それぞれのー2
「あら、オリヴィエさんなら下に」
九番隊隊長マリア・ウルフがアッシュの代わりにゆったりとした口調で答える。背中まで伸びた黒い髪、穏やかな表情。頬に手をあててアイザックに目線を向ける。
「いまは落ち着いていますけど、そっとしておいてあげましょう。ああ、可哀想に。いきなり見ず知らずの輩に襲われて。私が守ってあげなくちゃ」
「……当事者の話も聞いておきたかったが、配慮が足りなかったな。すまない、話を進めてくれ」
「王よ」
二番隊隊長イザヤ・アラガミが国王に小さな声をかける。着物を着こなした痩身の男。後頭部で縛られた長い黒髪、切れ長の目。腰に提げた武具はこの辺りでは見慣れない形をしている。
以前、興味本位で尋ねたとき「カタナ」と彼が答えてくれたことをアッシュは思い出していた。
「オリヴィエをここで匿ってる以上、王が危険に晒される可能性が。他の場所に移しては?」
「私は構わない」
即答する王に「座りなさい、アッシュ」と促され、彼はそれに応えて腰をおろす。
「オリヴィエ・クレセントは当事者だが被害者でもある、皆も丁重に接しなさい。それとマーリンのことだが……」
王が口ごもる。珍しいとアッシュが思っていると、気持ちを切り替えたのか「いや、本題に入ろう」といつもの厳かな雰囲気に戻る。
「我らが同朋を手にかけた彼奴等は万死に値する。敵の位置を把握次第、万全の準備を以って襲撃を。それと手引きをしている者ーーその可能性を視野に、皆それぞれ警戒と調査をするように」
「おうさまー」
アッシュの隣に座り、気怠げな声を発したのは十一番隊隊長スノウ・スリープ。アッシュと同じ栗色の髪、ナナと同じくらいの小さな背丈。そして、いつ見ても眠そうな眼差し。
「これ、マーリンに助けを求めるのはー?」
「スノウちゃんよく言いました!」
ナナがスノウの言葉に賛同する。
「特例として特殊文献の閲覧を許可しては? マーリン様が元の姿に戻れば何もかも解決します! それに裏切りものもきっと、」
「馬鹿かお前は」
再びレオがナナに噛みつく。
「他国の魔術師を頼ってどうする? エルドラの価値を下げるつもりか?」
「はあ? 馬鹿は貴方よ馬鹿犬。もう既に頼ってるんだから価値もクソもないでしょ? それともなに? 死人が出るよりそのちんけなプライドの方が大事? 貴方の部下かわいそー、もしかしたら明日には死、」
「ナナ隊長」
藍色の髪に、男性か女性か、一目では判別がつかない中性的な顔立ち。六番隊隊長ノア・テイマーがナナに言葉を向ける。
「争う相手が違うでしょう、少し落ち着きなさい」
「……はーい」
「レオ隊長も汚い言葉使わないの」
「……はいはい」
この流れ、ついさっきも見たなとアッシュは既視感を覚える。
「それにしても現実味に欠けるね、この報告書は」
報告書に目を通しながらクリスがそう言う。
「マーリンが子供の姿にされたーーあの魔術王がそんな不覚をとるなんて。それに解錠なしで解錠後の魔術師を追い払う。こちらも非現実的だ」
「やけに評価が高いな、クリス。そんなに凄い魔術師なのか、マーリンというのは」
イザヤが問うと「すごいよ」とクリスは即答し、次いでナナが「すごいわよ」とまるで自分のことのように誇らしげに言う。
「イザヤちゃんは見たことないのね、マーリン様を。あれこそ完全無欠、人類の至宝、神様の最高傑作よ。だから、」
「話を戻さないか」
ナナの語りを遮るくぐもった女性の声。そう発したのは八番隊隊長E・E。黄金の甲冑を常日頃身に纏い、その素顔をアッシュは未だ見たことがなかった。
「ワタシはナナ隊長の考えに賛成だ。頼れるなら魔術王の力を借りたい。勿論レオ隊長の意見を否定するつもりはない、他国の術師に頼っていては国民にも示しがつかないから。だからこれは私情でしかない。……ワタシは部下を、ダレンを殺されている。ただただ敵が許せない」
「だったらお前が殺せ」
それまでずっと黙っていた五番隊隊長デイヴィッド・ルーンが声をあげる。銀髪に、浅黒い肌。翠緑の瞳が、黄金の騎士を睨む。
「部下の想いに報いるのかお前の役目だろう。何故その責任を他者に預ける? マーリンなどどうでもいい、俺達のやることに変わりはない。敵を殺す。ただそれだけだ」
「そんなことは分かっている。ワタシはただ、」
「もうよい」
国王が止めに入る。
「話は終わりだ。いま一度気引き締め、同志を殺した悪党に裁きを下せ」
ゼノ・エルドラの言葉で、会議は終わりを告げる。流れに沿ってアッシュが室内を後にしようとしたとき国王に呼び止められた。
二人で話がしたい、と。




