4ー14
「何を勝った気になってんのよ」
解錠をした魔術師と、していない魔術師とでは天と地ほどの実力差がある。
「私が負ける訳ない……だって、私は辿り着いたのよ? ヴァンやシャルと同じ場所に」
魔導の通説では、解錠後の魔術師を相手に戦うには同じく、解錠をしなければ戦いにすらならない。
だがそれは。
「だから、」
「話の途中で悪いが」
だがそれは。
魔術師に限られた話である。
「いつまで俺を見下ろしてる?」
それまで緩慢な動きを見せていた黒の剣が素早い回転をした瞬間、クルミは突然の浮遊感に襲われる。
「っ!」
根本を斬られ、横に倒れていく樹木。
落下の隙を狙われないよう掌を幹に置き、マーリンに襲いかかるよう地中の根まで魔力を伝えては刺を生やす。足場の為にまた新たな樹木をと考えたが、飛び移る前に根本を斬られては意味がないと判断し、全身に魔力をこめて落下の衝撃に耐える。
地面に手をついた状態から、ゆっくりと立ち上がるクルミ。
何度瞬きしても現実は変わらない。
クルミの魔術をその黒い武器は無に帰す。
「まさかとは思うが」
横倒れになった大量の樹木、人形の隙間を縫うように。目の前に立つマーリンが馬鹿にしたような表情を見せる。変わらず傍には宙を泳ぐ真っ黒な剣。
「これが本気か?」
癪に触る物言いに、我慢の限界が訪れる。
「……いいわ、理解らせてあげる」
地震。
クルミの足元から魔力を伝って再三襲いかかる刺にマーリンはうんざりとした顔で、直接手を下さず自動的に斬り伏せる。
「芸のない……お?」
少年が空を見上げる。
周囲の樹木が枝を伸ばしーー斬り伏せたそれらも含め、全てが意志をもって連結していくようにクルミの前に集まり、重なっていき、形を成す。
融合樹体 王蛇。
木製の大蛇、その大きな口から覗く喉に無数の棘が見える。獲物を喰らい、確実に殺すという意志が現れた造形。
「素晴らしい出来だ、クルミ。その礼に、まだカナメに教えていないことをお前に魅せてやろう」
呑み込めと主に命じられた王蛇が地面にぶつかる勢いでマーリンを喰らおうとする。
その間、黒い武具の柄を手にとった少年。
刃に指を這わせて、魔力がこめられる。
「この魔術が最大限の威力を発揮するのは、自身に適した武器に魔力を乗せて振るうことーー」
振り下ろされた不完全な剣。
その鋒から放たれるは、リックの刀剣を切断したときよりも遥かに強化された、
「ーー風斬」
静寂が、訪れる。
まるで、そこだけ時間が停まったかのように。
王蛇がマーリンを呑み込む寸前で、切断されていく。
真っ二つではなく、ばらばらに。
「あ……」
彼女は放心する。
たった一振りで。
その魔術は、クルミの心すらも裂いてしまった。
そして、枝葉を踏み潰し、ゆっくりと近付いてくる。
子供の皮を被った、小さな化物がーー




