっちはとんだ迷惑だ」
いやいやこっちだって迷惑だよぉ~。いっそやめるって言わないかな?っていうかもうやめてよ!
「‥‥」
どうやり過ごせばいいのかわからないまま。
「恐くはないはずだろう?さあ、いいから直ぐに終わる」
男の身体が上になりその手が胸の辺りをまさぐり始める。どうやらシャツは着ているらしい。
が。
ああ、もう我慢できない!
「あの、申し訳ありませんがあなたはどなたでしょうか?」
かばりと上半身が上がる気配。
「はっ?俺が誰かって。決まってるだろう。俺はエバン・チェスナット。この辺境の領主だ。さっ、これでいいか。お前は俺の婚約者になるって話だったがまさか本気にはしてないんだろう?。でも、俺は温情を掛けて一晩だけ俺の相手をすれば後はより取り見取り騎士達と楽しめるよう計らうって言ったんだ。わかったら黙ってじっとしてろ。ったく‥」
これがあのエバン・チェスナット辺境伯?いつからこんな嫌な男になり下がったのよ!
私がフレイシア・タンジールだって知っていてこの態度だとしたらがっかり。いや元から最低の男だったのか?
やはり結婚絶対無理ランキング1位の男だからくそなの?
だからと言ってこのままこの状況を受け入れるわけには行かない!
目の前と言ってもほとんど見えてはいないけど、起き上がってぐっと息を吸い込んで‥
「すぅぅぅ~はなぁぁぁ~。エバン・チェスナット辺境伯聞いてください。私が誰かお判りですか?私はフレイシア・タンジールです。幼いころよりあなたには色々と助けていただきました。グラマリン男爵領の聖教会の娘のフレイシア・タンジール。父の名はローダン・タンジールです。私は辺境伯が思っているような人間ではありません。むしろ逆です。私は純潔です。男をたぶらかすなんてそんなふしだらな事はしていません。カトリーナ様を呪ってもいません。すべてジェリク殿下の策略なんです。私は被害者なんです。どうか私を信じてもらえませんか?」
一気に言いたいことを吐き出した。
暗闇で彼が身じろいだ気がした。
「俺は‥その‥罪人が護送されると聞いてそいつの罪が俺の婚約者だなんてふざけた事になっていてくそムカついて、それでも王命に逆らうわけにも行かなくて。だからお前を試した。すまん」
彼が頭を下げたのかベッドが軋んだ。
「ひゃっ!」
「驚かせたのか?すまん。何もしない。フレイシア君はどう見ても淫乱聖女なんかじゃないって理解した。あっ、いいからちょっとそこで待ってろ!今、明かりを持って来る」
「‥はい」
辺境伯が急いで出て行く。
だからってこんなの許せるわけ‥信じてもらえた事より何さっきの態度。すごくむかつく。
いくら私が罪人だからって普通そこまで言う?
まじ、この人うざい。
私の中で怒りが荒れ狂う。




