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オリヴィエが立ち上がる。
別れはもう、目の前だ。
「大人に戻れることを祈ってるよ、マーリン。無事に戻れたらその時は一度、会いに来てくれ。盛大にお祝いしよう」
「それは楽しみだ。またな、オリヴィエ」
「ああ、また。カナメ。外まで着いてきてくれないか?」
「え?」
「話したいことがある。急いでるところ悪いがアッシュ、ちょっとだけ時間をくれないか」
「分かりました」
横目で少年を見るカナメに対して頷く。カナメもまた頷き「行ってくるね」と言葉を残し、オリヴィエと二人で店を後にした。
「どうしたんだろう、二人とも」とアッシュ。
「さあな。男には聞かれたくない話なんだろう」
「そうか。なら詮索はよそう。……しかしいまになっても、こうして話してるだけで緊張するよ」
「緊張? 俺に?」
「もちろん」
「面には出ていないように見えるが」
「出さないよう必死に抑えてるのさ。貴方の話は幼い頃から聞いている。かつてエルドラに訪れた厄災チェノース、それを秒殺したのはこの国の伝説だよ」
「……懐かしい話だ」
厄災チェノース。
海底で数百年眠っていたとされるその魔物は、目醒めてから直ぐさま陸に上がり、エルドラの人間を次々に襲った。
全長凡そ二十メートルの巨人。手にとった生物は皮を剥いで殺すという残虐性を持ち合わせ、街に足を踏み入れては破壊の限りを尽くし、教団の隊長格を三人殺害している。
それから間もなくエルドラからブリタニアへ応援要請が届いた。
そこで派遣されたのが二人の魔術師。
マーリンとヴォーティガーンである。
「国王は元気か」
「元気にしてるよ。あ、でも最近、腰が痛いって言ってたかな」
「ふ、ざまあないな」
「……え? もしかして、仲が悪い?」
「仲が悪いも何も、ブリタニアからわざわざ来たというのに国王の第一声が『ふざけているのか』だ。たった二人で来たのがよっぽど癪に触ったのか、まあ怒ってたよ」
「そんなことが……」
「でも、いま考えてみれば当然の反応だ。何せ隊長はやられ、街は甚大な被害に遭っていた。明日どうなるかも分からないって時に、来たのはたった二人の魔術師。怒るのも無理はない、が、当時の俺は餓鬼でね。このクソジジイとしか思ってなかったわけだ」
当時の自身は傲慢で、いまよりも子供だったと振り返る少年。
「それで実力で黙らせて、ヴォーティガーンを置いて即刻ブリタニアに帰国した。礼も何も受け取らずにな。後日謝罪があったがそれも無視した。……いま振り返っても恥ずかしい話だ。その頃の俺は、他人の気持ちを考えることができなかったんだ」
「それでも、俺の憧れであることに変わりはない。とても格好いいよ、マーリンは」
「やめろやめろ、持ち上げるのは。褒めても何も出ないぞ。ーーところで何か食べたいものとかある?」
アッシュと少年が笑い声をあげる。
店の扉が開き、カナメとオリヴィエが戻ってきたことを確認した二人。




