押収
春の雨はしとしとと、石畳を濡らし続けていた。
霧の立ち込める帝都レインバルドの朝、異様な気配が街を包んでいた。
《オルグレイ精機商会》の工房には、すでに多数の黒衣の保安局隊員が待機していた。
令状はすでに手に渡り、帝都裁決院が発行した黒檀製の特別令状は、その厚さと重みで異様な緊張をもたらしている。
午前五時、まだ眠気の残る時間。
ジョン・クリスティは、静かに自室の扉を叩かれた音で目を覚ました。
外の喧騒はまだない。だが内なる不安は、彼の胸を締め付けていた。
扉が開き、第五監察課の部隊長、マグナス・ハースティングの冷徹な瞳が差し込む。
「ジョン・クリスティ殿、帝都裁決院の特令状により、貴殿ならびに常務フェリシア・クレイン、そして技術補佐官セラフィナ・モールズを禁輸魔導装置出荷の疑いで逮捕する。」
言葉は短く、冷たかった。
抵抗の余地はなかった。
三人は即座に手錠をかけられ、工房の主要部分は厳重に封鎖された。
技術資料、製造装置のすべてが押収され、魔導炉の結晶石は厳重に没収された。
拘留は即日開始され、帝都拘置院への収監が命じられた。
誰も彼らの無罪を疑わなかったが、保釈の申請は帝都裁決院によりすべて却下された。
日ごとに重くなる鉄格子の向こうで、ジョンは思いを巡らせた。
「我らはただ、命を救うために働いたのみ……なぜ、これほどまでに罰せられねばならぬのか」
相談役アイリスは、病床に伏しながらも激しい怒りと悲しみに心を裂かれた。
彼女は何度も保釈を願い出たが、帝国司法は耳を貸さなかった。
女性職員の一人は度重なる取り調べに耐えきれず、精神を蝕まれ、重いうつ病を発症した。
彼らの犠牲は日に日に増していった。
やがて、数か月が経過し、裁判の場で証拠不十分を理由に公訴は取り下げられた。
だが、それは決して解放ではなかった。
無実の罪に苦しんだ年月は、彼らの身体と心を蝕み、取り戻せぬものとなってしまったのだ。