表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年のマーリン  作者: 相澤カナデ
第1話 少年と刺客

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/67

1ー7



 真っ白で何もない空間。

 死んだ父が目の前に立っている。

 ああ、わたしは死んだのかとカナメは悟った。だとしたらここは天国だろうか。父に会えて嬉しい気持ちが先にきて、つぎに母とサリアの悲しそうな表情が目に浮かびカナメは俯く。

 罪もない英雄を金のために襲って、返り討ちにあって死ぬなんて。無様にも程がある。目の前の父にも顔向けができない、ただ下を向くしかなかった。

 頭に手の感触がある。

 懐かしい感覚。

 顔をあげると穏やかな父の顔があった。


「カナメ」


 ずっと。

 ずっと聞きたかった声。

 目頭が熱くなる。


「お父さん」


「ーーーーしてくれ」


「え?」


 頭から手を離し、カナメに背を向けた父。

 困惑したカナメを残して父が歩き出す。


「待って!」


 手を伸ばして走る。


「ねえ待ってよお父さん!」


 遠さがっていく背中。

 走っているのに、強くなったのに、何故か追いつけない。

 足がもつれて転ぶカナメ。


「置いてかないで!」


 転んでも尚、手を伸ばす。

 父の姿が、見えなくなっていく。


「ひとりにしないでよぉ……!」


 その背中はもう見えない。

 真っ白な空間が、真っ黒に染まっていく。




 そして、目を醒ます。

 

「起きたか」


 声のした方を見ると少年が椅子に座ってこちらの様子を眺めていた。ーーまだ自分は死んでいないんだと、カナメは現実に引き戻される。

 ベッドに寝かされていた身体を起こす。辺りを見れば、マーリンの寝室だということが分かった。


「無理に動くなよ。治したばかりだからな」


 言われて初めて気が付いた。

 信じられないことに体を見れば傷が残っていない。あの出血や痛みは全て幻だったのかと思うほどに。


「で、何で襲ってきた?」


 俯いていたカナメが返事に詰まっていると「家族を人質にでも取られてるのか」とマーリンが言う。

 予想外の言葉に彼女が顔をあげる。


「……え?」


「倒れる間際、家族の名前を口にしてただろ」


「……覚えてない」


 違うのか、と言う少年。

 再び、目線を合わせないようにカナメは下を向く。

 

「人質じゃ、ない」


「なら何だ」


「……お金のため」


「お金?」


 依頼は失敗した。こうして生かされているのも尋問の為だろう。どうせ助かることはない。逃げたところでこの少年に今度こそ殺されるか、依頼してきた女が口封じのために誰かをよこすだろう。

 もう疲れた、何もかも。


「お母さんが病気だから。それを治すためにお金がいますぐ欲しかった」


 包み隠さずに話そう。

 どうせ死ぬ未来に変わりはない。


「三日前。あなたを殺してほしいってお願いがきたの。その対価に、お母さんの病気を治せるお金を貰うって条件で」


「無謀だな」


 彼は断言する。


「餓鬼の俺なら殺せるとでも思ったのか? お前も、頼んできたその馬鹿も」


「無謀でも縋るしかなかった」


 掠れたカナメの声。


「お父さんが亡くなってから生活が苦しくなって。その後にすぐお母さんが病気で倒れて、頑張らなきゃって、魔物を殺し回って。……それでも駄目だった、全然足りなかった」


 ずっと泣かないようにしていた。

 ずっと弱さを晒さないようにしていた。

 隙を見せたら死ぬ。そんな世界でカナメは短刀を振るい続けていた。

 頬から一筋の涙が流れていることにカナメは気付き直ぐさま拭う。だけどそれは、とめどなく溢れてきて、カナメは何度も拭い続ける。その姿を少年は静かに見守っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ