4ー18
カナメにもありがとうと頭を下げるオリヴィエ。「もう充分伝わりました」と微笑む彼女に少年は声を掛ける。
「無事か、カナメ」
「うん、私は大丈夫。……マーリン、思ってたよりもボロボロでびっくりしちゃった」
「言ってくれるな。だがまあ、正直強かった。カナメがもう一人を相手にしてくれたおかげだ、俺が勝てたのは」
カナメが何かを言いたそうにしていたが、口を噤む。オリヴィエがいたから自制したのだろう、何を伝えたかったのか少年には分かっていた。
「マーリン」
少年の名を呼び、翳していた手を離すオリヴィエ。
視線を下ろせば傷は見事に塞がっていた。
セシリアの腕も凄いが、オリヴィエの治癒はそれを上回る。礼を言おうとした少年の言葉を待たずにオリヴィエが口を開く。
「君の呪い、私が診よう」
驚いて、目を見開いた二人。
少年はオリヴィエの言葉に首を振る。
「オリヴィエ、俺は恩を売る為に助けたわけじゃない」
「勿論分かってる。君はきっと、困っていたら誰でも助ける素敵なひとだ」
むず痒い気持ちになる少年を見て、屈んだまま優しい笑みを浮かべるオリヴィエ。
「そんな君だからこそ、私は力になりたいんだ。信念も理由もいまはどうでもいい。君が助けてくれたように、私も同じことをしたいだけだ。この我儘、聞いてくれるかい?」
「……それは、断る理由がないな」
あまりにも自分にとって都合の良い展開だ。一番に会いたかったオリヴィエと偶然シルバで出会い、治してもらえるとは。これで一級術師を目指す理由もなくなった。
「よ、……よかったね、マーリン! これで元の姿に戻れるよ」
カナメの言葉に「そうだな」と頷く少年。
短い旅ではあったが、彼女とは信頼の置ける仲を築けたと少年は思う。カナメには本当に世話になった。
面と向かって、オリヴィエに頭を下げる少年。
「改めて。よろしく頼む、オリヴィエ」
「ああ、任せてくれ」
立ち上がるオリヴィエ。
彼女が手を差し伸べてきて、それを掴んでは少年も立ち上がる。
「さて、二人とも本当にお疲れ様。診るのは明日の朝でもよかったか? マーリン」
「それで頼む。今日はもう疲れ……いや、街に戻ったら教団員にも報告しないとな。随分と暴れた」
辺りを見回す。一言で表現するなら此処は惨状だ。樹は満遍なく折られ、形を変え、横倒しになっている。
「正直に話すしかないか。済まないがオリヴィエ、一緒に来てくれ」
「当然、そのつもりだ」
「一度狙われた以上、奴等はまた襲ってくるかもしれない。教団ともその辺りを話しておきたいな。念の為、今日は俺達と同じ宿に泊まってくれ」
分かったと返事をしたオリヴィエ。
夜も更けてきた。
「戻ろう、シルバへ」
そうして、踵を返す三人。
その間、いつもよりカナメの口数が少ないのを、少年は気に掛けていた。




