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いつだったか耳にしたことがあった。魔獣の多い地域でたった一人狩りを続けている術師がいることを。ただ殺し続けるその女はまるで機械のようだと誰かが言っていた。
そんなことをいまになって思い出し、まるで走馬灯だとマーリンは内心で笑う。首に痛みが訪れる直前、手刀の形で手を払っていたマーリン。放った斬撃は当然の如く避けられ、再び斬りかかってきたカナメに対し軽やかな身の熟しで彼は距離をとる。
首からは一筋の血。
後少し反応が遅れていたら死んでいた。その事実にマーリンが動じることはない。
相手の魔力は後数分で尽きる。風薙を使うも良し、距離をとるも良し。だが、それらの選択肢をマーリンは全て破り捨てる。
来いと言ったのは誰だ?
「逃げ腰で悪かった。ここからは」
体内の魔力を巡らせる。
瞬間、カナメの懐にマーリンは潜り込んでいた。
「思う存分やり合おうか!」
零距離で放たれた風斬。
それを見事に避けるカナメ。
先みたいに弾かないのはもう武器が保たないからだとマーリンは読んでいた。足場の悪さも相俟って魔術を避け続けるのは至難の業だろう。
どこかのタイミングで屋根から降りるだろうと予測していたマーリンの衣服が突如引っ張られ宙に投げられる。速度ばかりに気をとられていたが膂力も魔術の恩恵をしっかり受けている。そのことを彼は失念していた。
住宅前の通路に落下している中、指先は飛び降りてきたカナメをしっかりと捉えている。そこから放たれた風斬に思わずカナメは短刀で弾く。
砕ける音。
カナメの武器が破壊されたのを確認したマーリン。風薙の応用で着地を難なく熟した彼に、落下の勢いを利用したカナメの拳が襲いかかる。すんでのところで避け、彼女の拳が地面にめり込む。
揺れる地面。次いで繰り出される側頭部に向けての蹴りをマーリンは手の甲で受け止め、空いた片手で風斬を放つ。ーー袈裟斬りされた彼女の身体からおびただしい血が流れ、そこで漸くカナメの足が止まった。
終わりか。
肩をおさえ、いまにも倒れそうな様子のカナメ。だが、立ち止まっていたその足は再び動き出していた。
「わたしが」
血を流しながら、ふらふらとした足取りで。
「わたしがやらないといけないんだ……」
意識は朦朧としているように見える。
「母さんとサリアには、もう」
泣いてほしくないからと。
肩をおさえていたその手がゆっくりと伸ばされる。
血に汚れた手が白い首に触れ、そして、そのまま倒れ込んだカナメを彼は支える。
機械のようだと誰かが言っていた。
見当違いも甚だしい。
いまにも泣きだしそうな目をしていた彼女はまるで子供のようだったと少年はそう思った。




