4ー12
「ほらね? 見てられないわ、マーリン」
やれやれ、と言ったように両手を広げては首を振るクルミ。
燃やそうとも人形の再生に追いつくことができず、属性では解決しようのない魔術の差が確かにあった。
息を切らし、人形の対応に追われる傷だらけの少年を見て、クルミの目に憐れみが宿る。
「でも落ち込まないで。アナタは間違いなく天才よ。属性に囚われず様々な魔術を扱うなんて、その齢でどれほどの研鑽を積んだのか想像も難くない。アナタには心から感謝してるのマーリン。だから、諦めなさい。そうしたら見逃してあげる」
本心から言っていることがマーリンには伝わっていた。人形を相手に立ち回りながら、彼女の様子を少年は観察する。
「まだ何にも知らないでしょ、人生の楽しみを。私だってそうよ。オリヴィエはいいわ、もうきっと充分に楽しんだのだから。でもアナタはちが、」
「おい」
不快を露わにした声を出す。
耳を塞ぎたくなる戯言にそろそろ嫌気がさしてきた。
「さっきまで息の根をどうこう言ってた人間と同一人物か? 火を使った俺も大概だが、お前もよっぽどだ。それと油断はしないほうがいい」
マーリンの忠告に思わず微笑むクルミ。
「油断ね。しちゃうわよ。アナタは私よりも弱いんだから」
「勘違いも甚だしい、解錠如きで神様気取りか。その間違いを正してやろう」
時間は充分に稼いだーー
クルミの傍で、鈍重な足音。
少年から目を逸らし、横に目を向ければ破壊した筈のゴーレムがクルミを襲おうとしていた。
いつの間にか再生していた土人形に驚いたクルミだったが、ゴーレムの振りかぶった腕が彼女に届くことはなく、地面から突如生えた刺で串刺しにされる。クルミが不意を打たれたことで人形達の動きが僅かに止まったのは、主を護ろうと駆け寄るべきか否かの判断を迫られたが故。
「教えてやるーー」
その隙を突くように。
少年が魔術を行使する。
「ーー魔術王と魔術師、その違いを」
目の前で大量に舞う淡紅色の花弁。
その中でクルミは呆然と立ち尽くす。
偉そうなことを言っていた割に目眩しとはーー
ここ一帯を覆い、渦を巻く大量の花弁。少年の姿を見失ったクルミは油断を捨て、足音を聞き逃さないよう耳を澄ます。
もし私が彼ならばと考えを巡らせるクルミ。
マーリンもこちらの姿は確認できない筈。そもそも彼が単身、攻撃を仕掛けてくるとは思えない。背後をとられても返り討ちにできる自信がクルミにはある。それに少年は満身創痍だ、傷を癒すことは不得意なのか出血も酷い。




