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本物のステラ・ エリザベス ・エヴァンスはどちらなのか?  作者: 藍銅 紅(らんどう こう)@『前向き令嬢と二度目の恋』書籍発売中


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第2話 生まれたばかりの赤ん坊は、ステラ・ エリザベス ・エヴァンスと名付けられる予定だった

 生まれたばかりの赤ん坊は、ステラ・ エリザベス ・エヴァンスと名付けられる予定だった。

 だが、今。赤ん坊は二人。

 しかも髪の色を変えられ、十六歳になるまでは、どちらが本妻の娘で、どちらが愛人の娘であるのかは不明のまま。


 こちらと思われる片方をステラ・ エリザベス ・エヴァンスとし、もう片方に適当な名をつけるわけにもいかない。


 かといって、二人とも、全く異なる名をつけるのも戸惑われた。


 結果、エヴァンス侯爵家の者たちは、片方の赤ん坊をステラと、もう片方の赤ん坊をエリザベスと呼ぶことにした。


 まだ五歳のロバート・ヘンリーには、突然妹が二人に増えた意味が分からなかった。

 ソフィア・ルイーズ・エヴァンス侯爵夫人は、どちらが自分の娘なのかわからず、二人ともを嫌悪した。

これまではそれなりに仲のよかったはずの夫婦仲も悪化した。


 ステラも、エリザベスも、乳母たち使用人によって育てられた。

 時折、二人の元にロバートが遊びにやって来ることもあったが、ソフィア・ルイーズもエヴァンス侯爵も、ステラとエリザベスをほぼ放置した。

 十六歳になり、愛人の娘を放逐してから、話はそれからだとばかりに。


 元々貴族の家であるからして、幼い娘と両親がともに生活することはない。

 十歳になるまでは、ステラもエリザベスも、父親や母親というものは知らず、ただ、家庭教師に勉強を教わり、使用人たちに身の回りの世話をされた。

 それで、何の問題もなかった。


 問題が生じたのは、ステラとエリザベスが十歳、ロバートが十五歳になった時。

 ロバートの婚約が決まったのだ。


 嫡男であるロバートの婚約者、そして、その婚約者の家族には、ステラとエリザベスのことを隠しては置けなかった。


 その上、王家から婚約の打診もあった。

 第三王子であるバリー・グラハム・ジャーヴェイスの婚約者として、ステラ・ エリザベス ・エヴァンスの名が挙がったのだ。


 エヴァンス侯爵家は、ジャーヴェイス王国の三大侯爵家のうちの一つ。


 筆頭侯爵家であるセティネイ家の長女は、既に王太子に嫁ぎ、王太子妃となっている。


 三大侯爵家・二番手、ドナルドソン侯爵家の娘も第二王子に嫁いでいる。


 政治バランスとして、第三王子の婚約者は三大侯爵家の残りであるエヴァンス侯爵家から選ぶのが妥当なのだ。


 しかも、ステラたちは第三王子と同じ年。年齢も釣り合っている。


 問題なのは、ステラとエリザベス のどちらが本物のステラ・ エリザベス ・エヴァンスと成り得るのかが分からないということだ。


 エヴァンス侯爵の愛人は、元々は男爵令嬢。金がなく、エヴァンス侯爵の愛人となることで、糊口をしのいでいた。


 そんな愛人の産んだ娘を、いくら父親がエヴァンス侯爵とはいえ、第三王子と婚約を結ばせるわけにはいかない。


 考えた末、エヴァンス侯爵は、国王やロバートの婚約者の家に、すべてを話してしまった。


 下手に隠し立てをして、後から文句を言われるよりは、先にすべてを告白したほうがマシだと考えた……というよりも、半ばヤケだったのかもしれない。


 結果、ロバートの婚約はそのまま続行となったが。

 第三王子との婚約は保留となった。


「どちらが本物のステラ・ エリザベス ・エヴァンスなのか、判明してから婚約を結んでも遅くはないだろう」


 王太子、第二王子、共に婚姻もしくは婚約済みなのだ。

 王家の血を引く者を増やすためだけの、予備の予備のような第三王子の婚約なのだから、別に構わないと、国王は判断したのだ。


 不満を持ったのは第三王子、バリー・グラハム・ジャーヴェイスだ。

 だが、不満を表してもどうにもならない。


 十六歳になるのを待って、三大侯爵家の娘を娶るか。

 それをも不満を表し、もっと格下の娘を娶るか。


 それしかバリー第三王子に与えらえれる選択肢はなかった。


 だから、そのまま。

 ステラとエリザベスと、両方が婚約者候補となったまま、不自然な交流が続けられていった。








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