4ー16
「ゔっ……」
吐き気と眩暈が突如として訪れた。
魔剣を地面に刺し体を支える。
馬鹿か俺は、と自責するリック。注射器を即座に引き抜き、地面に叩きつける。
カナメがオリヴィエの魔術を授かったのは確認していた、そのときに受け取った道具だろう。
何故、失念していたのか。
理由は分かっていた。
紫電による数分間の痛み。敵が近接だけではなく魔術を見せたこと。そして仲間を信じることができなかった自身の弱さ。全てが繋がって当然の結果を招いたと内心で自嘲する。
紫電の痛みも相俟って、意識を保つのが限界なリック。
地面の揺れは、もう収まっていた。
「あっちも終わったみたいだね」
カナメの表情に、焦りは見られない。
それがいまのリックには不思議で仕方がなかった。
「……どうして信じられる?」
単純な疑問だった。
対峙している最中も、カナメにはまるで隙がなかった。
迷いのないその刃は、あまりにも美しい。
「仲間が殺されたかもしれないってのに、平然としていられるのは何故だ」
「マーリンを信じてるから。……それに、私が不安に思ったところでマーリンならきっとこう言うよ。『無駄な心配だ』って」
「…………」
言葉が返せなかった。
実力も、思いも、敗北していたと認めるリック。
ーー奥の手は使えない。
使えば状況は覆せる、が、クルミを助けに行くことは叶わなくなる。
「俺の負けだ」
魔剣を右手の陣で回収し、武器庫に仕舞ったと同時に道具を取り出す。
間髪を入れずにその道具をカナメの前に放ってーー
「いやだ」
地面から刺を出す。
「来ないで」
無情にも斬られる。
少年の傍に漂う黒い剣が、全ての攻撃を自動的に斬り伏せる。
「これは魔術を斬るのではなく魔力を斬る」
少年の歩みは止まらない。
恐怖で腰が抜けて地面に座り込むクルミが、そのままの姿勢で逃げようと後退りする。立ち上がる気力もない。汚れていく真紅のドレスに構わず、ただ化物から逃れようと必死に距離をとる。
「見事な解錠だったが、完全なる魔術なんてのはほぼ存在しない。魔術を構成する魔力ーーその脆い部分を見抜き、斬って無力化した。再生しないのもそれが理由だ。魔術として成立させない、いまはそれだけに特化させた」
「わけ、わかんない」
クルミの声は震えていた。
いまにも泣き出しそうな表情を少年は見下ろす。
「魔力なんて、見えないでしょ」
樹木を操ろうと地面に魔力を伝えたつもりが、何も反応が起きない。
絶望し、クルミは逃げることすら諦める。
「精神は魔術に反映される」
少年の足が立ち止まる。
空を遊泳していた剣が、粒子となって細かく夜空に散っていく。
青空を思わせる目が、こちらを覗きこむ。
「俺が怖いか? クルミ」




