目覚めたらそこは異世界であった
とある宿屋で、俺は目を覚ました。
「知らない天井だ」
病院か?
それにしては木の温もりを存分に感じられる天井だ。
分かんないけど。そういう病院もあるのかもしれないけれど。
「お目覚めですか?」
不意に、ベッドの脇から少女の声がした。
首をそちらに向けると、漫画やアニメで出てくる魔術師のような格好をした女が座っていた。
何かのコスプレだろうか?
何がどうなったら、宿屋で魔術師コスプレ少女に介抱される展開になるのか。
人生とは分からんものだ。
「……ええと、貴女は?」
「私はミラエルと申します。早朝散歩に出た所、路上で突っ伏す貴方を発見し、こちらの宿屋にお連れした次第です」
宿屋?・・・・・・そうか、宿屋か。
うん?なんだか微妙に頭がぼーっとしている気がする。起き抜けだからそんなもんか。
宿屋って、宿屋だよな。
常識だ。常識ではあるハズなのだが・・・・・・妙な違和感を感じる。
挙動不審な俺を見てか、少女はカップをこちらに差し出した。
「私の故郷に伝わるお茶です。二日酔いに効きますよ」
「……二日酔い?」
「あれ、違いました?早朝に吐瀉物に塗れて倒れていたので、素面ではないと思いましたが」
咄嗟に自らの身体を確認する。
ぱっと見は清潔そうに見えるが……。
「綺麗になーれ、と魔術をかけましたので、そこらの町人よりも綺麗ですよ。服だって新品同様。ほら」
あー、なるほど魔術でね。
ミラエルは、手に持っている杖をひょいっと振る。
すると、目の前に水泡が現れ、鏡のように俺の顔を映し出した。
すげー、魔術だ。
いや、こんなありきたりな魔術のどこがすげーのか。
・・・・・・あれ。
俺じゃなくね?
「どうかされました?」
「いや、その、記憶の自分の顔と違ったもので」
何を言っているんだこいつは、という顔でミラエルは再度杖を振る。
すると、目の前の鏡はぷわんと音を立てて消え去った。
「ところで、貴方のお名前は?」
混乱する俺に、ミラエルは問うた。
「え、あ、俺?」
「はい。恩を売った人の名前は覚えておきたいので」
俺は……。
「瀬川瑛一郎だよ」
自らの名前を告げると、ミラエルは満足そうに頷いた。
ふむ、なるほど。
知らない俺の顔に、知らない俺の身体。
そして、魔術の存在。
これはアレだ。
「この場合は、異世界転生なのか異世界転移なのか、どっちだ・・・・・・?」