4ー10
「使えるのは自分だけと思っていたか?」
「別に、そんなことは思ってないけど」
「そうか。でもまあ、同じ魔術だからといっても術師によって差は出る。だから、」
カナメの眼前からリックの姿が消える。
「身をもって教えてやるよ」
背後からの気配に、振り向いた勢いのまま短刀を振るうカナメ。互いの武具は弾かれ、距離を取らされる二人。
武器が破壊されるのも時間の問題だろう。
だが相手もまた、紫電の代償を支払っている最中。
攻めの姿勢を崩さないリックが距離を詰めてくる。視界で捉えることができない不規則な動きにカナメは動じることなく、聴覚を頼りに彼の攻撃を防ぎ、躱し続けた。
彼の言っていた通り、魔術は術師によって差が出る。カナメが扱う紫電の限界は本来二分程度、オリヴィエのサポートでどれだけの時間が延長されたかは不明。対してリックはどれだけ保つのだろうか。そして、あの右手にまだ眠っているであろう魔の武具。
状況を覆す一手が欲しい。
カナメが深く、息を吸う。
少年との遣り取りを、思い出す。
『基本、魔術師は一つの属性に縛られる』
『自身に適した属性、魔術を探すのに数年かかり、探し当てたそれを極めるのに人生の大半を費やす。寄り道なんてのはあまりに効率が悪い』
『だからオススメはしない。紫電をそれだけ上手く扱えるなら雷槍をーーほんと、意固地だな、カナメは。分かったよ、教えるよ』
『まずは深呼吸して、それからーー』
術式を脳内で描く。
淀みなく、丁寧に、線を形に。
出逢った夜を、思い出す。
リックの長剣を躱し、空いた片手を翳す。
ーー放たれるは風斬。
近接で短刀を振るう、術師よりも剣士に寄った動きのカナメから、意外な一手。それを前にリックは咄嗟の対応ができず、そのまま直撃し、傷跡を残す。
浅い。
動きを止めるほどの出血量ではないことに、カナメは自身の未熟さを痛感する。マーリンならもっと上手くやれたのにと。
「この魔術、さっきの子供からも貰ったな」
右手の陣からガラス瓶を取り出し、コルクの蓋を外してはその液体を傷跡にかけたリック。傷が見る見る内に塞がっていく。
「死ぬぞ、あの子供」
「……どうしてそう思うの?」
「どうしてって、さっきの寒気、感じただろ? あれを俺は知ってる。間違いなく解錠だ。クルミは俺達とは違う次元の存在に成ったんだ、勝てる訳がない」
「言い切っていいの?」
「あ?」
「勝てる訳がないって誰を相手に言ってるの? ブリタニアも、エルドラも、彼に敵う魔術師はこの先一人としていないーーだって彼は、マーリンだから」
「世迷言を。気が触れたか?」
「直ぐに分かるよ。どっちが正しいか」
最初からカナメは彼の心配をしていない。どんな絶望的な状況であろうとも、マーリンなら覆せると彼女は心の底から信じていた。
会話は終わり、再び刃を交える二人。
常人では目で追うことができない高速の戦闘、夜の森に咲き続ける魔術と剣戟の光。
二人の魔術師はその身命を賭し、刃を振るう。
互いに決着は近いだろうなと、予感を抱きながら。




