5ー7
「そろそろ行くよ。話ができて良かった」
「気をつけろよ、アッシュ。分かってはいると思うが、オリヴィエも副隊長も居場所を突き止められてる。何もかもを疑ったほうがいい」
それは余計な言葉だったかもしれない。
だが常に位置を把握していたかのような襲撃、手際の良さ。
教団内部に裏切者がいるのではないか。
そう疑いを持つのは自然な流れだ。だが敵の目的は教団の壊滅と謳っている。意義に反して教団の人間と協力関係を結ぶだろうか? 若しくは間者が潜んでいるのか、と、考え出したらキリがない。
悩ませるような言葉を掛けるべきではなかったと思う少年。それに言われずともアッシュはその考えに及んでいたのだろう。口元に笑みは浮かべているが、複雑な思いが表情から窺える。
「胸に留めておくよ。それとマーリン。教団の会議で名前を出しても?」
「構わない。ここまで来て、正体を伏せるつもりはないさ」
「ありがとう。この礼はまた必ず」
「いいって言ってるだろうに。ヒバナにもよろしく」
「ああ、伝えておくよ」
手を振って、マーリンの元から去っていくアッシュ。入れ替わりの形で、カナメがマーリンの横に立つ。
「話は終わったか」
「うん、お待たせ」
陰りがある表情。朝と変わらず少し元気がないように見える。
「俺達も行こうか」
立ち上がって、少年の視界に映る窓の向こう側でオリヴィエが別れの手を振っていた。
それに応えて小さく手を振る。
短い付き合いだったが、それでもこの出会いは掛け替えのないものになった。ただ後悔が一つあるとすれば彼女に治療させてしまったことだ。教団でも医療に携わると口にしていたが、アッシュのことだ、オリヴィエに無理はさせないだろう。
彼女には幸せになってほしい。
「カナメ」
「なに? マーリン」
「困ったことがあれば遠慮なく言え。いつでもいい、話したいときに話してくれれば」
「……うん。ありがと」
店を後にし、通りを歩く二人。
少年は思う。異国の地で巡りあう様々な人々は、以前の自分ならきっと、路傍の石にしか映らなかったであろうと。
けれどもいまは違う。こうしてすれ違う人も皆、それぞれに人生があっていまを生きている。そんな当たり前のことに今更になって気付く。
懐から紙を取り出す。行き先は都市アラディア。首都アイリスから外れてエルドラ国西部に位置している。ここからは随分と距離が離れていた。
紙の端に記された魔術闘技場の開催日まで後一週間はある。それまでにどれだけ強くなれるのか、害意のない呪いを抱えて少年はカナメと共に歩き出す。
『楽しむといい、人生を』
死に際に遺された言葉を思い出す。
言われなくとも楽しむさ。
旅はまだ、始まったばかりだ。




