1ー5
カナメの刺突を躱したマーリンは流れるように背後の開けた窓に身を落とす。すぐさまその姿を追い外に出るカナメ。しかし、住宅間の細い通路にマーリンの姿はなかった。
「こっちだ」
空からの声に見上げる。向かいの屋根の上にマーリンは立っていた。騒ぎを起こさないために静かな場所へ移動したいのだろうかとカナメは推察する。
身体と得物に魔力を巡らせ、跳躍したカナメ。突然の急接近に目の前のマーリンは無反応だ。
騒ぎになる前に殺せばいい。
滞空したままのカナメはその白い首に向かって短刀を振り下ろすーーが、少年から小さな掌を向けられたと同時に、カナメの体が宙に吹き飛ばされる。
風薙。
対象を吹き飛ばすだけの魔術にカナメは面食らいながらも、向かい側であるマーリンの家の屋根に着地する。
厄介な魔術だ。近付くことができなければ戦えないカナメにとっての最適解ともいえる。
もっと速さをと、体内の魔力を走らせるカナメ。熱を伴う痛みが全身を包む前に即刻マーリンの背後に回る。
殺ったと確信するカナメ。
瞬時、マーリンが振り向き、魔術を放つ。
振り下ろした短刀が視えない斬撃に弾かれ、そのままの勢いで互いの距離が離れた。
「風斬を弾くか」
驚いていたマーリンだが、カナメもまた驚いていた。
反応が速すぎる。
魔術を放つ速度も異常だ。
『弱体化しているいまなら殺せます』
あの使いが目の前にいたら思わず斬りかかってしまいそうだ。弱体化? どこが? 目が腐っているのかと罵倒したい。
「やるなお前。俺を殺しに来ただけはある」
素直に褒めるマーリン。
その余裕が、優雅な立ち振る舞いがカナメには不快だった。足場の悪い屋根上で再び斬りかかるも風斬によって弾かれる。
状況は悪化する一方だ。
短刀ももう保たないだろう。
深い息を吐いたと同時にカナメは魔術を解放する。
夜に煌めく一瞬の光。
何かが爆ぜたような音が街に響く。
目では見て取れない身体の変化にマーリンは逸早く気付き迎撃の態勢をとっていた。
紫電。
肉体の負荷が酷い代わりに瞬発力を爆発的に高める魔術。膂力も速度も先の比ではないだろう。
互いの目が合う。
カナメの周囲で再び光と爆ぜた音。
マーリンの首に、刃の尖端が確かに触れた。




