魔術の修業
「頃合いですね」
ミラエルが唐突にそう呟いた。
「少し無理をさせすぎてしまいましたか。帰りましょう」
「え?盛り上がってきたところなのに・・・・・・」
「盛り上がってきたからこそ、ですよ。いいじゃないですか。今日だけで火、水、雷、土、風の魔術を中級まで習得できたのですから。明日はまた、別の場所でやりましょう。町から見てここは北側ですから、念のため南側の平原にでもいきますか。魔獣狩りです」
ミラエルは帰り支度を進めたのち、ヒーリング、と呟いた。
対象は、ミラエル自身でも、俺でもなく、今の今まで訓練を行っていた空間に対してだ。
「魔術を使うには大気中のリソースを使用するとかなんとか、そんな感じなのか?」
「まぁ、そんなトコです。私も疲れました。かなり魔力を消費してしまいましたから」
魔力の消費、というのが分からない。
確かに一日動いたので、体力的な消費は感じるが、その他の部分が削れたような感覚はない。
ミラエルの話を総合するに、魔術とは大気中のナントカと自身の中の魔力を使用して発現する、ということなのだろうが、
「もしかして、俺の魔力が膨大すぎて消費した感覚がない、みたいな事なのか?」
「そんな感じじゃないですか?」
ミラエルは、明らかに適当な相槌を打った。
森からの帰り道、ふと思い立ち、水の魔術を使用してみることにした。
歩きながら、まずは目標の設定。100メートルほど後ろの木の幹でいいだろう。
そして、イメージ。弾丸のような形状でいいか。
あとは射出。これも、「放て」と口には出さずにイメージの中だけで唱えて見る。
すると、びゅん、と目の前に形成された水の弾丸が、目標とした木に直撃した。
木は、物凄い音を立てて命中した箇所から折れていく。
「・・・・・・?なんの音でしょう?」
「さぁ?木にイノシシでも追突したのかな」
極めて冷静に言ってのけるが、内心は興奮していた。
今のは、全く予備動作のない魔術だった。
詠唱もなければ、腕で目標物を示す事もしなかった。
成功するとは微塵も考えていなかったのだ。
思いついたから、試しにやってみた程度の実験。
なるほど、後は応用だ。
応用さえすれば、多少力のある冒険者として生きていける見込みが立つ。
「ようやく、異世界転生っぽくなってきたな」