5ー5
紙と筆を懐から取り出し、都市アラディアの道程と魔術闘技場の開催日を書いてくれたアッシュ。礼を言って受け取り懐に仕舞う。
「オリヴィエさん」
アッシュが少年から彼女に視線を移す。真剣な面持ちを前にオリヴィエもまたそれに倣う。
「謝罪をさせてほしい。事情を知らずに部下が勧誘したことを」
「仕方ないさ、それは」
「いや、相手の心情を図らず付き纏ったこと、本当に申し訳ない。それでも失礼を承知で頼みたい。このまま俺と一緒にアイリスへ着いてきてほしい。貴女を危険から守るには、それが一番の選択だと思う」
「……分かった。こちらからもよろしく頼むよ」
ほっと一息吐くアッシュ。
断られることも考慮していたのだろう。
「とりあえず、今回の騒動が落ち着くまでオリヴィエさんには本部に身を置いてほしい」
「ああ。私に何か手伝えることがあれば尽力するよ。勿論、隊員が傷付けば医療も」
「オリヴィエ、それは、」
「マーリン」
口を挟んた少年の言葉を遮る。
「私なら大丈夫だ。それに、守られてるだけの立場なんて性に合わない」
「……そうか。そう言うなら何も言うまい」
オリヴィエとの遣り取りを見ていたアッシュが「無理はさせないよ」と口にし、少年に目線を向ける。
「闘技場の話を持ち掛けておいて何だけど、もしよければ一度アイリスに来てくれないか? マーリン、カナメ」
「勧誘か?」
少年の言葉にアッシュが頷く。
真っ直ぐな眼差しから目を逸らせない。
若くして隊長を務めているにも関わらず、その佇まいには気品がある。
「悪いが断る。カナメは?」
「私も。ごめんなさい」
「……そうだよね。いや、聞いて悪かった。もし二人が力になってくれれば、なんて考えたら口が止まらなかったんだ」
前例があるから誘ったというのもあるかもしれない。教団の応援要請で一度、マーリンとヴォーティガーンの二人でエルドラの地には訪れていた。そのとき隊長の中にアッシュの姿を見かけなかったことから、彼がここ数年で昇格した新参者だというのは察している。誰かから話を聞いたのかもしれない。
「無理なことを言った。ーー話はこの辺にしておこう。マーリン、カナメ。二人にはちゃんとしたお礼がしたいんだけど、いまは急いでてね。直ぐにアイリスへ向かわないといけない」
「礼はいい。そんなことより、森の片付けを任せることになって申し訳ない」
「それこそ気にしないでほしい、二人は悪くないんだから。悪いのは誰かはっきりとしている。オリヴィエさん、荷物は?」
「宿に着替えが」
「取りに行って直ぐ行きましょう」
「ああ、分かった。マーリン、カナメ」
立ち上がる前にオリヴィエが頭を下げる。
「昨日は本当にありがとう。君達がいなかったら私は今日を生きていない」
顔をあげたオリヴィエの表情は穏やかで、優しい笑みを口元に浮かべている。
「いつ死んでもいい、なんて思っていたが、君達に助けられて考えが変わった。誰かを助けるばかりで、助けられたときの感動を忘れていたよ。自分がしてきたことは、割と良いことだったかもしれない」
「ああ、いま気付いたのか? オリヴィエ・クレセントは偉大な人間だと」
「うんうん、オリヴィエさんは凄いですよ。本当に尊敬してます」
「ふふ、ありがとう、二人とも。二人に会えて本当に良かった」




