4ー13
なら答えは単純だ。花の魔術で足止めをし、自身は花弁の範囲外に出て逃走を図る。ただし逃げる場所はおそらくーー初めて会ったとき、空に座していた少年を思い返す。
悩みは不要。地面に掌を置いては樹木を従い、幹を足場にしては空へと昇っていくクルミ。花弁の範囲外に出て、空から見下ろすことではっきりと分かる。
半円の形を描き、舞い続ける花弁。あの状態で行使したとは思えない規模の大きさに驚くが、それよりもと、思考を遮って辺りを見回す。
肝心の彼の姿が何処にも見当たらない。
「……?」
自身の考えが外れていると思わなかったクルミ。だが、よく考えてみたらと思い直す。あれだけ魔術を行使し、休むことなく人形の対応に追われ血を流し続けていた少年。彼は飛ばなかったのではなく、魔力切れで飛べなかったのだとクルミは結論付けた。
地上を見下ろす。少年の姿はなく、花弁の範囲外に待機させていた人形も人影に反応していない。となると、答えは一つしかなかった。
マーリンはあの場から動いていない。
「……あれだけ息巻いてたのに。本当に残念だわ、マーリン」
ゆっくりと屈むクルミ。
風で翻るドレス、幹に置かれた白い掌。
「せめて、一思いに」
さようならと、クルミが幹に魔力を流す。
幹に伝った魔力が地中の根に伝わり、そして、花弁の半円を無数の刺が突き破る。
花の嵐が、晴れていく。
先までクルミとマーリンがいた場所は人形ごと無残にーー
「ーーありえない」
花弁がひらひらと散る中。
月光の下、マーリンは其処に立っていた。
傍に、漆黒の剣を宙に浮かせてーー
地中から湧いた刺を、全て斬り伏せていた。
「不完全な顕現だが、仕方ない」
独りでにくるくると、緩慢に、不規則な動きで回り続ける真っ黒な武具。鍔の部分は膨らんだ円の形を描き、中は空洞となっている。
クルミの脳内に過ぎるのはリックの魔術。
そこまで考えて察する。
花弁による目眩しは逃げる為ではなく、全てはあの武器を取り出す為ーー
「なんで、最初から」
それでも理解ができない。
あの剣がクルミの魔術を裂いたーー目を伏せたい事実だが目の前の光景が否定を許さず、彼女は受け容れるしかない。
だからこそ、訳が分からなかった。
どうして最初からその武器を使わなかったのかと。
「何を戸惑ってる」
「何でいままで、その武器を……」
「ん? ああ、そういうことか。最初から使えよとそう言いたい訳だな。疑問に答えるなら、さっきまで使えなかったんだよ。お前と戦っている最中にこの魔術を創っていたから」
「はーー」
なにを言っているのかクルミには分からない。
魔術を創る?
面白くもない冗談に、怒りが込み上げる。
「意味が、意味が分からない。なにをいって、」
「ああ、正しい反応だ。魔術師では俺を理解できない」
遠目からでも分かる。
少年の口元が、笑みで歪んだのを。
それを見て、クルミの表情から一切の余裕が消えた。




