4ー19
「ゔっ……ひっぐ……」
「泣くなよもう」
「うるさい……もっと優しくしろ……!」
はあ、とわざとらしい溜息。
リックが魔法薬を摂取してから出血も汗も引いていた。息切れもなく、ドレスを着た女性を抱えて駆ける彼の姿はまるで童話から出てきた王子様みたいだとクルミは思う。
そんなこと、死んでも言わないけど。
「あんなクソガキに負けた……ぐやしい……」
「あれは仕方ないって。化物だ化物」
「……ずびっ。リックの方はどうだったのよ……」
「負けだよ負け、オリヴィエも殺れなかった。あと俺の服で鼻水拭き取るな」
「いいじゃん、ぼろぼろなんだから」
「お互いにな」
気が付けば森を抜けていた。
空を見れば綺麗な月と散らばる星。
走り続けていたリックがゆっくりと歩き出す。
「とにかくシルバからは離れよう。あれだけ派手に暴れたんだ、いま頃騒ぎになっててもおかしくない」
「オリヴィエは」
「いまは諦める。警戒されてるし、俺達の名前も容貌も直ぐに広まるだろ。ヴァン達と合流して、これからどうするかを決めよう」
「……ごめん」
リックの服をぎゅっと掴むクルミ。
「私が、負けたから」
「俺も負けたよ。……らしくないな、クルミ。確かに俺達は負けたけど、それでもマイナスな話ばかりじゃないだろ。何せ解錠ができるようになったんだ」
それにと、リックが言葉を繋げる。
「ドレス、似合ってるよ。というか、そろそろ降りて自分で歩いて?」
「……やだ。足いたい」
「そうかい」
我儘なお姫様だと口にしたリック。
彼に身を委せ、夜の風が涼しい中、不思議に思うことがある。どうしてあの少年は追ってこなかったのかと。慈悲か、魔力切れか、理由は分からない。
いや、理由なんてどうでもいい。
敗北を知ったこの身が誓うことはただ一つ。
マーリン。
次こそは私が必ず勝つ。




