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少年のマーリン  作者: 相澤カナデ
第4話 魔術王と魔術師

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53/67

4ー16



「ゔっ……」


 吐き気と眩暈が突如として訪れた。

 魔剣を地面に刺し体を支える。

 馬鹿か俺は、と自責するリック。注射器を即座に引き抜き、地面に叩きつける。

 カナメがオリヴィエの魔術を授かったのは確認していた、そのときに受け取った道具だろう。

 何故、失念していたのか。

 理由は分かっていた。

 紫電による数分間の痛み。敵が近接だけではなく魔術(かざきり)を見せたこと。そして仲間を信じることができなかった自身の弱さ。全てが繋がって当然の結果を招いたと内心で自嘲する。

 紫電の痛みも相俟って、意識を保つのが限界なリック。

 地面の揺れは、もう収まっていた。


「あっちも終わったみたいだね」


 カナメの表情に、焦りは見られない。

 それがいまのリックには不思議で仕方がなかった。


「……どうして信じられる?」


 単純な疑問だった。

 対峙している最中も、カナメにはまるで隙がなかった。

 迷いのないその刃は、あまりにも美しい。

 

「仲間が殺されたかもしれないってのに、平然としていられるのは何故だ」


「マーリンを信じてるから。……それに、私が不安に思ったところでマーリンならきっとこう言うよ。『無駄な心配だ』って」


「…………」


 言葉が返せなかった。

 実力も、思いも、敗北していたと認めるリック。

 ーー()()()は使えない。

 使えば状況は覆せる、が、クルミを助けに行くことは叶わなくなる。


「俺の負けだ」


 魔剣を右手の陣で回収し、武器庫に仕舞ったと同時に道具を取り出す。

 間髪を入れずにその道具をカナメの前に放ってーー







「いやだ」


 地面から刺を出す。


「来ないで」


 無情にも斬られる。

 少年の傍に漂う黒い剣が、全ての攻撃を自動的に斬り伏せる。


「これは魔術を斬るのではなく魔力を斬る」


 少年の歩みは止まらない。

 恐怖で腰が抜けて地面に座り込むクルミが、そのままの姿勢で逃げようと後退りする。立ち上がる気力もない。汚れていく真紅のドレスに構わず、ただ化物から逃れようと必死に距離をとる。


「見事な解錠だったが、完全なる魔術なんてのはほぼ存在しない。魔術を構成する魔力ーーその脆い部分を見抜き、斬って無力化した。再生しないのもそれが理由だ。魔術として成立させない、いまはそれだけに特化させた」


「わけ、わかんない」


 クルミの声は震えていた。

 いまにも泣き出しそうな表情を少年は見下ろす。


「魔力なんて、見えないでしょ」


 樹木を操ろうと地面に魔力を伝えたつもりが、何も反応が起きない。

 絶望し、クルミは逃げることすら諦める。


「精神は魔術に反映される」


 少年の足が立ち止まる。

 空を遊泳していた剣が、粒子となって細かく夜空に散っていく。

 青空を思わせる目が、こちらを覗きこむ。


「俺が怖いか? クルミ」



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