魔術の習得
へろーん。
そんな擬音がお似合いな矢だった。
うーん、ハルバートくんの長年の経験が身体に染み込んでいることを期待して弓矢にトライしてみたワケだが、どうやらその辺りは引き継がれてないらしい。
となると、冒険者として食っていくことが難しくなるわけだが……なんかないわけ?
女神様が与えてくれたチートスキルみたいなの。
「……まぁ、コツコツ練習するしかないかぁ」
冒険者としての依頼をこなせるようになるのと、金が尽きて餓死するの、一体どちらが早いだろう。
ヒリつくぜ。
ばよーん。
こんな矢じゃ、ナウマンゾウにだって当たりゃしねぇぜ!
「何してるんですか?」
背後に声。ミラエルだ。
昨日、重い雰囲気のままお開きになった後、ミラエルは近場の宿屋に宿泊をしたらしい。
「何って特訓してるんだよ。弓矢がメインウェポンっぽいからな」
「はぁ……おや、的には当たってるようですが」
そう、的には当たるのだ。当たるのだが。
「見てくれよこの狙撃を」
ゆーん。
「ハエが止まるぜ」
キメ顔で言ってみた。
もっと、ピッ!とかシャッ!っと矢を放ちたいものだ。
しかし、届きさえすれば的に当たるのは、流石『グッド・ラック』といったところか。
「ところでお嬢さん、今日は何用で?」
「いえ、特訓に付き合ってあげようと思いまして」
ほう、それは有り難い申し出だ。
しかし、昨日からそうなのだが、一体彼女に何のメリットがあるというのか。
「……今日は安い食堂にしてくれると助かる」
「あ、いいんですか?ご馳走様です」
まぁ、一人前の冒険者になるための時間を買ったと思うことにしよう。
「街外れの森に行きましょう。あまり人目につかない方がいいでしょうし」
「人目を気にする必要が?」
「貴方は一応ゴールドプレートなので、変な噂を流されても困るのではないですか?」
なるほど、考えてもみなかった。
しかし、変な噂っていうか、事実では?
「じゃあ、ちょっと待っててな。矢とかある程度もってくるから……」
「あぁ、弓矢はいらないです」
この女、前提を根本から揺るがしてくるな。
「私は弓矢とか使えませんから。それよりも、魔術の使い方を教える方が効率がよいので」
街外れの森で、ミラエルはそう説明した。
魔術、使えるのか?俺が?
「やりたいやりたいやりたい!!」
でも、本当にできるのか?
魔術に必要なマナだとかMPだとかは幼い頃に決定してナントカカントカ、とかないのか?
俺の心配を他所に、ミラエルはびゅーんひょい、と杖を振る。
「ファイア」
ミラエルがそう呟くと、杖の先から拳大の火の玉が射出された。
火の玉は、数十メートル先の巨岩まで一直線に進み、岩肌に触れて消え失せた。
やはり、信じられない。まだ曲芸を見ているようだ。
「はい、やってみてください」
「先生、そりゃ乱暴だぜ」
俺の悲痛な叫びに、ミラエルはふぅむ、と唸る。
「イメージしてみてください。きっとできると思いますよ」
イメージって言ったって。
「杖とかいらないの?」
「あぁ・・・・・・腕でいいんじゃないですかね。腕をこう、目標物に向けて」
なるほど?
魔術を発動させるベクトルを決めるということか。
そんで、さっきミラエルがやっていたのは、確か・・・・・・。
こう、杖の先から炎が渦を巻くように集まっていき、瞬く間に拳大の火の玉に・・・・・・。
「およ?」
イメージした通りに、先ほど見たのと同じように拳大の火の玉が腕の先に形成されていく。
「・・・・・・ファイア」
そう発声すると、火の玉はすごい勢いで射出され、目標の岩に向けて飛んでいった。
発声が引き金になっている、ということだろうか。
「ほら、できました」
ミラエルは、さも当然のように言ってのけた。
「・・・・・・これ、この世界の住人ならできるモンなのか?」
「そういうわけではありませんが、貴方ならできるでしょう」
ミラエルの言葉には、確信めいたものを感じた。
「俺・・・・・・とミラエルさんと会ったのは昨日が初めてなんだよな?何故分かるんだ?」
その言葉に、ミラエルは笑う。
「貴方がゴールドランクだから・・・・・・でしょうか?」
それが、理由になるのか?また、その言葉が本心ではない気もした。
しかし、ミラエルはそれ以上説明する気もないようだった。
「さて・・・・・・これからいくつかの魔術をお見せします。基本の属性魔術をお見せした上で、後は応用です。まぁ、貴方であれば、今日中にひととおり習得できることでしょう」
そんな馬鹿な。